SCAR FACE SITE

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◆ De ja vu

 「スカー・・・・!」 身構えるジェイド。その瞳は、"何としてでも、止めなければならない"という強い決意に満ちていた。
 笑みを浮かべるマルスは、凛子の腕を掴む手に力を込める。
 「・・・・っ!」彼女は顔を顰めた。だが声はあげなかった。
 「ほう。なかなか我慢強いお嬢さんだ。」 「止めろ、スカー!!」叫ぶジェイド。
 「だったら、お前は大人しくしてな。そうすりゃ直接参加はできなくても、滅多に拝めん最高のショーを特等席で見せてやるぜ。」
 「な!?」 スカーの輪郭がぼやけて映る。ジェイドは目を疑った。
 「・・・まぁ、お前で止められるもんなら止めてみな。勿論不可能だろうけどな。」マルスと凛子の姿が視界から消えた。
 「ど・・・どういうことなんだ・・・?」呆然とジェイドは呟く。
 「ち・・・チクショー・・・ 何でもありすぎだよあのヤロー・・・」ようやく身を起こした万太郎が、うめくように言った。

 「・・・さて、今からこの手を離してやるが・・・」マルスは凛子に言う。
 「俺に歯向かおうとか、逃げ出そうとか、無駄なマネして梃子摺らせるなよ。さっき言ったように、俺には女を縛り上げて喜ぶ趣味は
 ねぇがな、」彼の顔に、再び刃物のような笑みが浮かんだ。
 「あんたの自由を奪うなら、縛るよか手足でもへし折った方が余程簡単ってだけのことだ。人間の体なんぞ実に脆い・・・
 あんたの手足を折るのは、俺にとっちゃ爪楊枝を折るのと同じだからな。覚えときなよ。」
 彼は凛子の腕を掴む手を離した。うっすらと赤い痕が残っている。凛子はマルスを見る。苦痛や恐怖はその表情にはない。
 「大したお嬢さんだ。」マルスはフン、と笑うとその空間の中央に進み出た。
 「・・・一体何なの、ここ。」凛子は口を開く。周囲は薄い蒼の壁のようなもので囲まれている。万太郎やジェイドの姿は見えない。
 「さっきまでお前さんがいた公園と同じ場所だ。ただし、"次元"がちっとズレてるけどな。」マルスはほくそえんだ。
 「グフフ・・・果たしてあの優等生、ここを発見できるかねぇ?」

 「バケモンだよ、あいつ・・・ オマケに結界とかなんとかマンガみたいなこと言ってるしさぁ。」頭を振りつつ万太郎は言うと、
 ジェイドに顔を向けた。 「なんであいつとできちゃったわけ?」
 「・・・・!」 「ファクトリーにいた時からなの? でもその時ってあいつ、ゴリラみたいなオーバーボディ着てたんだよね? 
 スゴイ趣味だね〜、ボクにはマネできないししたくもないヨ。」
 ジェイドは拳を握り締めた。怒りと悔しさに唇を噛んでいる。「・・・・今が非常事態でなくて、ここがリングの上だったなら・・・・ 
 あんたにベルリンの赤い雨を食らわせている所だ・・・!!」
 流石に万太郎も"マズイ"と思ったらしく、慌てて言い繕った。「と、とにかくさ、確かに非常事態なんだから、正義超人として僕らが
 何とかしなくちゃいけないね! でも具体的にはどうしよう? あいつどこにテレポートしちゃったのかな?」と、キョトキョトと
 辺りを見渡す。しかし大竜巻に遮られて、公園内からは何の風景も見えない。 ジェイドが言った。
 「どこかに移動したのではなく・・・おそらく奴は、まだこの公園内にいると思う。ここを中心に、魔界の力を使った"結界"を
 張るつもりだろう。」 「なんでそんなことがわかるの?」と万太郎。
 「スカーが姿を消したのは、悪魔超人特有の"目くらまし"を流用して、別次元に作った空間に隠れたと言うことじゃないかと思うんだ。
 バッファローマン先生が特別講義で言ってた・・・」
 「えっ!? 二期生にはそんな授業があったわけ? ボクら一期生にはそんなのなかったけどなぁ。」
 「あんた達の時は、dMpのアジトが実際に日本にあって、早急に新世代超人を送り込む必要があったから、講義系統のカリキュラムは
 抑えられたということだろう。俺たち二期生の場合は・・・」ジェイドはそこで言葉を切る。頭の中を過るファクトリーでの風景。

