・・・この生活が続いたら俺様は死にそうだ・・・・。 つーか、この俺様の様な良い男が四畳一間の畳の上でうつ伏せになっていなければならないのだっ!? そう、この俺様は最強にして最高の男、スカー様!・・・・・―――ぐキュルルる? ・・・・・・・の筈なんだが、駄目だ。腹が減り過ぎだ。「腹が減っては戦は出来ぬ」と言う諺通りだ。 どっかの軍隊かは知らねぇが、「愛国心」やら「根性・大和魂」だけで腹が膨れるかっつーの!! 食べる為には「先立つ物」が必要だ。しかしだ!最近仕事がメッキリ来ねぇ!! (どんな仕事かは、まぁ、これを読んでいる君達《笑》の想像に任せよう。) 無け無しの蓄えは先月、今月分の家賃に消えていった・・・。 あ?!しかも、明日っから来月だっ!! 手元にあるのは、夏目さんが一人・・・いや、千円札が一枚。千円でしばらくの食費や家賃その他諸々は賄え無い。 どうして、俺様は福沢さんや新渡戸さんに縁が無いんだか・・・・。何か俺様が悪い事をしたというのか! ・・・ああ! 何て可哀相な俺様。 ・・・仕方がねぇ!!こうなったら一発大穴を当てるしかない!!! 千円で包丁かナイフ、ストッキングを買ってきて銀行に・・・・って違う違う!!! いくら追い詰められていても其処まで落ちたくはねぇ・・・。最低な行為だ。イカンイカン・・・。 そうだ!千円を元手にアソコに行こう!!お馬さんが夢と希望を持ってきてくれる場所に。 ・・・そう競馬場に!! ・・・気がついたら万札を握り締めて競馬場についていた。 まさか、ここで俺様の人生が思いっきり方向転換するなんて思いもしなかった。 取りあえず、一番人気の「ミスターポー」に全額かけるか? それとも、危険を分散するために幾らか他の馬にかけてみるか・・・・? うーん・・・。俺様は青白い脳細胞で数秒考え込んだ。その姿はまるでロダンの「考える人」の様に崇高に見えたに 違いない。 「 ! 」 その時、俺様の天才的とも言える勘が「ミスターポー一本勝ち!」と俺に告げた。グフフフ・・・よしやるぜ! これで、当面の生活費はOKさ!ハハハ☆(何て爽やかな俺様だろう・・・) さて、買う馬が決まった事だし馬券売り場に並ぼうか・・・。偉い(『偉そう』の間違いじゃないの?かという疑問を 持った君達へ。『偉そう』では無く、実際俺は『偉い』のだ。其処の所よく覚えておいておきたまへ) 俺様でも、一応小市民への見本として、ちゃんと列には並ぶのだ。 やっとこさ俺様の番だ。・・・長い道のりだったぜ・・・・。ふう。 本命の馬の名前を言おうとした瞬間、「マチカネノホマレにしなよ」という声につられ、思わず一番不人気で引退直前の 馬に全額つぎ込んでしまったのだ。 誰だぁっ!んなっふざけた事ぬかした奴は!!! この俺様のスカーバスター10発お見舞いしてやる!ウラァッ!!!・・・と声の主の方に顔を向けるとそこには まったく悪びれた様子もねぇサングラスをかけたガキ、いや、ウサギが居た。怒りを露にしている俺様をシカトして 馬券をさっと持って行ったのだ! 「・・・ほうらぁ、お兄さん。早くしないとレース始まっちゃうよ!」 ・・・ちょっと待ちやがれ!!と俺様は捕まえたらキツイお仕置してやる気迫でウサギの後を追いかけていった。 生活がかかっている俺様の気迫に小市民達は道を譲る。しかし、道を譲られてもウサギの方が場慣れしているらしいのか ウサギに全然追いつけなかった。 ああ!畜生!!俺様はこのまま無様に野垂れ死にか・・・・、そもそも何でこんなに生活苦なんだ?とふと我に返る。 ・・・・・俺様の人生って・・・禄でもねぇなぁ・・・。今までの自分の姿を振り返ったら泣けてきた。ああ・・・・・。 小市民達の喚声が俺様を現実の世界に引戻した。もう、レースはとっくのとうに始まっていたのだ。 一番人気のミスターポーに対しての歓声が圧倒的に占めていた。 ・・・・!っそうだっ!あの、ウサギをとッ捕まえるんだった!辺りをまるで猛禽類が獲物を探すような目で見る俺 様。