「おい、スカー。授業終わったぜ。」 声を掛けられ、眠そうなうめき声をあげると、巨大な男は身を起こした。 「よく寝たぜぇ〜。」 大きな伸びをしながらスカーフェイスは声を掛けた男に目を向けた。 「次は何の授業だ?」 「よく言うぜ。今日の授業は終わっちまったよ。そんだけデカイ図体しやがって、まだ大きくなるつもりかよ。」 「お前はまだ寝たりねぇんじゃないのか?ジェイド。」 「余計な世話だ。」 身長のことを言われ、明らかにムッとした様子でジェイドは答えた。 「ほらよ。」 スカーに向かってノートを突き出す。 「今日の授業のノートだ。ちゃんと勉強しろよな。悪行超人たちが出てきたときに脳みそまで筋肉だったら 正義超人の名を汚すことになるんだぞ。そんなことになったら、レジェンドの方々にどう申し開きをするつもりだ?」 「カーッ!優等生だねぇ〜。俺らが戦うのは誰のためだ?レジェンドとかいう老いぼれどものためか?違うだろ〜。 正義超人たるもの、まず人間を第一に考えなきゃよ。だめだろ?え?違うのか?正義超人のジェイドさんよ。」 ニヤニヤと言う。揚げ足を取られたはずのジェイドはなのに、驚いた様子で、 「なんだ。分かってるのか。そうだよな!正義超人たるものまずか弱い人間を守らなきゃな!」 はい?今度は、スカーが驚く番だった。少しはイヤミに気付けよ! 「お前ってさ、講義はいつも寝てるくせに実技になると残虐なくらい無茶するから、俺てっきり"人間なんか関係ねぇぇ〜!" って言いやがるのかと思ったぜー。悪かったな、誤解してたよ。お前、結構いい奴だな。」 ・・・笑って言われても(汗)。まだ正体がばれるわけにはいかないスカーは、「おのれの脳みそが筋肉じゃーッ!」と 言いたい衝動を抑えるのに労力を要した。しかし。面白いオモチャを見つけたかもしれない。 こいつ、クソ真面目なだけかと思ったら天然も入ってやがる。からかいがいがあるかもな〜。とジェイドの顔を見ながら スカーフェイスは一人ほくそ笑んだ。 「なんだよ。人の顔見ながらニタつきやがって。なんか顔に付いてるか?」 「別に。そのメット、いつも被ってるよな。禿でも隠してるのかと思ってよ〜。」 「何ぃぃぃ〜〜〜!!!」 突然切れた。 「うぉっ、なんだよ、本当に禿てんのか。まだ若いのに可哀相になーッ!!痛いとこついちまって、わるかったよ! ぐははははははぁ〜〜〜〜っ!!!(←失礼)」 「ぐぅぅぅぅ〜〜〜っ!てめえぇぇぇ〜〜〜っ!!」 とたん、ジェイドから殺気ともとれる気迫が溢れる。 「やるかぁ!?てめえ!!」 こちらもそれを受けて殺気を出してきた。 「うげぇぇぇ〜〜〜っ!!!やめてくれぇ、2人共ぉーーーっっ!」 2人から出される尋常でない気迫を感じ取ったクラスメイト達が(いたのか!)慌てて2人を止めに入った。 「止めるな!」 「そうだっ。ご主人様は誰か、この阿呆に教えてやるぜ〜!」 「貴様ーーっ」 「うわーっ!後から掃除する俺達の身にもなってくれぇ〜〜〜っ!」 「ってゆーか、なんでご主人様なんだ!?」 「そのうざいメットを砕いてやるぜ〜!のほうが文章的にあってるんじゃないのか!?」 「でも、ご主人様ってことは、メイドさんのコスプレしたジェイドが拝めるのか!?」 「!!!?」 その誰かの一言に(多分クリオネ)皆の思考が一瞬止まる。そして次の瞬間。 「うおぉおおおぉーーー!!!スカー!やっちまえー!ジェイドのメットをカチ割っちまえー!」 漢たちの熱い声がクラス中に響き渡った。 驚いたのはジェイドである。突然、皆の態度が一変したのだ。クラス中に響き渡るスカーコール。 何故だか、急に目の前の男に勝てないような気がした。その一瞬の心の動揺をスカーが見逃すはずもなかった。 「死ねやぁーーーー!!!」 「ぐぎゃああああーーー!!!」 