 「なんでも次の授業にゃ・・・」ボルサリーノ帽を被った巨体の男は、いつもの薄笑いを浮かべながら言った。
 「伝説超人時代のビデオテープが使われるらしいぜ。」 「へぇ・・・」文字通り伝説となってしまい、今では語られることも殆どない、
 旧世代正義超人たちの闘い。どんなものだったのだろう? ジェイドの胸に期待が膨らむ。スカーフェイスは言葉を続けた。
 「鑑賞会なぞやってるヒマに、格闘実技をもっと増やした方がいいのによ。ここにいる奴ら、どいつもこいつも殆ど実力は平均以下だぜ。
 体がなまっちまわぁ。」
 「お前は何のためにヘラクレスファクトリーにいるんだか! 我々の使命は地球に害をなす悪行超人たちの殲滅であって、自己満足の
 喧嘩をすることではないんだぞ。」呆れたという口調でクリオネマンが言う。
 「グフフ・・・ そういうお前さんもどんなもんかね?」スカーフェイスはニヤリとした。
 「なんだと? それはどういう意味だ?」一歩踏み出すクリオネマン。ジェイドは二人の間に割って入ろうとしたが、「コラコラコラ!
 ダベる時間はそれまでだ! 次の授業開始まで5分しかねーぞ! とっとと移動だ、移動! 学生なら授業開始時間は絶対の規則、
 キチッと守るべし!」とデッドシグナルが甲高い声をあげながらクリオネの肩をグイと押した。そのまま談話室から出て行く。
 「おい、勝手なことをするなデッド!」 「いちゃもんつけたきゃプライベートの時にやれ! ジェイド、スカー、お前らもさっさと
 来いよ!」二人の声が遠ざかっていった。見送るジェイドとスカー。
 「相変らず規則三昧だな、あの交通標識サンはよ。」 「スカー、俺たちもそろそろ行こう。」とジェイド。
 「先に行ってな。俺は気の向いた時間に行くぜ。」 「・・・呆れたもんだな、スカー。折角貴重な伝説超人時代の資料が見られるってのに。」 
 大男は両腕をあげて伸びをする。
 「過去のことなんざ、俺は興味ねぇ。大体テープが授業に出てくる理由ってのがお笑いなんだからよ。」
 「どういうことだ?」ジェイドは尋ねる。
 スカーフェイスの顔に、嘲りの表情が浮かぶ。「キン肉万太郎ってヤツを知ってるか?」
 「確か、一期生の一人で・・・キン肉星大王キン肉スグルの息子だな?」 「そいつはファクトリー卒業試験である伝説超人との手合わせで
 親父と当たったそうだが、そん時悪行超人と戦うなぞ御免だってんで、親父に八百長試合を持ちかけたんだそうだぜ。」 「八百長?」
 「結局は親父にヒネられて、それなり本気で戦ったらしいが・・・ なんでもキン肉スグルは"自分の戦いは記録されるためでなく、
 宇宙平和のためにあった"とか言って、自分の戦いの記録を全部処分したんだとさ。で、親父の戦いを見たことなかった息子は親父を
 ナメきって、今までの戦いも全部ヤラセだろと言い出した。 それでファクトリーのセンセイがたは、」スカーはフン、と鼻を鳴らした。
 「若造どもに自分たちを尊敬させる必要性をお感じになった、ということらしいな。」 「・・・」ジェイドは脱力感を感じていた。
 超人界のトップクラスに立つキン肉王家が、そんな情けないことになっているとは。一体、どういう親子関係なのだろう?
 「・・・にしても、スカー。お前よく知ってるな?」 「グフフ・・・」大男は低く笑った。
 「ま、オレ様は情報収集はキチンとやっとく主義でな。」

 (さっきの下劣な物言いといい・・・ こいつが将来キン肉星第59代大王を継いで、本当に大丈夫なのか?)
 ジェイドは万太郎を見ながら思う。(・・・だが、こいつがナイトメアズを破ってdMpを壊滅に追いやり、)オーバーボディを脱ぎ捨て、
 "悪行超人マルス"の姿を現したスカーフェイスの姿が脳裏を過っていった。
 (dMp再興を狙って、二期生の中に紛れ込んだスカーを倒したのは事実なんだ。 俺はどんなに修行しても、結果的にスカーに
 勝つことはできなかった。 でもこいつは、キン肉王家の者が発揮するという奇跡的な力でスカーに勝った。 ・・・俺はどうあがいても、
 こいつの天賦の才には勝てないのかもしれない。)
 悔しい・・・・ その気持ちがジェイドの中で膨れ上がっていく。
 (・・・でも、あんた立派だったよ。負けなかったね。)二階堂凛子の言葉が、脳裏に響いた。
 (その時負けてたのは、相手の方だったんじゃないかな。あんたを潰す事はできなかったんだもの。)
 彼女は今、スカーのために人質にされている。・・・助けなくては! 何としてでも。
 (俺は、)ジェイドの目に、強い光が宿った。(勝てないかもしれない。だが、決して負けはしない!)
 ジェイドは、万太郎に語りかける。 「知らないんなら、掻い摘んで説明する。悪魔超人特有の目くらまし、というのは・・・・」

