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◆ 薄闇の序曲

 「……ッ」
 体の芯に残る激痛に顔をしかめながら、俺は半身を起こした。
 岩だらけの薄暗い場所――dMpの隠れアジトのひとつだ。
 「無茶しやがったな、あいつら……」
 初めてここを訪れたときに、新入りとしての挨拶がわりと死魔王に犯されて以来、先輩格の悪行超人どもに
 ちょっかいを出されることはざらだった。
 そして、今日はただ、それがちょっとエスカレートしただけだ。
 ぐらぐらする頭。いつもは気にならない鉄仮面すら、ひたすらに重い。
 幸いあたりに人の気配はない。
 もう一度、俺は体を土の上に横たえた。
 ……ここが、本当に俺の探している超人の理想郷なのか……?……
 力こそが上下関係の基。それを高らかにうたいあげるdMp。
 超人が闘うために存在している以上、それが正しいことだと思ってはいる。
 だが……何かが、違う。
 理想と言うためには、何かが。
 目を閉じて、少しだけ休もうとした俺の頭に、そのとき何かが降りかかってきた。
 「……!」
 さっと体をずらし、痛みに顔をしかめながらも、その正体を見極めようとするのは超人の本能的な動作だろうか。
 「何だ、正気じゃねぇか」
 気配も感じさせずに俺の前に立っていた男がそう言った。
 鋭い尖りをいくつも垂らすマスク、鳥のような印象の逞しい超人。
 手に握られているのは、酒の瓶だ。
 マスクにかけられたのは、では、その中身なのだろう。
 その男は、俺の胸に栓をしなおした瓶を放った。
 「気つけの酒だ。オマエにやるよ」
 「……知らないヤツから物を貰う気にはなれない」
 ちょっと驚いたような顔をした男は、ついで、笑いだす。
 「面白いヤツだな。このdMpでそんなこと言うヤツにはお目にかかったことないぜ? 欲しいものは奪え、
 って野郎ばかりだからな」
 側の手頃な岩に手をかけると、身軽にそいつはそこに腰を下ろした。
 「新入りか? 見たこともねぇし、ここの雰囲気に染まってもいねぇもんな?
 おい、鉄仮面」
 「俺の名前はケビンマスクだ。その呼び方はやめろ」
 一瞬、しまった、とは思った。
 ここで本名を名乗るつもりはなかったのだ。
 だが、そいつはその名を追求するつもりはなかったようだった。
 「じゃ、ケビン。悪いこたぁ言わねぇからさっさとその酒を飲んどけよ。この訓練所にはもうじき、
 血気の多い野郎どもが集まってくるんだぜ?そんな中で、犯られたまんまの格好で転がってたら……
 何が起こるか想像つくだろうよ」
 ぞくりと背を走る悪寒。
 「もしその酒を飲んでも動けないなら…まあそれでも、多少なりとも酒で気を確かにはもてるだろ?」
 ククク……と陰惨に笑う顔を、俺は軽く睨みつけた。
 そして軽く上体を起こし、酒瓶の栓を抜くと、一気に喉を鳴らして飲み下す。
 恐ろしく強い酒だ。口唇から、舌から、滑らせたとたんに蒸発してゆくような感触。
 「いい飲みっぷりだ」
 眺めつつ、そいつは楽しげに言う。
 瓶の三分の一ほど入っていた酒を最後の一滴まで飲み干すと、俺は瓶を傍らに置いた。
 そして、一拍の間をおいて尋ねた。
 「……おまえの名前は何と呼べばいいんだ?」
 「マルス、だ。だが何故そんなことを聞く?」
 俺は岩の上に座るマルスを見上げた。
 「……おまえの親切に感謝する、マルス」
 一瞬の、戸惑ったような表情。
 そして、マルスと名乗った超人はさもおかしげに笑いだした。
 「やっぱり面白いヤツだな、オマエ」
 だが不思議なことに、俺はその笑いに不快感は覚えなかった。
 
