SCAR FACE SITE

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◆ Intermission

 スタンドが次々とゴールする決勝トーナメント進出者に熱狂していいる中、ジェイドは記者に囲まれていた。
 別に自分だけが記者に囲まれているわけではなかったが…異様にテンションが高い。
 ドイツ以外のマスコミ連中まで。
 どうもあれが悪かったのかな?
 思い当たるのは一つだけだった。
 
 …自分のパートナーの責務を果たしてくれたリンコを母親らしき人物に返したときだった。
「フロイラインは無事にお返ししましたよ」
 
 薄っすらと目を開いたリンコが朦朧とする目で自分を見上げながら右手を差し出した。
「ジェイド…次もがんばってね」
 その姿に打たれ、自分では最大の敬意を払ったつもりだったのだが…
 どうも手のひらにキスをしたのはやりすぎだったようだ。
 それを見た記者たちが色めき立っておしかけてきてしまった。


 スタンドからかけつけた師匠が自分をリンコ達の所からさりげなく離してくれたおかげで、
  疲労困憊の彼女にそれ以上の迷惑はかからなかった。


「さっきの彼女がきになるのか?」
 インタビューも終わり、選手控え室に向かおうとしていたときだった。
 他の記者たちは殆ど引き上げたというのに後ろからついてくる男をチラリと見たジェイドは…
「別に…」
 そっけなく答え、背を向けた。

 彼の後ろを記者は一歩離れたところから追う。
「…そんなことはないだろ?なかなか美人だったじゃないか?」
 なれなれしい口を利くヤツだ…。
 

 今日の二人三脚で、疲労はピークに達している。
 緊張の連続でそそけだった神経を早く休めたい。
 それに…他の記者たちは別の決勝進出者たちのところにいるというのに、どうしてコイツは……。
「マジメなボウヤでも女は好きなんだな」

 プチっと頭の中で何かが切れた音がした気がした。
 早足で入り口にたどり着いたジェイドは振り向きもせずにぶっきらぼうに…最後の通告とばかりに言った。
「ここからさきは関係者以外は立ち入り禁止だ」
 だが、後ろからぴったりとくっつくようにしてその男はジェイドに付き従い
『関係者以外立ち入り禁止』
 と書かれた札の中にまで遠慮ナシに侵入する。
「それがどうした?オレは別にそんなことはかまいやしないんでね」
「取材証を取り上げられたくなかったら、さっさとここから立ち去れ」
「…んなもん最初からねぇよ」
「それは聞き捨てならん!!」
 
 
 自分の後ろをしつこく追っていた男に振り向こうとしたときだった。
 相手は自分よりも早く組みつき、逆に羽交い締めにされてしまった。

 な、なぜだ?
 自分を羽交い締めにした腕は、ちらりと見ただけだったが…こんなに強い力があるとは見えなかったのに…。
 ムクムクと盛りあがった腕の筋肉が首を圧迫しはじめる。
「く…くそ……」
 一瞬目の前が真っ暗になり、そしてジェイドは膝から床に崩れ落ちた。
 
 

 そう長い時間気絶していたとは思えなかったが、今自分がいるのはスタンドの通路ではなく、見知らぬ部屋だった。
 部屋の真中にテーブルと椅子の足が、そして壁際にロッカー見えた。
 推測するな、控え室か何かか?
 椅子の背中に背広がかけられていた。
 その色には見覚えがある。さっき自分を失神させたヤツがきていたものだ。
「ずいぶんあっさりと気絶したもんだ」
 視線を上に泳がせクツ先で肩をつついたヤツの顔を見たジェイドは、眉をひそめた。
「…新聞記者に転職してたとは知らなかったぜ」
「この格好がここに紛れ込みやすかっただけだ」
 上着に続き、似合いもしないネクタイを緩めると、はちきれんばかりの筋肉が盛り上がり、
  スカーフェイスの本来の体のシルエットがジェイドの上に影を落としてきた。
「馬鹿馬鹿しい。超人レスラーなら、そんなことをして紛れ込むよりも…」
「オレが説教を聞くとまだ思ってるのか?」
「思ってない」
「フン、少しは世間ってものを知るようになったんだな」