 「どうして、この町の人たちを巻き添えにするの?」凛子は、マルスを見据えて言った。
 「万太郎と戦いたいとか、dMpとかを再興するっていうのは勝手だけど、関係ない人たちを巻き込むことないじゃない。」
 「グフフ・・・ ホント、大したお嬢さんだな。悪行超人の俺に説教しようってのか?」マルスは腕を組んだ。
 「じゃあお答えするか。理由は二つだ。まず、新生dMpのためには広大な敷地がいるから、どこもかしこも人間どもが蔓延ってる
 この国のどこかをサラ地にする必要があること。次に、デモンストレーションのためだ。悪行超人の力がどれ程のものか全世界に
 知らしめたけりゃ、リング内での試合で勝つより町一つ吹き飛ばした方が、断然インパクトがあるだろう。そういうことさ。」
 腕を解いてマルスは言う。「さてと、お喋りはここまでだ。早いとこ結界を張らなけりゃな。」
 凛子が、彼の前に立ち塞がった。「・・・お嬢さん、無駄なマネはよしなと言っただろ? あんたに何ができるってんだ。いらん怪我を
 するのがオチだぜ。」凛子は、マルスを見据えて動かない。
 「あのな。正義感だけでどうにかなると思ってんなら大間違いだぜ。そんなものは、圧倒的な力の前では苦も無く押し潰されるだけだ。」
 マルスは、凛子の前に屈み込むと、彼女の目をその冷たい瞳で見据えて言う。「・・・・ましてや、人間なぞあっけなさ過ぎるほど脆い
 生き物だ。あんたは、2年前のdMpによる日本襲撃を覚えてるか?」 ニヤリとマルスは笑みを浮かべた。
 「知らない。あたしはその時、幼児教育の研修でアメリカの大学に行ってた母さんに付いて行ってたから。」 
 「ほぉ、帰国子女ってわけか。そりゃラッキーだったな。」マルスは身を起こす。
 「・・・あの時、dMpが襲ったのが何故日本だったのか。一言で言や、正義超人に対する報復兼当て付けだった。dMpってのは、
 かつて正義超人に敗れた残虐超人・悪魔超人・完璧超人の三派が手を組んでできたもんだが、中でも正義超人に対する恨みが
 強かったのが完璧超人派でな。最初の総帥ネプチューンキングと二代目総帥ネプチューンマンがキン肉スグルとテリーマンに敗れた後、
 首領になった麒麟男(キリンマン)が日本襲撃を強硬に主張したのさ。・・・どんな奴か知ってるか?」 
 「あたしが知るわけないじゃない。」 にべもなく答える凛子。 薄笑いを浮かべるマルス。
 「そりゃそうだ。ナイトメアズが万太郎たちと戦った時、残虐超人首領の死魔王と一緒にモニターにしゃしゃり出てたから、
 人間の中にも覚えてる奴はいるかもしれんが。初めて会った時、俺はドラゴンの超人かと思ったぜ。ま、そういう奴さ。」 
 「ふうん。 それで?」凛子は先を促した。
 「奴はこういう風に主張してた。『まず制圧する場所は日本! そして新たな我等の本拠地は富士山だ! かつてあの山の傍らに立った
 トーナメントマウンテンで、我等完璧超人の先代首領は正義超人どもに敗れ、地球侵攻の目論見は水泡に帰した! 同時にその敗北で、
 完璧超人は消える事のない汚点を負ってしまったのだからな! 今こそ、我等の圧倒的な力で正義超人どもを粉砕し、富士山を乗っ取って
