SCAR FACE SITE

前画面へ
この絵をクリックすると前画面へもどるぜ



◆ 残酷な記憶

 俺は黙ってベッドから体を起こした。
 傍らに――まるで満腹したライオンのように横たわっている、マルス。
 ……こいつと出会ってから、もう半年くらいになるんだな……
 その間に、いったい何度こうして抱かれたのだろうと数えようとして――やめた。
 今更だった。
 夜半過ぎに突然やってきたマルスに、言葉もなく嵐のように抱かれたのが最初だったと思う。
 初めて会った頃、濡れた俺の体を戯れるように撫でまわしたマルス。
 その姿とのあまりの違いに最初は戸惑ったが、それでも――。
 何だかせっぱつまったような――追い詰められた獣がすがりついてくるような、マルスの腕の
 愛撫とも言えない愛撫に、抵抗しきることができなかったのも、俺なのだ。  
 そして今夜も、マルスはやはり前触れもないままここに来て、俺を抱いた。
 「痛ッ……」
 乱暴に扱われ、まだどこか力が抜けたままのような腰。
 訓練の疲れもあって、体は異常にだるく重たい。
 だが、このまま眠ってしまうのも、何だか気分が悪かった。
 ……仕方ない……な……
 俺は無理矢理ベッドから下りると、シャワーを浴びに立った。
 ……こんなことに馴れてしまうというのも、どうも妙な気分なんだが……
 眉をしかめて体を清めるが、汗も――その他のものも流れたのに、まだ何か体に残っているような気がする。
 バスルームから出ても、すぐにベッドに戻る気にもなれない。
 ……この時間なら、さすがに誰もいないだろう……
 かるく一枚ガウンをはおっただけの姿で、俺は音をたてないようにドアを開いた。
 まだ疼きと熱っぽさの残る下肢にとまどうままに、俺はマスクもつけないまま外へと出ていった。