スカーはジェイドの後ろに回りこみ胴を両腕でロックすると宙に跳んだ。跳んだ先の天井に着地する格好で反動を付ける。 天井を蹴り離すと、床めがけて一気にジェイドもろとも叩き落とした。 パッリィィィーーーン。 接着剤で張り合わせて合った麻宮サキの鉄仮面のように、ジェイドのメットは真っ二つに割れた。そこから流れ落ちたのは 長い黒髪ではなく、ふわふわした蜂蜜色の髪の毛。 ゴクリッ。 あんなに騒がしかったクラスが、静まり返った。誰かの生唾を飲む音が聞こえる。ハァー、ハァーとか、なんか、 荒い息遣いまで聞こえてきた。さながら、好物の蜂蜜を見つけた熊の如くである。まだ涎がでてないだけましだろう。 そして、熊は好物に向かってじりじりと距離を詰め出した。 「おい、おまえら。俺のジェイドに何盛ってやがる!」 「い、いや、なに、脳震盪を起こしているようだから医務室へ運んでやろうかと思ってな!」 「そ、そうだ。早く医者に見てもらわないと・・・。」 「善意だ、善意!!」 「けっ!魂胆見え見えだぜ。言っとくが、勝ったのはこの俺様なんだぜ。所有権は俺にある。」 「なにぃ〜!一人締めするきかーーっ!」 「何言いやがる!もともとは俺とジェイドのファイトだろうが!」 「俺はジェイドのメイドさんのコスプレが見たい!」 「いや、ここは学生らしくセーラー服で!!」 「婦警さん!」 「だーッ!うるせぇぇーー!!」 ピタッとざわめきが止まる。 「言ったはずだぜ。こいつは俺のモノだ。煮るのも焼くのも俺の自由だ。」 ひょいっとジェイドを抱きかかえる。ナチュラルにお姫様抱っこだった。 「医務室へは俺が連れて行く。」 「うぉおーっ!ジェイドのメイドさん姿は俺のものだーっ!!」 やはり、メイドのコスプレを提案したのはクリオネだった。叫びながらスカーに飛び掛る。 「お前を倒してジェイドのメイドさん姿を見るんだーッ!」 バキィッ! ジェイドを抱えて手の使えないスカーは蹴りでクリオネを弾き飛ばした。 「来る奴ぁ来いよ。相手してやるぜ。」 ヘラクレス・ファクトリーの中でbRを蹴りの一発でダウンさせた奴に敵う訳がない。ちなみにbPはジェイド、 bQはスカーである。本当はスカーが実力的にbPなのだがこいつは反則ばかりするのでbQの座に収まっている。 「ひるむな!皆!一本の枝は折れても、束になれば折れないんだーッ!」 デットシグナルが叫ぶ。顔のマークはスカーに向かっていた。 「おおーっ!!」 デットシグナルの顔の表示が変わっていることに誰一人気付くことなく、クラスメイトたちは一斉にスカーに飛び掛った。 「貴様らそれでも正義超人かー!」 多勢に無勢ながらも次々とクラスメイトたちをなぎ払っていく。しかも、その腕の中には奪われてはならないとばかりに ジェイドを抱え込んでいるのだ。足技だけで超人であるクラスメイトたちをあしらっているのだから、 並々ならない強さである。 「さあ、後はてめえだけだぜ。デットシグナル。覚悟はいいか。」 「それはこっちのセリフだぜ!スカー!デッドレイルロード!!どうだ、この踏切を渡ってみる勇気はあるか〜。」 「別にねえよ。」 一撃で勝負はついてしまった。 「たくっ。せっかくジェイドとのファイトでは教室を荒らさないようにしたのによ。この阿呆共のせいで教室が メチャクチャになっちまったぜ。ま、俺のせいじゃないしな。後片付けはお前らやっとけよ。」 「うううぅぅ〜〜〜」 「そんなぁ〜。」 いつも、スカーが反則やら備品を壊してファイトをするせいで、クラスメイト達はいつもその尻拭いをさせられていたのだ。 それを避けるために止めにはいったのに・・・・。 「じゃあな」 「ま、待て!待ってくれ!スカー!貴様、ジェイドにどんな格好をさせるつもりなんだ。メイドさんか?