・・・・・絶対非合法集団関係の人間に見えたに違いない。小市民どもに言っておこう、 この俺様は善良な市民だ・・・がしかし、今はそんな事を気にしている場合ではない!! あの、ウサギを捕まえて、何処だったか・・・苗場か稲葉かどっちかのウサギの様に毛を毟らなきゃ気がすまねぇ!!! ・・・と息巻いている俺様に声をかける奴がいた。振り向いたら・・・・あのウサギだった。 ラッキー!!飛んで火に入る夏の虫って奴だァ!!!・・・と獲物に食らい付く獅子の様にとッ捕まえた俺様。 何か表現が格好良いな♪うん。 ・・・・それはともかくとして、ようやく捕まえたぞこのウサギ!!!俺の馬券、もとい俺の全財産を返しやがれッ!!! ・・・・・さて、どうお仕置してやろうか・・・毛を毟ってやろうか?・・・それとも・・・・ と腸が煮え繰り返っている俺様。だが、このウサギはそんな俺様を気にもとめなかった。それどころか、 「レースを見てご覧」とほざいているのだ! 何が「レースを見てご覧」だ!レースは一番人気馬が先頭を独走しているじゃねぇか・・・・って、おい!マジかよ!! ウソだろっ!!! この日のレースには、雨が降った。そう、小市民達の涙と一番人気馬の馬券の雨が。 俺様は一瞬自分の目を疑ったぜ・・・。 あの、一番人気馬が600M地点で足を故障したのかズルズルと下がって行き、大外から「マチカネノホマレ」が レースを制したのだ。 ・・・つまり、俺様が買った馬がゴールしたのだ。 「・・・・・お兄さん、良かったね。はい、万馬券。」 レースの結果に呆然としていた俺様に再び声をかけるウサギ。・・・・万馬券だと??何???何だと??! 信じられねぇ!!!うひょ―!!凄ぇ!!!(←・・・何か小市民チックだな。アハハ☆《乾いた笑》) ・・・・・ま、「災い転じて福と成す」って奴だな。 「じゃぁね、お兄さん☆」 そう言って立ち去ろうとするウサギ。・・・・・グ?キュルルル・・・・・・・あ?、レースの緊張が緩んだ途端、 空腹が襲ってきやがった・・・。しかも、何時もの二倍の音を立てて・・・・って、違う。俺様の音のほかに・・・・ あ、もう一人・・・。ウサギか・・・・。いきなり、俺様に横槍を入れた事はイカンが、「万馬券の恩」という物が有る。 ここは・・・・・ 「・・・何か用?お兄さん?」 俺様はウサギを呼び止めた。「万馬券を当てたお礼に何処かに食いに行かねぇか?」と。いくらなんでも、 この俺様だって「恩返し」という言葉くらいは知っているのだ。 「・・・・本当に?良いの?」 もちろん構わねぇ。俺様とウサギ分だったら大した金額にならねぇし、当面の生活費に影響が出ねぇ・・・・と思う。 多分。うん、そう云う訳で換金してから、全国の駅前にチェーン店を進出させている大衆居酒屋に直行したのだ。 ・・・・・・とその前に、来月分と再来月分の家賃の支払いと、銀行に幾らか貯金して行ったが。 石橋はちゃんと叩いて渡らねぇと危ねぇしな・・・って違うか、「備え有れば憂い無し」って奴だな。 俺様とウサギは大いに飲んだ。ウサギの名前は「ケビン」と言う。ま、俺様ほどでないにしろ、良い名前だと思う。 うん。サングラスを外したウサギ・・・いや、ケビンの顔は結構あどけなかった・・・世間一般の「超可愛い♪」 の部類に入りそうだった。・・・しかしだ、こいつは「外見と中身は一致しねぇ!」と言う良い見本だった。 立て続けに店で一番強いカクテルを飲んだ後、泡盛をかっくらったからだ。・・・・・すげぇ・・・。 と俺様はほぼ呆れ顔で眺めているとケビンは平静な顔つきのままにっこりとスマイル☆ ・・・・俺様に酒が入っているとはいえ・・・ちょっと可愛い・・・・と思った。 ・・・・・ああ!イカンイカン!!シッカリしろ自分!!! 「お兄さんの名前って何て言うの?」 ハハハ!そのピーンと立った可愛いお耳でよ〜くかっぽじって聞け!!この俺様の名前を!!! 史上最強の男、スカーフェイス様だっ!!!!グフフフフ〜!!!! 「ふ〜ん。変わった名前だね」 ・・・・お・・・おい?