 そして――情けないことだが、俺は結局マルスの肩を借りなければ、その場から動くことができなかった。
 「しょうがねぇな。ま、乗りかかった舟ってやつか」
 そう言いながらも、ぐっと乱暴な動作で腕をとり、肩にかける。
 思わず苦痛に体を震わせた俺の様子に、マルスはじっと俺を上から下まで眺めた。
 「相当強烈にダメージくらってやがるな。何人だよ?」
 「……たぶん、5人」
 「そりゃきつかっただろうな。まあ、気にすんなよ。俺だって昔はそうだったさ」
 「おまえもこんな真似をされたのか? マルス」
 「力と血の気のありあまってる連中ばっかりだからな、ここは。まあ、最初のうちはしょうがねえさ。でもな……」
 軽く言葉を切って、マルスは俺の眼を見た。
 「弱けりゃ、それが永遠に続くんだぜ?」
 「ああ、わかっている」
 俺は頷いた。
 「力があれば――どんなに上にでも行ける。それがdMpなのだろう?」
 「ま、それだけでもないような気はするけどな」
 俺たちは――俺はマルスの肩を借りて――歩き出した。
 「とりあえず、強くなけりゃ生きてもゆけねぇ。それがdMpさ」
 土と石の地面を踏む足。
 しばらくそんな場所ばかり歩いていた後に、俺たちはようやく木々の生い茂るあたりにまで出てくることができた。
 遙か上の方から木々の葉にさえぎられて、だが確かに陽の光が零れてくる。
 石と土の地面とは比べものにならないほど柔らかな草の上に、マルスは俺を座らせた。
 「ここまで来りゃ大丈夫だろ」
 それだけを言うと、そのままさっと身をひるがえし、今来た方へ去って行こうとする。
 「あばよ、鉄仮面」
 「ケビンだ!」
 思わず怒鳴った俺を振り返ることもせず、マルスは高く笑いながら姿を消した。
 「……」
 俺はそのまま木にもたれた。
 ……面白いヤツ、か……
 痛みをごまかすためにも効果のあったさっきの酒が、体を動かさなくなったとたんに効いてきた。 
 眩暈にも似た感覚に眼を閉じると、穏やかな空気に眠気さえもよおしてしまう。
 ……おまえこそ、面白いヤツじゃないか……
 静かに風がわたった。
 ……悪行超人だらけのdMpで親切にされたのなんか、初めてだぞ?……
 なかば眠りにおちながら、最後に俺は出会ったばかりの男の名前を反芻した。
 ……マルス……