 ばかばかしい会話のやり取りに付き合っているヒマはない…。
 いつまでも床の上に転がされているわけにもいかない。
 体を起こしかけたときだった。

 それを阻止しようという手があるのは知っていたが、それがいきなり下腹部を掴んできた。
 一瞬思考が止まったジェイドを畳み掛けるように、その手はゆっくりとコスチュームの上からまさぐり始めた。
「や、やめろ!!」
 逃れようとしたが、それを察知したスカーは力をこめた。
「ヘタな動きをするなよ。大事なところをケガして決勝トーナメント出場辞退になりたくなけりゃな」
 一瞬こわばったジェイドをスカーが見逃すはずがなかった。

 ファスナーをおろす音に混じって、喉の奥で笑う声が聞こえた。
「ちゃんと元気になってるじゃねぇか。あの女とデートの約束でもしてたのか?」
 小馬鹿にしたような笑い…だが目は笑っていないのは前と変わっていない。
 小動物を追い詰めた猛獣が止めをさすタイミングを探っているような鋭さも。

 絡みつくようにジェイド自身を捕らえたスカーの指がゆっくりとそれをもてあそびはじめた。
 
「クッ…」
 無理やりに追いこんでいくのが目的のような行為だった。
 性急な動きであっという間に高ぶらされ、その頂点が見え始めたとき、スカーは急に動きを止めたかと思うと、
  解放を待つばかりのそれの根元をキツく握り締めた。
 
 
「ス…スカーッ!」
 せき止められた快楽に体を震わせながら呼んだジェイドにスカーは冷たく言い放った。
「おとなしくしてないとズボンが破れるぜ。
会場からズボンなしで出ていくつもりならかまわないがね」
 残った片手でジェイドの足を折り曲げるとブーツの紐を解き、引き剥がすと投げ捨てる。
 あらわになった両足の狭間に潜り込んできた手は、開放を待ちわびていたそれを素通りして
  さらにその奥にしのびこんでくる。

 もう言われなくても何が目的なのか明らかだった。
 ジェイドはいっそう体を硬くし、そして入り口の周辺をなぞりつづけているスカーに叫んだ。
「なんでこんなことをするんだ!」

 突然つきたてられた指の感触にたまらずに唇をかみ締めたジェイドをにらみつけながら答える。
「おまえらがのんきにお祭り騒ぎに浮かれてンのが気にくわねえんだよっ」
「オリンピックを祭り騒ぎっていうのかっ」
 ああ、何もかもが気に食わないね!
 そうはき捨てたスカーは乱暴にジェイドをひっくり返すと、下半身を剥き出しにさせ、そのまま腰を抱え込んだ。

 揉み解すこともなく潤滑剤もないまま無理やりに受け入れさせられた個所が悲鳴を上げた。
 苦痛に強いといわれている超人でもそう簡単に慣れるものではない。
 無意識のうちに逃げようとするジェイドを押しとどめると、スカーはさらに深いところまで進入してくる。
 体を裂かれてしまいそうな感覚が和らいできたのは、内股を伝う生暖かいもののせいだ。
 それが何であるか分かっているジェイドは力を抜き、自ら迎え入れるように腰の位置を押し上げていく。
 抵抗するよりも受け入れるほうが傷つくのことは少ないことを短い付き合いの中で知っていた。
 だが、その努力も空しく、スカーはジェイドをバラバラにしてしまうつもりではないかと思えるほど
  激しく彼をさいなみつづけた。
 
「…何が国の代表だ。ファイナリストだ…いい気になりやがってっ!」
 スカーは、
『聞け!』
 とばかりにヘルメットを乱暴に剥ぎとり、現れた黄金色の髪を掴んだ。
 だが、ジェイドは許しを請うことも、泣き叫びもしない。
「おまえが悪いんだろっ」
「何を!」
「どうして、いるならいるって……言ってこなかったんだよっ」
「うるさいっ」
 止めをささん、とばかりにスカーは激しく突き上げた。
 悲鳴を上げ大きくのけぞったジェイドを目の当たりにした嗜虐の感覚…。
 それはスカーの興奮を頂点に押し上げ、スカーはひときわ大きく貫いた後、体を大きく震わせ、力を抜いた。
 

 痛む体を押さえながらジェイドはゆっくりとスカーから離れた。
「…待ってたのに…」
 
 彼の動いた軌跡に赤い滴が伴っていく。
 荒い息を整えながらそれを見つめていたスカーの顔が次第に歪み始めた。
 
 
「何を待ってたんだって?オレは……」
 まっすぐに見据える目をまともに見ることが出来ず、視線を横にそらす。
 なのに、ジェイドは這いつくばりながらもスカーの前にやってきた。
 