平然としたまんまだ・・・。何でだ??もっと、こう、驚く事はないのか・・・? ・・・少し俺様自信喪失〜。やる気ナッシング・・・・。 でも、飲んでいて楽しいのは、相性が合うからなんだろうか?うん。そうに違いない。 俺様にあわせて酒が飲める奴なんて滅多にいねぇし。うん、そうだそうだ。 ・・・・・・うーん、ビールもう二本追加ね☆ 白紙・・・そのまんまで白い紙。・・・俺様の頭の中は白い世界で覆われていた。・・・・何も覚えてねぇ・・・。 ああ、俺様は今、記憶の白い海を漂っている〜。・・・うーん、詩人な俺様♪ ・・・・クンクン。ん〜、味噌汁の良い香りが辺りを漂っている。良いね♪ ・・・え?味噌汁?何で味噌汁? ・・・・真っ白な記憶の海を漂っていた俺様はハリウッドのアクションスターの様に飛び起きた。 何時もは少し時間が無くて掃除が滞っている部屋が朝日で凄い輝き、塵一つも落ちていないのだ! 俺様愛用のちゃぶ台には朝食の用意がちゃんとされていた。 ・・・・・何じゃぁこりゃ??!昨日の万馬券にも驚きだったがこの用意の良さはもっと驚きだった。 「スカー、起きたの?オハヨ♪♪」 呆然としている俺様に声をかけたのは香しい味噌汁を運んできたケビンだった。 ・・・・何で、俺様の部屋に居るんだ!!?・・・訳が判らねぇ!!!! 「何ボーとしてるの?早く食べないと冷めちゃうよ♪」 混乱している俺様をよそにさっさと食べるケビン。 ・・・・取りあえず、俺様も食べる事にしよう。事情を聞くのは後でも良いっか・・・。うん。 う〜ん、ちゃんとだしが入った味噌汁は美味いなぁ・・・。ここん所、レトルトばっかりだったから・・・。 ああ、泣けてくる・・・。他のも美味い♪♪うんうん、久しぶりにまともな飯にありついたぜ・・・・。 ・・・・さて、食べ終わった事だし、事情でも聞こうか・・・。何で、お前がここに居るんだ?ん? 「え・・・?」 ケビンの後片付けの手が止まった。 「・・・そうだよね・・・。覚えていないよね・・・。お酒が沢山入っていたから・・・しょうがないよね・・・」 そう言うと、エプロンをハンカチ代わりにして目頭を押さえた。・・・・何だ?この雰囲気は・・・? ・・・・もしかして・・・もしかして・・・・。何か強烈に嫌な展開になるのか???? でも、当事者(?)であるらしい俺様は一応事情を聞かなければ・・・・。 「ベロンベロンだったスカーを何とかここに連れてきたのは良いんだけど・・・う・・・ヒック・・・・ 何もしないって・・・」 ・・・え?泣いている・・・?はい????・・・・???! 「何も・・・しないって・・・・、全部責任とってやる言ったのに〜!!!!無理矢理俺を・・・・うわぁ〜ん!!」 ギャー!!!おおおぉぉぉ(←凄い動揺っぷり)俺様は何て事を―――っ!!!! 俺様の信条は「素面の自分で相手のハートをゲット」なのだ!!!・・・・それを破っちまった!!!! ・・・アルコールの力を借りなきゃ相手をゲットできない奴等を一番嫌っていた俺様なのに〜!!!!うわ――――っ!!!!! 「・・・何か俺、・・・スカーにとって邪魔そうだから・・・バイバイ・・・」 そう言い残して去ろうとするケビン。 そんなケビンを俺様は後ろから抱き止める。当事者として俺様は責任を取る!!!いや、取らねばならんっ!!!! 取らなかったら男が廃る!!!! 全責任、俺様が取ってやる!!! 「・・・本当に良いの?・・・本当に???」 ああ、構わねぇ!!俺様とケビン何とか食っていける!!!そうだ!大丈夫だ!!!!・・・と腕の中に居るケビンと 俺様自身に言い聞かす。ケビンの柔らかい髪を撫で、握り拳を明後日の方向に向けながら。 この日から、俺様とケビンの奇妙な生活が始まったのだった。 ・・・・・・スカーはこの時点で気付くべきだった。抱き寄せたケビンが「可愛いスマイル♪」とは大いにかけ離れた 勝利(?)の笑みを浮べていたのを・・・・・。 とっぴんぱらのぷう(←日本昔話風END) |