 正義超人どもに思い知らせてやらねばならん!』 『お前さんらの私怨なんざどうでもいいがな。』
 ―――こう言ったのは、残虐超人首領の死魔王だ――― 『正義超人どもの主な戦いの舞台となったのは確かに日本だ。あの国を
 好き放題に蹂躙して、奴らの無力を思い知らせてやるってのは面白い。ちっぽけなワリにごちゃごちゃしていて、人間どもも
 ウジャウジャいるから、ブッ壊す甲斐がありそうだぜ。』
 そんなわけで、dMpは日本を襲撃し、日本に本拠地を置いた。 その襲撃の時、俺たちは気の済むまで"人間狩り"を行った。
 俺もそれに参加したが――――」マルスは、フッ、と息をついた。
 「実につまらなかったぜ。」唇の端を歪めて凛子を見る。
 「俺がその時最初に殺したのは、若い男だった。20代か30代か・・・ 今じゃもう知る由もないがな。
 俺を目の前にして――― つまり、自分の絶対の死を目の前にして、可哀相な位怯えきってたぜ。」
 マルスの瞳には、何の色も見られなかった。 「俺はそいつを見て、思ったよ。」彼は凛子に告げる。
 「――― みじめなもんだな。」 マルスを見ている凛子。
 「弱いってことは―――何の力もないというのは、本当にみじめなもんだ。 例えば動物の場合、力のないものは代わりに早く
 逃げられる足や、何らかの防御能力を持っている。だが人間という奴にはそれすらない。その男は逃げる事も、命乞いする事もできず、
 ただ怯えて死を待っているだけだった。
 俺が軽く手を振り下ろしただけで、そいつの頭はあっさり吹っ飛んじまったよ。」マルスは軽く手を振って見せた。おそらくその時に
 したように。
 「あまりにつまらなかったんで、俺はそいつを殺して人間狩りは止めにした。さっき言ったように、人間を壊すなぞ爪楊枝を折るのと
 一緒で、何の力もいらん。爪楊枝を何本折った所で面白くも何ともねぇ。大木をへし折ってこそ、自分の力が実感できるってもんじゃ
 ねぇか? そう思ったから、俺はさっさとアジトに引っ込んで、やがて現れるであろう強豪の正義超人と戦う時に備えて、
 身体を鍛えるのに専念することにした。結果的に、それは正解だったな。俺が人間狩りを続けていたら、入れ替え戦で正体を現した時・・・」
 マルスは喉の奥で笑いを漏らす。「俺に家族やら友人やらを殺されたとか、俺の姿をあの時目撃したって人間どもが騒ぎ出して、
 その場で捕まっちまっただろうよ。グフフフ・・・」
 マルスは、凛子の目の前まで歩み寄った。
 「俺が興醒めして帰ろうとしてた時、後ろで仲間の悪行超人たちが楽しそうに殺戮と破壊を続けている声と、人間どもの叫び声が
 聞こえてきたぜ。――― 仲間の一人にアナコンダってのがいてな。名前どおり、蛇のような姿をした奴だったが・・・蛇が獲物を
 そうするように、人間どもに巻きついて締め上げていた。された方は全身の骨がバラバラになる。骨格が完全に崩れると、人間てのは
 なかなか、見られたもんじゃない有様になるもんでな・・・・ 奴は、実に楽しそうに叫んでたぜ。 
 『ヒューハハハハ! 脆いなァ! 脆いもんだなァ人間なんてのはよ!』」 悪魔のような笑みが、マルスの顔一面に浮かんだ。

