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◆ 摘めない華


『やつれた私を見て心が痛むの?もう苦しまないでいいわ 貴方が傍に居てくれただけで幸福だった』
 
 …嗚呼、またか…… ――誰かの声?
 
『幸せになれと言い残す癖に、忘れるなとも言う君… 教えてくれ 貴女無しの世界など何処にある』
 
 
 何で俺に…? いや、分かる 似てるって言いたいんだろ
 自分の中で昇華しきれてない思いとダブるから… ――苦しいのに――
 
 何時の記憶だったろうか… 此れと同じ感覚を俺は憶えてた。人の心配って奴が心地良いと思った――あの時。
 初恋とはちょっと違うくて、何て言うか うーん 例えるのが難しいぜ… まあとにかく幼い頃の記憶だったと思うけど
「見返りを求めないで与え続けるだけ?手を伸ばせば届くのに?振り向いて欲しいから傍に居るんでしょ?」
 そう聞いた時のあの人の答えは全部Yes でも、迷惑になりたくないと。俺もマセたガキだよな、こんな事聞くなんて…。
「もう触れてはいけないんだ… 彼が時々振り向いてくれる… ケビン、其れが今の私の望みだよ」 
 只それだけを寂しそうに… あの人は、幸せだったのか…?
 

 忘れる事が出来なくてずっと心の奥底に、其の思いの名は ――摘めない華―― 
 
 
 
「も〜2人とも歩くの遅いしー スカー!ポケットに手を入れて歩いちゃダメって習わなかったのかよ!」
 腰に手を当て得意げに食って掛かるジェイド。ウザイと思ってた性格も子供だと思えば結構カワイイ。
 コイツの年相応より幼げな様が好きになれたのは結構最近。
「は?… おま、それ幾つの頃の話だ、やかましいぞ!お子様J坊!!にしても… 寒みい〜!」
 とまあ相変らずの物言いなマルス。 
 俺にとって(嫌い)になれない男… さっきも其れが胸に引っ掛かって苦しかった。――もし認めたら?いや、もういい
 楽になりたいから考えない… でも、あっちは俺が気にしてる事を見抜いてる… 相手にし難い事この上ない。
「それと、言い出しっぺのケビンさ〜 まだ着かないの?」
「ああ、もう見えて来た… 悪かったな、結構歩かせちまって…」
 振り向いて文句を言い出す、歩くのに飽きた様子のジェイドの髪をそっと指で梳いてやる。
「昨日こっちに着いたんだろ?強行軍だったな。今日のルーヴル(美術館)はどうだった?」
「人が多くてちょっとヘトヘト… でも、やっぱり行って良かったよv 後ね、モンマルトル周辺には今夜行こうかなって
 バレンタインだし、サクレ・クール寺院とかテアトル広場辺りも見たいんだ…」
 
 此処セーヌ河のほとりも休日の夕方とあって随分人通りも多い。大荷物を抱えこんだ親子連れや、恋人達のざわめきが
 掛かる橋すべてから聞こえてきそうな感じだ。凱旋門やエッフェル塔辺りの眩いの街の灯でほの明るい夜。
 毎年来ようと決めてる訳じゃないんだが、数ヶ月前に訪れたこの橋の事が気になって。まあ、セーヌに掛かる沢山の
 橋の中じゃそんなに大きい方じゃねぇけど、小古い感じが気に入ってる。
 っても、こんな夜に1人でこんな橋の上になんて来ねーよ!という訳でスカーとジェイドを誘ったんだがな (苦笑)
 元はと言えば久々の2人きりの週末をフランスでv なんて言ったジェイドがムード満点の穴場が無いか聞いたからだ。
 即答できるぐらいにはこの街… パリが好きかな? 其の時何故か俺はこの橋の事を思い出していた…。

(つーか何でブリティッシュの俺にフランスの事を聞くんだ!!)
 とまあ、こんな突っ込みは心の中にしまいこんでおく… 観光MAP片手にはしゃぐジェイドがカワイイし、寒い寒いと
 のたまうスカーもかなり楽しそうだ、俺も久しぶりの遠出が嬉しい。
 此処に来ると、此処に来たきっかけを作った奴の事が頭に浮んでしまう… もう橋の向こうで待ってる頃かな?
 そんなこんなで俺達はやっと目的地の橋の袂に辿り着いたのだった。飾り立てた街並みや、トリコロールの国旗が川面に
 照り返して、なかなかに幻想的である。

