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◆ 改訂版 授かりもの2(ある晴れた昼下がり 中)

改訂版 授かりもの(ある晴れた昼下がり 中)

 平日の昼間、しかも冬だというのに、ジェイドとスカーフェイスのいるオープンカフェは満席だった。
 大通りに面しているから分かりやすい場所だろうと、何も知らないジェイドが待ち合わせ場所に選んだそのオープンカフェは、
 デザート類のメニューが豊富なのを売りにしているので、若い女性の間で人気が高い上に、情報誌のショップ案内ページに常連と
 言っていいほど掲載されている有名な店だった。
 今日も客の多くは若い女性なので、そんな中に混じっている無骨な二人は周囲の風景から浮いているどころか、遥か上空まで
 飛んでいってしまっている。
「ところでお前いつから日本にいるんだ?」
 いつもより無口なジェイドに対して、スカーフェイスは比較的当たり障りのなさそうな会話で攻めてみることにした。
「・・・十日前だから、先週の土曜の夜にレーラァに連れられて来た」
「連れられてってお前なぁ。いったい何の用なんだ?」
「さあ?」
「さあ?って」
 スカーフェイスはあきれるが、全然分からないんだと、首をかしげるジェイドは、来日の目的を本当に知らなかった。
 日本に来てから師匠は毎日忙しそうにしているが、何をしているのか説明してくれないし、用事にかまけてかまってもくれないので、
 ジェイド自身にはさっぱり事情が分からない。
「で、どこに泊まってるんだ?」
「TWTホテル」
 ジェイドが挙げたホテルは外資系の一流ホテルだった。
 細かい金額までは知らないが、そのホテルに泊まれば結構な額になることは容易に想像がつく。
 ビンボーそうに見えるけど、あれでも以外とブロッケンのおっさんは金持ってやがるのかなと、余計なことをスカーフェイスは思った。
「レーラァは・・・」
「うん?」
「レーラァとは別々の部屋に泊まってるんだ」
「マジ?」
 消え入りそうな声でジェイドは言うが、スカーフェイスにはしっかりと聞こえていた。
 心の中でラッキーとスカーフェイスは叫ぶ。
 しかし、ジェイドは別にスカーフェイスを誘おうと思ってそんな事を言った訳ではない。
 今まで片時も自分の側を離れる事がなかった師匠が、今回は宿泊してるホテルの部屋をなぜか別々に取っているので、
 ただ単に寂しかった事をジェイドは訴えたかったのだ。
 それはまるで、今までは専業主婦だった母親が急にパートに行きだして、鍵っ子になってしまった小学生と同レベルの悩みだった。
「レーラァと顔を会わせるのは、朝と夜の食事の時だけなんだ」
 昼食はいつも別々なんだ、と寂しそうにジェイドは言う。
 師匠は朝食の時に、勉強していろだのトレーニングしていろだのと、極めて抽象的な指示を与えてはくれるが、本当にやっているのか
 どうか全然確認しないので、実は遊びほうけていたとしても絶対バレない状況にある。
「オレ、日本に来てからずっとレーラァにほったらかしにされてるんだ。見てなくてもちゃんとやってるって信用されているのかなって、
 いいように取っていはいるんだけどさ」
「いいじゃないかそれで。大体、今までの四六時中一緒ってのが変だったんだよ」
「変かな?」
「おかしい。変だ。ものすごく変だ」
 実の親子でもオレ達ぐらいの年になったら、そんなにべったりくっついていないし、それに人間のガキなんざ、もっと小さいときから
 学校に行ってるぜ、とジェイドに向かってスカーフェイスは言う。
 これだけを聞けば、スカーフェイスがジェイドに対して大人になれと諭しているかのように感じるが、スカーフェイスはただただ
 ブロッケンJrが邪魔でしょうがないだけだった。
「そう・・かな?」
「そうだ」
「そうだ・・よな」
「そうそう」
 すぐに人の言う事をまに受けるジェイドは、珍しくまともな事を吐いたスカーフェイスの口車に、今回もあっさり乗ってしまった。
「うん」
 騙されているのにも気がつかず、ジェイドは今日初めての笑顔を見せた。
「ちょっとすっきりした。やっぱり外出して良かった」
「オレと会って良かったぐらい言え」
「えー?そんなことないよ、ってウソウソ。怒るなよ。でも病気でもないのに、ホテルの部屋にこもって一人ぼっちで過ごすのは、
 思っていたよりも苦痛だったんだ。レーラァに言われた通り勉強したり、本を読んだりしていたんだけど、どうしても暇を
 持て余しちゃうし」
「結局オレは暇つぶしか。ひどいな。で?退屈しのぎに師匠の目を盗んでオレと会おうと思いついたのか」
「うん。こっそりね」
「この状態でか?」
 自分と師匠が泊まっているホテルのすぐ側にあるオープンカフェの、それも通りからまる見えの席にいて何がこっそりだ。
 スカーフェイスは思わず突っ込みを入れた。
「そうじゃなくって、昨日こっそりスカーに電話したんだ」
 ジェイド的こっそりとは、師匠が出かけている隙にという意味だが、ホテルで別々な部屋に泊まっているのなら、いつ電話をかけても
 すぐには師匠にバレないという事実は、すっかり頭からとんでいた。
 そしてジェイドは昨日初めて師匠に嘘をついた。
 元々師匠には外出を禁じられてはいないので、観光に行くと言えば丸一日出かけていても何にも言われないだろう。そう思って
 一生懸命言い訳を考えたジェイドが、昨日の夕食の最中に明日は観光に出かけますと伝えると、思ったよりも師匠はあっさり許可を
 出し、日本円で臨時の小遣いまでくれた。
 楽しんで来なさい、と笑顔で言う師匠を前にして、スカーフェイスと会おうとしている事よりも、隠し事をしている事の方が
 後ろめたかった。
「じゃあお前は師匠を騙して出てきたのか?」
「ううん」
 レーラァはお見通しだったんだ、とジェイドは続ける。
 内緒で行動していたはずだったのに、嘘をついた事のないジェイドのやることなど師匠にはバレバレだった、というより師匠は
 見てない振りをして、ジェイドが部屋からどこに電話をかけたのか、毎日フロントでチェックを入れていたのをジェイドは今も
 気づいていない。もちろんスカーフェイスも、いつのまにか自分の電話番号をブロッケンJrに知られている事を全く知らない。
「ううんって、それじゃ、よくあの師匠がオレと会うのを許したな」
 いよいよ諦めたのかと、スカーフェイスは嬉しそうに言う。
「あの、それは違うんだ」
 ブロッケンJrの声がジェイドの耳に蘇る。