 「・・・・そう言えば、泣き出すと思ってんの?」凛子は、マルスを見据えて言う。
 マルスの顔から笑みが消えた。
 「止めといた方がいいよ、そういう安っぽい脅し。あんたがつまんない奴になるだけじゃない。」
 マルスは凛子をじっと見ている。彼はポツリと呟いた。「・・・大した女だな。」目を伏せ笑いを浮かべる。
 「グフフ・・・ 入れ替え戦の時、俺に群がってたバカ女どもなら、今のでヒィヒィ泣き出すんだろうが。」
 再び凛子を見てマルスは言った。「確かに、お前さん相手には安っぽい脅しだったな。すまなかった、お嬢さん。」 
 「あたし、二階堂凛子って名前があるんだけど。」と凛子。
 「そうか。じゃあ言い直す。すまなかったな、凛子。」彼女は僅かに眉を顰める。
 「今日会ったばっかの女をいきなり呼び捨て? それもどうかと思うけど。」マルスは言う。「お前さんの名前だろ?」 
 「・・・そうだね。 それとさ、女をバカにすること言うの止めてくれる?」
 フン、とマルスは笑った。「あいつらは実際バカだったんだから、仕方ねぇだろ。全く、ヘドが出そうな連中だったぜ。」
 彼の顔に浮かぶ苦笑い。
 「正にエサに群がる鯉そのものだ、あの女どもは。決勝前夜くだらねぇパーティーが催されたが、その時女が何人か俺の周りに
 集まってきちゃあ、似合わねぇ猫なで声で寿司だのローストビーフだのを俺に押し付けてきた。俺のことなぞ本気で考えてないのは
 一目瞭然だったな。 明日に試合を控えてて・・・ あんな高カロリーで栄養バランスの悪い代物が食える訳ないだろうが。」
 マルスの表情に、露骨な嫌悪感が表れた。
 「その女どもの中に、なんか見た顔が混じってた。はて、誰だったかねぇ・・・ 確かその日の昼まで、ジェイドの応援席にいて、
 黄色い声あげてた奴じゃなかったか? あの試合で、俺はジェイドが動揺した隙に、昔奴の養父母が惨殺された事件は
 師匠ブロッケンJrが裏で糸を引いてた、とデタラメ吹き込んだ。信じていたもの全てをズタズタにされ逆上した奴は、自暴自棄に
 俺に斬り付けてきた。それを見て騒いでた女どもの中にいた奴だったよ、確かにナ。
 『あなたもラフファイトができるんじゃない! カッコいいわジェイド!』ってな。
 ・・・てめぇらにゃ節操やプライドどころか、モノ考える頭もねぇようだな?」マルスの声には、今や怒りが混じっている。
 「よっぽどその場で張り倒そうかと思ったが、殴る値打ちもねぇから止めといた。人間の女ってのは、何故ああも下劣なのかねぇ?
 メス、って呼ぶのも憚られるぜ。少なくとも動物のメスってのは、大抵オスをてめぇで選ぶ。てめぇに相応しいオスをてめぇで
 選ぶもんだ。人間の場合は女が選ばれる立場にあるらしいが・・・それにしたって、プライドの持ちようってのがあるだろ。」
 マルスは吐き捨てた。
 「そんなコばっかりじゃないよ。」凛子は、はっきりとそう告げる。マルスは彼女を見た。
 「そういうコもいるだろうけど、そうじゃないコもいる。あたしは、あんたがジェイドを痛めつけたのを見て、泣いたコを知ってる。
 毎日、毎日泣いて・・・しばらく学校にも来れなくなったコを知ってる。」
 「そりゃあセンチなお年頃、とかいうヤツだろ。女にゃありがちなことだ。」
 「違うよ。」凛子の澄み切った声。「そのコは、ジェイドのことが好きだったから・・・ 本当に好きだったから、彼が傷ついたのを見て
 本当に傷ついた。」マルスを見据える彼女の瞳。
 「好きな人が傷つけば、誰だって傷つく。」 「フン・・・」マルスは、凛子から目を逸らす。
 「あの準決勝で俺がジェイドをできる限り痛めつけたのは、俺なり考えがあってのことだった。あの夜、奴は病院で
 苦しんでたんだろうが・・・ 俺はそれでいいと思ったぜ。 奴は・・・ ジェイドは、あんな下劣な連中に汚されるべきじゃねぇ。」
 「・・・好き、なんだね。ジェイドのこと。」 「ハン。」笑うマルス。 「好きっていうよかな。俺は今まであんなバカな奴にゃお目に
 かかったことがねぇから、面白ぇと思ってるだけだ。さてと、お喋りがすぎちまった。そろそろ結界を張らんとな。おい、凛子。」
 マルスは彼女に顔を向ける。
 「俺は自分の計画を中止する気はないが・・・ お前が出たいなら、ここから出してやってもいいぜ。この街の人間全部を救出するのは
 無理だろうが、お前と家族くらいなら逃げ出すことはできるだろう。どうする?」
 「あたしは、逃げない。」凛子は言った。「万太郎とジェイドが、きっとあんたを止めてくれると信じる。」
 「・・・そうか。まずないだろうが、そうしたいならそうしな。」マルスは、彼女に背を向けた。

 その時、形容しがたい音と共に、二人の後ろの壁が裂けた。
 続劇

年始早々、2000年投稿第1弾は鷹覇臣様の連載第2回です〜♪ほんとにもう・・
スカー様ってば(笑)。誰かに迷惑をかけなきゃどうも生きていけないようですわ(笑)
スカー様の女性観には吹き出すところもあったけど、妙に納得してしまいました。
たしかに・・あのパーティー会場でのスカー様、目が笑ってなかった気がするよ(笑)
それにもまして女性としてかっこいいところを見せる凛子ちゃんがベリーナイスです!
今回は特別にジェイド君におこしいただいてま〜すどうぞ!(笑)(Noriko)

いつもすばらしい小説をありがとうな!どきどきしながらいつも読ませてもらってるぜ!ここの
スカーは確かに悪い奴だけどなんか憎めないのな。あいつの信念や見解なんて知ったことじゃ
ないけど、それなりに徹底してて、絶対に曲げないところがかっこ・・いいと・・思う。
あ!これ、内緒だからな!(ジェイド)