 薄暗い闇――半分地下に潜っているのに等しいこのアジトでは、星など見えない。
 ところどころに置かれているアナクロな篝火を光源に、俺は手頃な岩に背をもたせかけ、大きくひとつ、息をついた。
 マスクをつけない顔にあたる、冷たい風が心地よい。
 ……そういえば……
  ふと、その感触に記憶が揺さぶられる。
  家を飛び出し、もうロビン家のしきたりに捕われる必要もないというのに、いまだマスクを手放さない理由。
  それは――マルスがそうしろと言ったからだ。
 ……マスクの下の俺に、けっこうこだわるんだよな、マルス……
  普段は隠されている顔をあらわにするのは、どうしても気恥ずかしさがいまだに伴う。
  慣れないせいか、それとも表情が出るからだろうか。
  実際――ここに来たばかりの頃に犯されつづけたことにも、マスクに手をかけた奴がいなかったことで俺は
 耐えられたのかもしれない。
  なのにマルスは最初から、俺のすべてを見たがった。
  普段は人前で素顔を晒す習慣がないことを知ると、無理矢理マスクを剥ぎ取った。
  口唇だけではなく、頬に、額に、そして瞼にまでも接吻して――……。
  その行為は、まるで所有の印を捺そうとしているかのようだとさえ思った。
  しかもその後、マルスは自分以外にマスクの下の素顔を見せるなと言ったのだ。
  そこまで思って、俺はふと浮かんだ自分の思考の可笑しさに喉を鳴らした。
 ……マスクの下の俺は、マルスだけのものだってことか……?……
  実際、マスクをつけないままでマルスに抱かれるのには、恐ろしいほどの羞恥を覚えた。
  嫌がって顔を隠そうとしても、マルスはそれを許さなかったのだ。
  しかも、そんな俺はいつしか――口唇や舌を使うことも覚えさせられて――……。
 「……」
 篝火が揺れる。
 みだらな記憶が俺の眼をふと霞ませる。 
 その時、だった。
 「ケビン? ――おまえ、ケビンマスクか?」 
 思いがけなく声をかけられ、俺ははっと我に返り、振り返った。
 「MAX……」
 肩から腹にかけて、特徴的なカーブを描くライン。
 MAXマン。
 祖父スニゲーター、父スニゲーターJr.の遺志をついで、キン肉王家打倒に燃える若手超人のひとりだ。
 「マスクをつけてねぇから、誰かと思っちまった。 ――どうだ? ここの生活には慣れたか?」
 「ああ……だいぶな」
 俺の答えが、歯切れの悪いものになってしまったのは仕方ないだろう。
 テルテルボーイとふたりで俺をdMpに勧誘したのもこいつなら――死魔王に最初に俺をひきあわせたのも、
 こいつなのだ。
 その後、俺が何をされたのかは知らないのだろうが――。
 「そうか、そりゃよかったな」
 皮肉とも本音ともとれない声で言うと、MAXマンは腕を組んで俺の前に立った。
 「なァ、ケビン。ところで――」
 軽く眉間に皺をよせて、不可解そうに言葉を区切る。
 「……おまえ最近、マルスの野郎とつるんでるんだって?」
 真剣な声音。
 だが、その言葉に妙なおかしさを感じた俺は、思わず顔をかすかに歪めた。
 「何を笑ってんだよ」
 「いや――このdMpにも俺のことを気にするような奴がいたとは思っていなくて――な」
 ……英国の――ロビン家にいた頃ならいざ知らず……
 続く言葉も、おかしさとともに俺は呑み込んだ。
 「ンなこたァどうでもいい。マルスの野郎とのこと――本当なのかよ」
 「言っている意味がわからない。確かにこのところ、マルスと一緒にいることが多いのは事実だがな」
 MAXマンはわずかに眼を逸らして、言った。
 「――やめとけ。悪いこたァ言わねえから、あの野郎とかかわるのだけはやめといたほうがいい」
 「何だそれは――どういうことなんだ? MAX」
 「……このdMpは悪行超人の集団で、たいていのコトは許される。だがな――アイツはちょっと違うんだ。
 あいつと組んでた奴で、今も無事に生き残ってる奴なんか、ひとりもいねぇんだよ」
 「単なる偶然だろう?」
 俺は思わずそう応えていたが、MAXマンはそれを聞いていないかのように続ける。
 「あいつは力の信奉者なんだよ――このdMpには合わねぇ。自分の味方……気が合って一緒にいたような奴だって、
 自分が認めるくらいの力がないコトがわかりゃ、平気でつぶしにかかるんだよ!」
 「……」
 「それに――ひと役かってるのが、あのマッドネスマスクさ。あいつが眼のところにマスクを下ろしたとき……」
 「そこまでにしときな、靴野郎――」
 その時突然、高みから声がかかって、MAXマンはその言葉を止めた。
 「マルス!」
 身軽に高い岩場から飛び降り、マルスは俺たちとは少し離れた――警戒の位置に立った。
 ……俺にも、警戒しているのか? マルス……
 ふとマルスの視線と行動に違和感を感じて、俺の脳裏にそんな思いがよぎる。
 ……俺の、いったい何を警戒しているんだ?……
 マルスは口唇を歪めて、酷薄な笑みを零しながら告げた。
 「そうじゃねぇと……テメェが次に、俺につぶされるんだぜ――?」
 「ぐっ……」
 気の毒な言い方かもしれないが、こんな場面においても、リングにおいても、マルスの方がMAXマンより
 一役も二役も上であることは明らかだった。
 不毛な会話――それを早く終わらせたかった俺は、MAXマンに告げた。
 「MAX、それが本当のことだったとしても……俺にはマルスが認めるくらいの力があると信じてるさ」
 無言で俺に視線をあてるふたり。
 「それに、それくらいの実力がなけりゃ――どうせいつかは死ぬんだろう……?」
 マルスは軽く笑った。
 そして、ようやく警戒の位置をとき、俺に近づいて促した。
 「……行こうぜ、ケビン」
 「ああ。――またな、MAX」
 まだ物言いたげに、だが黙って見送るMAXマンをその場に残して、俺たちはその場を去った。

 さっさと先に立ち、俺の前を歩くマルスが、振り向きもせずに突然声をかけてきた。
 「あの靴野郎と、何を話してたんだよ?」
 「たいしたことじゃない。最近、俺がおまえと一緒にいることに警告してきたんだ」
 鼻で笑って、マルスは続ける。
 「テメェに気があるんじゃねぇのか?」
 「そんなことはないと思うが……」
 「俺が禁止したのに、マスクも着けねぇでウロウロしてやがるし――オマエ、けっこう狙われやすいんだぜ?」
 子供っぽい口調――それはどこか、嫉妬にもまだ満たない、幼児の独占欲の発露にさえ思えた。
 そして、ふと気づいた。
 さっきのマルスの警戒の理由。
 ……俺がおまえの過去の行動を知って、おまえのもとから去ることを恐れたの……か……?……
 まさかとは思った。そんな――寂しい子供のような真似を、この男が、と。
 だがそう思ったとたん、これまでのさまざまな行動の符号がぴたりと合った。
 ……俺を、自分ひとりのものにしたかったっていうのか?……
 マスクの下の、誰にも触れさせたことのない素顔を支配したがったこと。
 自分以外の者の前で、マスクを取るのを嫌ったこと。
 俺を見張り、そしてタイミングよく俺たちの前に現れたこと。
 そして、今の――どこか拗ねたような表情。
 ……マルス……
 なんだか急に、俺はこの男を抱きしめてやりたくて仕方がない衝動にかられた。
 恐ろしい男――獲物の血にまみれた姿が最も似合う、残酷な男――。
 なのに今、その背には、どこか幼い子供の影のようなものが宿ったままのような気さえする。
 寂しい――ひとりぼっちの子供の影が――。