 スカーフェイスと付き合ってもいいが
 付き合う奴を一人にするのはよくないな。

「どう違うんだよ」
「どうって・・・」
 せっかく打ち解けてきたジェイドのトーンが再び下がる。
「お前、今日はおかしいぜ。オレといるのがつまらないのか?ホントは師匠にオレと会うのを反対されたのか?
 出かける時に何か言われたのか?」
 テンション低すぎのジェイドに対して、ついにスカーフェイスは苛立ち始める。
「ううん。レーラァは何も・・・。あっ、そう言えばコーヒー飲むならカフェオレにしろって、牛乳の方が多いヤツ。それと間食は
 あまり取るなって言ってた」
「子供かお前は」
 ジェイドの前には師匠の言いつけ通り、牛乳たっぷりのカフェオレが運ばれている。いつまでたってもレーラァレーラァかと
 スカーフェイスはうんざりした。
「師匠が何にも言わないってのに、一体どうしたってんだ」
「うーん。あの、どうしちゃったんだろ?」
 自分をじっと見つめているジェイドに対して、ひょっとして今夜はOKって感じ?と、全く見当違いな事を思いつくスカーフェイスが
 知っている訳はないが、ジェイドは師匠から何も言われていないのではなく、むしろ余計な事を吹き込まれている。
 ジェイドの様子がおかしいのは昨日の夜に師匠から頂戴してしまった、有り難いのかお節介なのか分からない訓辞のせいだった。
(ジェイドのヤツ照れてるんだな・・ぐふふふふ、かわいがってやるぜ)
(どうしよう・・・昨日の夜レーラァに言われた事はスカーには、ってゆーか誰にも言えない)
 二人の思惑は全然かみ合っていない。
 ニヤニヤするスカーフェイスと、もじもじしているジェイドは、お互い全く違う事を考えながら黙り込んでしまった。

to be continued