「綺麗な所だね… でも、ちょっと地味くない?大通りに面した所ならイルミネーションがもっと派手なのに」
「まあな、でもこの橋にはちょっとした小話があるんだ… じゃなきゃ2人を連れてこないよ」
「そーいやこの橋の上、カップルだらけじゃん… フン、寒いのにお熱いねぇ」
 良く見るとカップル達は花輪や花束を手に、時折橋の手すりから川面を覗き込むようにしている。
 と、ふいにジェイドに声を掛けられた。
「今日は何だか元気無さそうに見えるけど… どうかした?」
 微妙に鋭いなこの子はとか、マルスが気になるとか、なーんて口に出して言ったら怒りそうだから言わない (笑)
「そうか…?考え事してただけだ、気にすんな」
「そうだケビン… さっき話してたけど、この橋 何かあるの? 恋人同士で渡ると縁起がいいとか、そんな話?」
「ああ、最初の手すりの外側辺りを見てみろよ…」
「んあ?何か書いてあるのかー…(スカー覗き込んで読み始める)えー なになに…」
 
「『お前の艶やかな栗色の長い髪が好きだ』って何だこりゃ?」
 
「実はな、橋の手すりの所々に恋人の好きな身体の部分が書いてあるんだ」
「はぁ〜!こんなん書いたの一体何処のバカっプルだよ〜」 ←(自分達は棚に上げ) 
「でも、只の落書きじゃないみたい。カップルが皆、真剣に見てるもんね」
「分かったぞ!2人で読みながら橋を渡るとラブラブになるとか、そんなんだろ〜!」
「ははっ、マルスが言うのにも近いんだけどもうちょっと深い意味があるかな… ま、別名が(恋人を想う橋)とかって
 呼ばれてるけど… 他にも色々といわくがあるんだぜ。橋を渡りきったら意味が分かるさ…」
「ふーん… 髪が好きか… 俺はケビンの髪好きだな。俺ならそんな長さにしたら絡まっちゃって大変だきっと」
 まじまじと見つめながら言うもんだから、俺も思わず自慢の長髪をかき上げた。 
「手入れに抜かりは無い…vだが、お前の金髪もなかなかだぞ」 ←(ケビン、やっぱナルシスト…) 
「ああ、俺様もジェイドの蜜色の癖っ毛もイイと思ってるぜー(頭なでなで♪)お!次の落書きだ」
 
『お前の優しい眼差しとスミレ色の瞳が好きだ』
 
「うわ〜!なんかイッちゃってるよコイツ。書いた奴すんげぇ夢見てねぇ?」
「そー言うなってスカー… 燃え上がってる時ってさ、相手が何倍も綺麗に見えるもんなんじゃないのかな?」
 其れを聞いたマルスは、自分の恋人に向き直りその頬に手を伸ばしてムニムニと触れた (笑)
「んん〜 燃えあがってる俺様には、本日も翡翠の碧が目に眩しいぜv」
「…何言ってんだよ////(照)あ、そういえば、スカーの瞳の色もかなり珍しいよね?」 
 例えるなら そう、まるで闇にあっても輝きを失わない肉食動物の瞳か、月を切り取ったかのような ――黄金――
「ふふん、高貴な獣って感じか〜(自画自賛)」
「お前の場合ケモノじゃなくてケダモノだろう… マルス」
「!……ケビンひでー!そー言うお前の目だって誰かさんを連想させるぜ!ジェイドなら分かるよな オイ」
「…っ…… ロビン先生… ←小声」
「んだろ!ベラベラ喋んねー分、やたら威圧感があるんだよな。その、なんての 深〜い蒼?じゃなくて紫色…か?」
「な!何でそこで親父が出てくんだよ!!似てるって言われるの… 嫌いなのに…… 凹」
「スカーが悪い!!ケビンには禁句なのに…」 ←(自分が先言ってたし)
「あ〜あ〜 俺が悪ぅござんした!! 次、次!」
 大股でドカドカと歩くマルスは、いっぺんに2つ先まで読み進んでしまった。慌てて後を追う。
 
『お前の白い項と折れそうな肩が好きだ』
 
『お前のか細い腕と綺麗な指先が好きだ』
 
「部分フェチなのかコイツ? 肩とか… あ〜ジェイドの服ってさ肩出てんじゃん、あれたまんねぇんだよな〜v肩口とか
 食いつきたくなるっての グフフ… ←(よからぬ事を考え中)後、指先とかうなじとかセクシーではあるな… うむ」
 と、1人納得のマルスに呆れつつも、悪戯心でちょっかいを出したくなる。
「何、偉そうに感想言ってんだ、マルスの癖に!←!? 指先が好きならくれてやる!!」
 そう言うと俺は、冷えた指先をマルスの喉下にムリヤリ押し付けた。
「っーーー!! ひえーーー!! んがっ! 離せケビン!」
「あ〜俺も俺も!手冷たかったんだよね〜 スカーてば暖かーい!」
 周りの恋人達からの好奇の目が痛い (笑) 二人掛かりでネックハンギングツリー? 男3人でなにやってんだか…。
 さすがに恥かしくなってすぐ止めたけど。
「ぅーゴホッ!絞め殺す気か… 後で憶えてろよ ケビン ジェイド!」
 物々と文句を言いつつも、次の落書きを読み上げるマルス。
 