 そして、数週間が過ぎた頃に、ようやく俺はマルスと再会することができた。
 「よお、あのときの鉄仮面じゃねぇか」
 血にまみれた姿のまま、片手をあげてマルスは俺に笑いかけた。
 「何だ……その姿!」
 ぞっとするほどの大量の血だ。
 戦いの後に特有の、強烈な眼の光。
 「ああ? ただちょっと喧嘩しただけだぜ?」
 「喧嘩だと? リングの上での戦い以外はするべきではないだろう!」
 そんなギラつく眼を細め、不審なものでも見るように、マルスは俺に視線をあてた。
 「……おい、鉄仮面。テメェはそれなりに強くなったようだがな、それでも勘違いして乗りかかってくるヤツは
 いるだろう?俺は、自分の身を自分で守っただけだぜ?」
 少し言葉を切って、さも楽しい表現を見つけたように口元を歪めながら続ける。
 「オレさまは、自分の『貞操』を守ったのさ」
 「……」
 親父に習った格闘技術で、それまでに俺はdMpの中でもそれなりに見られるようにはなっていた。
 先輩格の連中に襲われるようなことは、ほとんどなくなっていたのだ。
 しかし――確かにそれでも不意に襲ってくる奴はいる。色々な意味で、ここは危険な場所でしかない。
 そしてマルスは、そんな奴のひとりを叩きのめしたのだ。
 「だが……その血を見ればわかる。少しやりすぎだぞ、マルス」
 「悪行超人に『やりすぎ』なんて言葉はねえぜ? とことんまでやらなけりゃ、いつかこっちが
 やられるんだからな」
 「そのとおりだが……」
 「グダグダうるせぇよ」
 途端に、どことはなしに不満そうな表情を浮かべると、マルスは俺に背を向けた。
 そのままさっさと歩き出す。
 「何処へ行くんだ?」
 俺が思わず声をかけてしまったのも、そこに子供じみた感情の揺れを感じたためだ。
 「うっとおしいこの血を落としにいくんだよ! テメェみたいな奴にうるさく言われるのは好きじゃねぇからな!!」
 思わず噴きだしそうになったのを、俺は寸前で止めた。
 その雰囲気を敏感に感じたのだろう。
 マルスはくるりと振り返った。
 「何なんだよ! テメェは!!」
 その頬がわずかに怒りとは違う朱に染まっていたのは、俺の錯覚ではなかっただろう。
 「俺も行くよ。訓練の汗を流したいんだ」
 「……うっとおしくするんじゃねぇぞ」
 ムッと表情を変えながらも、マルスは拒まなかった。
 そして俺たちが行ったのは、ちょっと古いタイプの水場だった。
 湧き水を利用して、冷たい水を充分に使えるのだが、不思議と利用する奴は少ない穴場だ。
 俺たちがそこに着いたときも、そこにはやはり誰もいなかった。
 つよい腕で水を汲み、マルスはバサ……と音をたてて、着ていた血塗れのコスチュームを脱ぎ捨てた。
 薄暗い岩場のアジト。どこかからわずかに差し込む光が、その逞しい肉体に凄みの陰影をつけている。 
 全裸になったマルスに、俺は一瞬本気で見惚れた。
 軍神の名にふさわしく、その肉体は見事なまでに鍛えあげられていた。
 筋の動きのひとつひとつまでもが、薄闇の中にも美しく重々しい。
 「冷たい水じゃねぇと、こんな血は落ちねぇもんな」
 木桶の中に汲んだ水にコスチュームを投げ込む。
 そして、おもむろに別の手桶を取ると、マルスは頭からその水をかぶった。
 はねる滴。野生の肉食獣が水に戯れる姿そのもののような印象。
 「……なんだよ鉄仮面。テメェも水浴びに来たんだろうがよ」
 軽く頭を振って滴を振り落とすと、ふたたびつよい腕で汲んだ水を、今度は俺に向かって浴びせかけた。
 「う……わっ!」
 dMpのシャツをびっしょりと濡らす水。
 マルスが笑う。
 「どうせ洗うんだろ? だったら丁度いいじゃねぇか」
 さらに2度、3度と水がかけられる。
 マスクの中にまで入った水に、俺はちょっとだけ噎せて咳き込んだ。
 「おっと……」
 それを見取って、マルスはさすがに手を止める。
 「そのマスクも取っちまえよ」
 「……そうだな」
 キン肉王家と違って、ロビン家では素顔を見られたら死なねばならないというような掟はない。
 ……いや……
 ふと心で自嘲する。
 ……もうあの家に、こだわらなくてもいいんだ……
 俺はマスクに手をかけ、そっとはずした。
 「ヘェ……なかなかいい面構えだな」
 「久しぶりだ、素顔を人に晒すのは」
 解放されたようなすっきりとした感触。
 顔に触れる冷えた空気と水が心地よい。
 ついで、シャツを脱ごうとして、思いがけず肌に密着する布に俺は戸惑った。
 「おっと……」
 わずかにバランスを崩してよろけた俺を、マルスが受けとめる。
 「ああ、悪いな」
 だが応えはなく、俺を受けとめた手はそのまま腹にまで下がっていった。
 ……?……
 濡れてまとわりつくシャツをそっと捲り上げる感触。
 「……脱がせてやるよ」
 意味ありげな囁き。
 ククク……と、喉を鳴らす笑い。
 「……」
 俺はその手が肌を滑るのにまかせながら、黙って様子をうかがっていた。
 そっと俺の背にまわりながら、シャツの首を通したところで、マルスはその動きを止めた。
 「マルス?」
 肩の下でわだかまるシャツを掴んで、俺の腕を動かせないように縛りあげる。
 「油断大敵だよな? 鉄仮面」
 背からそのまま俺を抱きしめ、マルスは手を胸元へと滑らせてまさぐった。
 長い髪のかかる肩に口づける。
 突然ではあったが、技巧のある愛撫の手だ。
 「……くっ……」
 体が自然に戦慄いた。
 「楽しくやろうぜ?」
 するりと手が下半身へと下がった。
 瞬間。
 「グウ……ッ!」
 俺は軽く体をよじってその腕から逃れ、腹に一発、蹴りを見舞ってやった。
 さっと飛びすさったマルスから視線を逸らさず、からまるシャツから腕を抜く。
 「なかなか強烈にカマしてくれるじゃねぇか」
 腹を押さえ、庇いながら、それでもどこか楽しげだ。
 俺はそんなマルスに近づいた。
 「そろそろ覚えてくれ。俺の名はケビンだ」
 不敵に笑ってマルスは応える。
 「ちゃんと覚えてるぜ。鉄仮面野郎」
 「それから……」
 ちょっとかがみ込み、俺はマルスに接吻して言った。
 「俺だって、自分の『貞操』を守ってみたんだぜ……?」
 奇妙な表情がマルスの顔に浮かび、一瞬後――笑いが爆発した。
 俺も笑った。こんなに思いきり笑ったのは、久しぶりだった。