 部屋に戻ってドアを閉めたとたんに、マルスは俺の肩口に顔を埋めてきた。
 「なァ――もう一回やろうぜ、ケビン。今度は乱暴にはしねぇから……さ」
 口唇をゆっくりと押しあてて滑らせ、喉にまでいくつもの痕跡を残してゆくのがわかる。
 「冗談だろう? もう……夜明けが近いんだぞ?」
 「時間なんか関係ねぇよ」
 たくましい腕が俺を抱く。
 すでに兆している前を押しつけて、熱さを俺に伝えながら、マルスはさらに囁いた。
 「相手してくれねぇと……新入りのガキでも捕まえて、コレ……突っ込んじまうぜ?」
 耳にふきこまれる言葉。
 「優しいケビンおにいさまはガキどもの代わりに、ケダモノの俺サマの相手をしてくださるんだよな?」
 俺は軽く溜息をつくと、マルスの下着の中に手を滑らせてじかに握った。
 かるく煽るように数度、扱く。
 息をつめたマルスに、深く、舌を絡ませて口づけたあとで、俺は耳元へ口唇をよせて囁いてやった。
 「――本当に、乱暴にはするなよ……?」
 それを聞いて、今度はマルスが接吻してくる。
 そのままもつれあうように抱きあって、俺はベッドの上に押し倒された。
 
 優しい――とはやはり、とても言えないだろう。
 だがマルスの手はいつになく熱く、まるで俺を初めて抱いたときのように、全身へと滑っていった。
 それは俺を――ここに俺がいるということを、確かめているかのようにさえ思えた。
 応えるように、俺はマルスを抱きしめる。
 いくつもの接吻。
 そしてようやく安心したように、さっきの熱と疼きがまだ残る部分をマルスは貫いた。
 深々と俺をえぐるような硬さ。
 ゆっくりと、マルスは動いた。
 「……っ……あ……」
 馴れのせいだろうか、それとも一度、味わったばかりだったためだろうか。
 俺の体はいきなり反応していた。
 「何だよ、ケビン……」
 楽しげにそんな様子を眺め、マルスはみだらに囁く。
 「……いいコト考えたぜ? オマエが上になって――好きなように動いてみろよ」
 俺を抱きすくめると、器用にマルスは体を入れ替えた。
 「……ううっ……」
 思わず呻いたのは、俺の体が自然に応えて動き――快楽の味わえる位置を求めたからだ。
 腰を軽くとらえたマルスの手は、一切の要求をしない。
 しかたなく――俺は自分で、その猥褻な動きをはじめるしかなかった。
 「あ……ふ……」
 吐息とともに声が漏れる。
 「……オマエって……そんなふうに動くのが好きなのかよ……?」
 眼を細めて俺を眺めるマルスの言葉に、かっと頬が熱くなる。
 観察されている――そんな恥ずかしさに、俺は思わず切り返していた。
 「う……っ、うるさいぞマルス! 
 おまえ、もしかして……腰を使うのに疲れたからって、俺を上にしたんじゃないだろうな……?」
 ぐっと俺の腰をつかむ手に力が入った。
 マルスが笑う。
 「そんな生意気なコト言ってると――泣かせちまうぜ?」
 その言葉が終わらないうちに、下から突き上げる動きがはじまった。
 「うああ……っ!」
 反射的に背を仰け反らせて逃れようとするが、マルスはそれを許さなかった。
 それまでの俺の動きに合わせて、熱くうねる体。
 愉悦の波が襲いかかる。
 苦痛ではなく、どこか衝動にも似て、あふれる涙。
 「あ――……ッ……あ……あっ!」
 喉を貫く叫びとともに、俺は達した。
 それにつられるように、マルスも数度激しく腰を突き上げて――俺の中へと放った。
 熱い感触。
 痺れきったようなその部分なのに、なぜかそれは異様に生々しく感じられて、熱い喘ぎの止まらない口唇からは、
 その放出のリズムに合わせるように濡れた声が漏れる。
 やがて――満足げに大きく息をついたマルスの上に、俺はぐったりと身を倒した。
 たくましく上下する胸に揺すられる感覚が心地よい。
 マルスの手は、俺の長い髪をもてあそぶように撫でていた。
 ややあってから、マルスはそっと引き抜くと、俺を自分の上から下ろし、隣へと横たえる。
 「本当に――泣かせちまったな」
 一度やさしく接吻したあとで、その口唇を俺の瞳へと移動させ、頬にまで伝っていた涙を舐めた。
 ククク……と満足げに喉を鳴らして笑い、さらに続ける。
 「そんなによかったのかよ? あんなふうに叫んでイッちまうなんて、初めてだったもんな?」
 「おまえが……いつも、乱暴、だからだ……!」
 強気に言い返すものの、まだあがったままの息ではどうも――格好がつかない。
 「生意気なヤツ――……」
 さらにマルスは笑い、もういちど深々と俺に口づけた。
 夜明けが近い。
 朝の光――このアジトにもどこからか差し込む薄い光が、ぼんやりと周囲を染めている。
 疲れ果てたまま、俺はもうシャワーを浴びに立つ気力もなく眠りにつこうとしていた。
 そのとき、ふとマルスが言った。
 「……ケビン、オマエは強いよな?」
 気怠い思考――半分眠りにおちつつ、俺は応えた。
 「そうありたいとは、思っているぞ?」
 その言葉を聞いたマルスは、ためらうようにわずかな間をおいて続けた。
 「オマエは――オマエだけはオレのこと、裏切らねェよな?」
 「――……」
 俺は確かに何かを答えた。
 だが、すでに甘美な眠りの国をさまよっていた思考では、それを記憶にとどめておくことはできなかった。