『お前の温かな胸は安らげるから好きだ』
 
「おおっ!オッパイ〜 あ〜でも、どうせなら大きさか質感でも書けよなぁ、男の浪漫だぜ!」
「もーーーっ!!スカーったら 下品」
「ほんと、デリカシー皆無だなお前……」
「でもさ、癒し系って感じじゃない?ちょっと憧れかも… っ//// あ〜 変な意味じゃ無くてね」
 照れくさそうに途中で言い直したジェイドの可愛らしさに、思わずマルスと顔を見合わせて笑ってしまう。
「ふーん ジェイドってば大人… いや〜もしかして女じゃなくてママの方を想像したのか?え、どうなんだ〜」
 イジワルそうにジェイドを小突いてるマルスからジェイドを庇いつつ、俺が次の文章を読んだ。
 
『お前の白い背中と華奢な腰付きが好きだ』
 
「くぅぅーっ!イイねェ 背中開きのドレスとか似合いそうな女って感じ」
「どうせ俺は華奢じゃないよ…」
 ジェイドの言葉を聞くが早いがマルスは後ろからジェイドを抱きしめる。
「おバカだな〜見た目の良さもイイんだけど、お前は抱き心地が最高なんだよ… スネんなって〜」
 と、此処でマルスがそーーっと俺に耳打ちをして来た。 
(なあケビン、上から下がって来てるじゃん、もしかして次辺りって… ←小声)
(お前、こんな時にだけ勘がイイってどーいう事だよ… この、変態!あ〜想像通りだと思うぜ…) 
 其れを聞いたマルスは、満面の笑み(キモイ)を浮かべながら腕の中のジェイドに囁く。
「ジェイド次の文は、お前が読んでくれよ〜」
「え、何… 次を読めばイイのか?…… えーっと…」
 頭を傾げつつも、手すりから身を伸ばし次の文を読もうとするジェイド。止めるべきかと思いつつ見守ってしまう。
 
『お前の… な!…… っ えええ〜!!!』
 
 そう、其処に書かれていたのはズバリ!放送禁止部位と行為まんまだった…(汗)
「酷っ!! か、からかったなスカー… なんてもん読ませるんだ……」
 ゆらり、と ジェイドの右手の先に炎が浮かび上がる。
「ちょ待てって!なんてモンって言い方は無いだろ、写術的じゃねーか!←? や、やめろってー(半泣き)」
「ああもう、許してやれよジェイド… 俺もこの部分は好きだぜ。変な意味じゃ無くて文章の流れ的にな」
「ほ〜 ケビンってばやっぱ…」 ←(2人同時発言)
「恋人同士だからこんなのもあって当然だろ… っーか何だよ!//// 途中で言葉を切るんじゃねぇ!」
 そんな感心の眼で見られたって、嬉しいんだか悲しいんだか… 気が付けば橋の大半を渡り終える所まで来ていた。
 残された落書きも後2つ… 結末を知る俺としては複雑な心境。
 
『お前の膝枕で色んな事を話すのが好きだ』
 
「やっぱりイイな、この女の人… こんな人に家で待ってて欲しいかも」
「なんつーか、時々大人発言するよなジェイドって…」
「…僕も、それなりに苦しい時期とかあったつもりなんだけどね… それでもまだ2人には追いついてないかな?」
 其れを聞いた俺とマルスは、無言でジェイドの背と肩を撫でた。
 ジェイドが漏らす素直な感想に頷く、俺も最近はそう思えるようになっていた。家を飛び出してから10年程になるけど
 全くの根無し草ではいられない自分に気づかされる事が多かった… 其れは1人で生きて来たマルスも同じで。
 苦しくて辛い時程、手に入れた暖かさを手放す事が出来なくなる。執拗としなくなってもその気持ちは心に残ってて…
 前の俺にはマルスが居た。きっとマルスは此れと同じ理由で今は、ジェイドと居る事を選んだんだろうな…。
 

 さっきから俺の頭に声を掛けていた彼女が、また囁いてくる…。
 
『貴方を愛してはいけないと思ってた。貴方には夢があるから、大事な人達が居るから。でも、でもね 何でだろう… 
 居なくなる癖に、私ったらワガママかな?この先、誰を好きになっても… ――忘れないで――』 
 