セーラー服か? それとも、婦警か?」 懲りないクリオネだった。 「敗者は何も得られないものだぜ?」 「た、頼む!武士の情だ〜。」 「しようがねえな。そうだな。素っ裸にひん剥いて首輪でも付けておくか。俺のペットなんだからよ。」 「ぐはあぁぁーーーっ!!そ、そっちの『ご主人様』かーーっ!おみそれしましたーッ!」 「わかりゃあいいんだよ。」 ところで。さっきからスカーはジェイドを抱き抱えながらファイトしてたわけだが、度重なる振動をジェイドは受けていた。 さして深く眠りにおちていたわけでもないジェイドはよりにもよって、スカーのペット宣言のところで目が覚めた。 「寝言は寝て言えーーっ(怒)」 そのまま、スカーの首に手を回し、首を起点にして自分の体をスカーの後ろへと飛ばす。背後に回ると同時に両手を首にかけ、 反動を利用して両膝を一気にスカーの首めがけて放った。 「ぐふ・・・・っ」 思いもかけない突然の攻撃に何の体勢も整えていなかったスカーは、クラスメイトたちとのファイトの疲れも手伝って そのまま床へ崩れ落ちた。 「そこで一生夢でも見てろ!!」 かくして、夢の「ジェイドのご主人様決定戦」はジェイドの逆転勝利で収まったのであった。 「ったく!だぁ〜れが!ペットだ!スカーの野郎、一発くらい殴っときゃよかったぜ!」 むくれながらジェイドは一人廊下を歩いていた。 「メットまで割りやがって!スペアは持ってるけど、高いんだぞ!コレ!2倍にしてスカーに請求してやる! ・・・それにしても。スカーの胸って、逞しいよな〜。羨ましい。俺も同じくらい食ってンのにな〜。背も伸びないし・・・。 毎日牛乳と煮干食ってるのに。・・・でも、あいつの胸って温かいな〜。ちょっと気持ち良かった。 レーラァと一緒に寝てた頃思い出すなぁ〜。眠れなくても、レーラァの鼓動聞いてるといつの間にか眠ってたもんな。 ・・・レーラァ、元気かなぁ〜。」 ふっと瞳が揺らめく。 「うっ、だめだ!弱気になっちゃ!ちゃんと一人でもやってけるってレーラァと約束したんだ!・・・でも、今夜一人で 眠れるかな?あ〜!畜生!全部スカーのせいだぞ!そうだ!スカーのせいだ!あいつに全部責任とってもらおう!」 「う〜・・・。ジェイドの野郎・・・。思いっきりやりやがって・・・。いくら俺の体がオーバーボディでもさっきのは かなりキツかったぜ。」 首をさすりながらよろよろとスカーは自分の部屋へ戻った。 「それにしても、あいつ、笑うとあんなに可愛かったんだな〜。メットとって笑ったら、もっと可愛くなんだろーなー。 って!何考えてんだ!俺様!!畜生、第一何だって『ご主人様』だなんて言っちまったんだ?俺は?あいつの笑った顔見たら な〜、ポロッと出ちまったんだよなぁ。う〜ん、不思議だ。ま、明日は明日の風が吹くってなもんだ。考えてもしかたねぇ! 風呂入って寝るかぁ!」 「おい!スカー!」 「ジェイド!?」 振り返るとそこにジェイドが立っていた。訳もなく、スカーの鼓動が早くなる。 「後でお前のところ行くからな!なんか食いもん用意しとけよ!」 「はい?」 「俺がさっきのファイトでは勝ったんだ。ということはだ。お前のご主人様は俺、ってことになる。 しっかりこき使ってやるから覚悟しとけよ!まず、今日は今日習った技の練習台になってもらうからな!じゃ、後でな。」 言うだけ言うと、ジェイドは唖然としているスカーを残しさっさと立ち去った。立ち去られた後もスカーの心臓は 早鐘のようにがんがんと鳴っていた。 「〜〜〜〜っ!あの野郎!こっちがおとなしくしてりゃ付け上がりやがって〜!!来るなら来いや!返り討ちにしてやるぜ!」 そう。だから。この動悸は怒りなのだ。決してそれ以外のものであるはずがない。 それぞれの思惑をよそに夜は更けていく――――――。 |