 ――俺はあのとき、いったい何と答えたのだろう。
 そして、マルスはその答えに満足したのだろうか。
 それからも俺たちの関係は変わらなかった。
 ともに肉体を鍛え、技を学び、強くなることに邁進した。
 マルスはそれからも、夜中に訪れては俺の体を抱いていった。
 だが、その手も口唇も、それまでよりふしぎに優しくなった――ような気がする。
 
 残酷な記憶――これは、俺の罪の記憶だ。
 あの入替戦。自分の正体を明かさぬまま新世代超人のひとりとして闘ったマルスを、俺は許せなかった。
 名を隠し、自らの過去を隠したマルスの真実の目的がどこにあったのかなど、俺は知らない。
 ただその行為が、過去を消し、そして3年をともに過ごした俺までも消そうとするかのように思えて、怒り――
 恐怖すら感じたのだ。
 だが、この夜の出来事を思い出すたびに、俺はいまも残酷なことをしてしまったのだという思いにかられて仕方がない。
 迷いの日々――正直でありたいと願い、しかし、マルスの望むまま沈黙を守ってやりたいとも感じていた日々。
 結果として、俺はマルスの正体をあかすことを選びとった。
 間違っていたとは思わない。
 しかし――あの瞬間のマルスの瞳が、今になっても忘れられない。

 俺はマルスを裏切った。
 俺は、あのとき感じた寂しい子供を――傷つけてしまったのだから。

      〜 Fin 〜
しつこく続きを書いて〜!といったリクエストにちゃんと答えてくださったQUEEN様!
ん、もう〜〜、ケビン君、もてもてですね(笑)掃き溜めの中の鶴(笑)そしてそんな鶴に
いけないことを教え、みさかいなく苛めるケダモノスカーも、もはや最低の域を超えていてOK(笑)
子供みたいにわがままを言うスカーと、そのわがままが嬉しいケビンはもはや両思い??
ああ、いいです〜〜♪なんだか興奮してしまいました(妖!!)(Noriko)

俺の願望を見事果たしてくれたなァ、女王様?。礼を言うぜ!かわいいよな〜ケビンのヤツ(笑)
  あーいうお高くとまった美人を泣かすのも俺の趣味なんだよ。ふふふ・・・そりゃあれだけ
かわいいこといってくれるなら独占欲も出るさ。い〜い思い出だな?鉄仮面さんよ〜?(スカー)

(怒!!)なんだっあいつは!誰にでも手を出しやがって!!俺にも同じよ〜なこと言って
  くどいたくせにっ!も〜信用ならん!!覚えてろよ〜!(嫉妬してる匿名J君(笑))

うるせーな。軟体超人とヘンなことやってたのはどこのどいつだよ・・・(呆)(スカー)