 ややあって、いくぶん笑いが落ち着いた頃、ふとマルスが言った。
 「テメェとは何だか気があいそうだな」
 「奇遇だな。俺もそう思っていたところさ」
 「爺の敵討ちだとか、痛みを感じない特訓だとか――変な奴しかいねぇし。単なる喧嘩バカ野郎の集団だと
 思ってたが、まあdMpも捨てたもんじゃねえな」
 「そうだな……」
 俺はマルスの言葉に微笑んで応えた。
 ……俺の探す超人の理想郷とはちょっと違うかもしれないが、だが……
 「おまえみたいな面白い奴と出会えたのも、dMpに入っていたからだものな」
 「それは俺の台詞だぜ、鉄仮面」
 ちょっと顎をあげての挑発的なしぐさ。
 それが堂に入っているのが、マルスなのだ。
 何とはなしに、そのしぐさのひとつひとつが俺の眼を惹きつける――不思議な魅力がある男。
 俺は、いつしか興味をかきたてられていた。
 「今度――訓練につきあってくれるか?」
 どれほどこの男は強いのか。今はそれをも知りたい。
 にやりと笑って、マルスは応えた。
 「訓練だけじゃなくて、ベッドにも誘ってくれると嬉しいけどな」
 「ふざけた奴だ」
 俺たちはもう一度眼を見交わして、笑った。

 それは――それから3年にも及ぶ俺のdMpへの所属を決定した瞬間だった。
  
 3年の間には、実にさまざまなことがあった。
 訓練中マルスに命を救われたこともあった。
 はからずも俺はdMpから抜けることになったが、その後のアジト崩壊の時にも気にかかったのはマルスの
 安否だけだった。
 マルス――奴がスカーフェイスと名を変えて俺の前に現れるのは、まだ遥かに先の話だ。

     〜 fin 〜
Norikoのリクエストにもう・・・素直に答えてくださいました〜QUEEN様〜☆
よく聞くけどね、この2人、見たことはなかったんでつい、口を滑らしてしまいました(笑)
2人の性格を原作と寸分たがわないでここまで「ちょっとHな感じ」に仕上げられたのは
さすが!というべきでしょう!いや、・・最低だよスカー(笑)誰にでも手を出す鬼畜野郎とは
まさにあんたのためにある言葉(笑)・・ケビン君、周りの連中もだけど、1番危ないのは
1番近くにいる奴だよ・・・気をつけてね・・・(笑)(Noriko)

ふーん・・・よくよく見るとケビンの奴もなかなかそそる体と顔、してるよなァ・・・ふふふ
  どこぞのかわいこちゃんをいたぶるのもいいけどたまにはアダルトにいってみてもいいかもな!
っつーか・・・おいおい、ここで終わりか〜?俺、蹴られっぱなしかい?女王様?(スカー)