「おまえがオリンピックに出るのを…いや、H・Fに戻ってくるのを待ってたんだ」
「ば、ばかばかしい!!」
「本当さ…。どこにいたんだよ?何も手がかりもないし、ファクトリーの先生たちも教えてくれなくて」
 次の言葉を待つ間が長い。
 何を考えているんだ…コイツは。
 
 暖かい手がそっと頬に触れ、逃れようとする顔をしっかりと真正面に向けた。
 そこにあるのは、まっすぐ相手をみることしか知らないような…翡翠の瞳。

「少し痩せたんじゃないか?どっか体の調子でも悪いのか?」
 何も邪推も下心もない…。
 真剣な顔をして覗きこむ視線が次第に近づいてきた。

「…退院したあとよ…オレが聞き分けがないからって委員会のバカヤローどもが…」
 ネパールかどっかの超人更正施設にいれやがったんだ。
 厳重な警備…そして超人でさえも辛い労働……。
 決して劣悪な施設ではなかったが……退院した直後で体力が完全ではなかったところに、超人のみが罹患するという
  風土病にかかって……。

「…熱がなかなか引かなくてな。体中が痛むし。おかげで二ヶ月寝ていた……」
「そうか……」
 オリンピックどころではなかった。
 オリンピックが開催されるというニュースが入ってきたのは、ベッドから出れるようになったころだった。
 反抗的な態度や暴走をする体力もないのが幸いしたのか、予定通りのスケジュールだったのか分からない。
 予選が始まる直前に更正施設から出所することが決まった。

「…でもちゃんと応援に来てくれたし」
「オレが応援に来たとでも思ってるのかよ!この能天気!」
「ちゃんと見てくれてたじゃないか。しかも…」
 ジェイドの視線が椅子にかかっている上着に泳いでいった。
「こんなヘタクソな変装をしてまでね。オレに会いたかったんだろ?」
 二人の視線が上着の上からもどり、そして再び合う。
 どちらが先に近づけはじめたのかはもうわからないが、何時の間にか二人の距離はゼロになっていた。
 
 触れるだけのキスではお互いの間にあった空白の時間は埋められない、とばかりに激しいくちづけ。
 
「来いよ…スカー」
 熱く潤んだ眼差しを向けながらジェイドはスカーの首に腕を回した。
「オレまだイッてないんだ」
 だが、絡みついてきた肢体に触れたとき、手についたぬるりとした感触にスカーは躊躇した。
「かまわない」
 抗議にしろ謝罪にしろ言葉を拒絶したジェイドの行動は強烈なものだった。
 戸惑うスカーの肩を床に押し倒し、首筋から胸元へ、さらに下へと唇を這わせていく。
 予想だにしなかった大胆な行動に、スカーは否応なしにジェイドに高ぶらされていく。
 
 スカーを自身を手にしたジェイドは眉根を寄せた。覚悟を決めたかのように息を吸いこむと、あてがい、
  さっきの強引な行為がつけた傷からくる痛みを深い呼吸で紛らわせながらゆっくりと沈めていった。
「お、おい。大丈夫かよ?」
 包み込まれる感覚に息を荒げながらスカーは見上げた。
 大胆な行動とは裏腹に、しかめられる顔、浮き出てくる汗。
 ジェイドの顔はかなり蒼白だった。
「ガラにもない心配なんかすんなよ」
「でも…」
「いいんだ」
 二人ともそれ以上言葉は出てこなかった。
 


「ほら、そこも」
 掃除用具入れから取り出したモップで床を拭いているのはスカー。
 そして、行儀悪く背もたれを前にした椅子の上に座ってあれこれ指示を出しているのはジェイド。
 
「…もういいだろが」
「まだだめだ。もう一回きれいにしたモップで拭かないと落ちないぜ」
「手伝え」
「いやだね。こんなところでしかけてきたおまえが悪い」
 スカーはしぶしぶ片隅にある洗面台でモップを洗う。
 ジェイドの座っている椅子の背もたれにはあの上着があった。
 ポケットのふくらみをそっと取りだし、中の携帯電話をちらりと覗きこむ。
 その気配はモップを洗うのに必死だったスカーには分からなかった。


「試合見に来てくれるんだろ?」
「さあな…」
「くるさ」
「知ったことかよ」
 ジェイドは椅子から立ちあがると、大きく伸びをした。
 そして、さっきの上着に袖を通そうとしているスカーの肩を軽くたたき、
「…じゃあな!」
 まるで明日学校で会うような口調で言うと、ドアの向こうに消えていった。