 この2人を見てると、飽きないし楽しい 
 もう昔の事は引きずって無い。だから聞かせないでくれ…。
 
 立ち止まった背中に「ドスン」と鈍い感触、マルスがぶつかってしまう。止まってた事に俺はようやく気づいた。
「どうしたケビン…?」
「ん、ああ 悪ぃ―― 今、俺…」
「何、怖い顔してんだよ… イキナリ止まるし?」
 前を行くジェイドに分からない程度に、そっと頬に触れてくる指先… 肝心な時にちゃんと気づいてくれるマルス。
(頬に触れる指先が温かいから、俺は… ――でも、好きじゃないならもう――)
「ジェイドが見るだろ… 触んなって」
「…?お前が何心配してんだか俺にゃ分んねー でも、もし俺に気が残ってんのなら… それでも構わねーけど?」
「…バカ!そんな訳に行くか…」
「なあ、どうせ生きてる間にマジに好きになれる奴なんて一握りだぜ。憶えてて気に止めてるぐらいじゃバチ当たんねぇよ
 そんなにスパッと忘れられるもんじゃないと思うし… まあ言っちまうと俺は、お前の事忘れないつもりだけどな」
「…っ… 何で…」
「忘れねーってケビン、お前が縋って来た指先も髪も声も、全部憶えててやるから… そんな顔すんな」
「…マル ス……」 
 欲しかった言葉を与えてくれるマルス… 想いを残す事が罪ではないと遠回しに言ってくれてる…。 
 
 だが其の時、固まってしまった身体が覚めるようなジェイドの声が響き渡り一瞬緊張してしまった。
「あーっ!!あそこに居るのってクロエさんじゃないの?!」
「ああ〜ん 何だ、お前等も待ち合わせだったのかー ケビン?」
「フン!バカップルなそっちと同じにすんなって、今日の為に色々手配する事があったんだよ!」
 そうこう言ってる内に、こっちに近づいてきたクロエ。
「遅いですケビン… お待ちしてました、お2人方を待ってたんですよ」
 そう言ってクロエが取り出してジェイド達に手渡したのはチケット2枚… 受け取って繁々と眺めるジェイド。
「え…?これって…」
「説明は後からしましよう、折角此処に来たのですから最後の文章を読んでみて下さい…」
「…え… うん、じゃ 読みますね…」
 
『季節が変わる度に思い出すのは、過去のお前でしかなくて
 今日もまた居もしない君を求めて街を彷徨う。お前の全てが好きだった』
 
「お、今までと違うパターンだな、長いし…」
「…って言うか 何で、過去形になってるの?」
 そう、此れがこの橋一番の悲しい落書き… 俺も初めて意味が分かった時は結構来る物があった。
「2人共… その文章以外にも周りに新しい落書きがあるだろ?そっちも読んでみろよ」
 
『この2人が天上で結ばれる事を祈って… 19×× 2/14』
『彼の元へ帰る勇気が湧きました、ありがとう』
『悲しみと同等の至福を腕に、貴方達の形が愛そのもの』
『ヨシュアとレイチェルの御霊に幸あれ』
『俺もあんたらみたいな恋人同士になりてぇ』
『改めて誓いました、彼と此処に来れて良かったです』
 
 …… と、こんな感じで延々と続く落書き群は、とてもじゃないけど読みきれない。
 
「大体分かったか…?昔コレを書いた男は、恋人に先立たれた悲しみで此処に恋人の事を書き記したって訳さ」
「……悲しいお話だったんだね、俺 ちょっと感動…」
「つーかさぁ、此処にコレ書いた奴… めちゃカッコよくねぇ?」
「マルス… お前さっき、コイツイッちゃってるとか言ってたろ……」
「ぅ… 前言撤回!」
「ねえ、ヨシュアとレイチェルってこの人達の名前なの?クロエさん」
「ええ、此処に文章を書き記したのはヨシュアという名の画家で、恋人の名はレイチェルです」
「絵描きだったのかよ… どうりで文章の内容が写術的 (笑)」
「スカー… そう言えば、さっき変な意味で写術的って言ってなかったか?(怒)」
 思い出したように右手に怒気が篭るジェイド。
「憶えてたのか… 忘れやがれ  いえ、忘れて下さいジェイド様(汗)」
 またもや止めに入る俺… 今日はコレばっか。
「ああもう、イチャつくな!じゃなくて、喧嘩すんな マルスにジェイド!」
「う〜 ケビンがそう言うなら…」
 ゴネながらも了解するジェイドと命拾いな様子のマルスに思わず苦笑い。
「そうだ!クロエさん、此処の話の事を詳しく聞かせて貰えますか?」
 ジェイドに話を振られ、しばし俺達の語らいを傍らから伺っていたクロエが喋り出す。
 
「絵描きのヨシュアと娼婦のレイチェルの話ですか…? えっと…… では、あらすじを少々」 

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