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◆ 理想の花

《本能ガ支配スル 獣ノ僕ヲアゲヨウ》

 マンモスマンの来襲事件から一週間が過ぎていた。
 「まー、考えてみりゃこいつも災難続きな奴だな。入院中に、さらに重傷負って再手術なんだからよ。」
 デッドシグナルはベッドの上のマルスを見下ろす。その傍らで、ジェイドは意識の無いマルスの手を握っていた。
 「これだけ不幸続きなのに免じて、許してやったらどうよクリオネ?おめーの怪我は大体良くなったろ?」デッドシグナルは、
 自分の隣で二人の様子を見ているらしいクリオネマンに話し掛けた。
 「―――そうだな。」クリオネマンはポツリと言う。
 マルスと同じ病室の、隣のベッドにいたケビンは、その声に何とは無く、僅かな引掛かりを感じて顔を向けた。その時、ノックの音がする。
 ブロッケンJrが入って来た。「ジェイド。」 「レーラァ。」ジェイドは立ち上がって師を迎える。
 「ニンジャが調査報告を持って帰ってきた。今待合室にいるが、話を聞くか?」
 「はい。」ジェイドとデッドシグナルは扉に向う。デッドはクリオネを振り向いた。 「すぐ行くよ。」さらりとした言い方に、
 デッドはクリオネを見ているジェイドを促し、3人は病室を出て行く。
 見送ってからクリオネは。ベッドのマルスを見下ろした。蒼の色の瞳の、氷のような光。
 「死ねば良かったのに・・・。」低められた呟き。ケビンマスクはぎょっとして顔をあげた。クリオネマンは踵を返して病室を出ようと
 していた。チラリとケビンを見て扉を開ける。

 (好都合だと思ったよ。できれば、あの場で止めを刺してやりたかった。だがジェイドが)クリオネマンは思い出す。
 (奴をしっかりと抱き締めていた・・・守ろうとしているようだったな。)
 救出作戦は失敗の許されない、一度きりの勝負だった。デッドシグナルが"侵入禁止"を解除したと同時に、打ち合わせたとおりに
 伝説超人ザ・ニンジャが"転所自在の術"で人口の海面を出現させ、クリオネマンは"海流"を使った。彼らの元に辿り着く。ジェイド、
 マルス、ケビンマスク、そして・・・・巨体の超人、かつての伝説超人達の強敵マンモスマン。
 クリオネマンは踊り出た。ゼリーボディを開くと・・・・その時サポートに来たデッドシグナルが、開口部を思い切り開く。対万太郎戦で、
 氷塊もろとも万太郎を取り込んだ時以上に。大男は、表情は象のような毛皮のためによく解からなかったが、驚いていたようだった。
 ・・・・ジェイド達三人を取り込み、その状態で"アイス・ブレス"を使う。流石に、全身を凍結させるのは不可能だったが・・・
 立ち上がった大男の足元を凍らせて、動きを封じることには成功した。
 そいつは、ニヤリと笑った。負傷しているようだが、何か秘策でもあるのか。右手に何か持っていた大男は、「忘れ物だ!」それを
 投げつけてきた。思わず左手を突き出していたが・・・こつりと当たった感触。
 ジェイドの、髑髏の徽章だった。慌てて握り締めた。
 クリオネは変身して、自分の発生させた"海流"を遡って戻った。「トラフィックサイン、駐車禁止!」デッドシグナルがカードを翳し、
 同時にザ・ニンジャが別な転所自在の術を使い、全員の目論見どおりに異空間はそこから消滅した。創り手もろともに。
 怪我人ながら一番の功労者はクリオネマンだった。その後6日間、起き上がれなくなったが。目を覚ますと、傍らにジェイドがいた。
 (・・・・良かった。)ぼんやりと彼を見ながら思う。ジェイドは微笑って・・・クリオネマンの左手を握り、言った。
 「ありがとう・・・クリオネ。」彼のカラーの上には、髑髏の徽章が着けられていた。

 戻ってきた時に、マルスは相当な重傷を負っていた。閉じかけた腹部の傷と、昔背中に負った古傷が開いたらしい。巻き込まれた
 伝説超人ロビンマスクの息子ケビンも、脇腹に深手を負っており、二人は手術を受けて後、同じ病室に入れられた。 クリオネマンの
 覚醒を確かめてからジェイドは、「・・・まだ・・・スカーは目を覚ましていないんだ。」そう断って、彼の病室に入って行った。
 彼が取った左手に残った、温もりの余韻。それを感じながらクリオネマンは思っていた。
 (・・・やはり、貴様にジェイドは渡さん。悪行超人マルス。)天井を見上げる。(なに簡単なことさ・・・。貴様が悪行超人である以上、
 生まれついての正義超人であるジェイドと相容れる筈はない。その真実にジェイドが気付いたその時に・・・貴様には、ジェイドの前から
 消えてもらおう。)ふ、と笑いが零れた。
 (未来永劫に、な。)

 (あの時ジェイドは・・・"悪行超人でもスカーが好きだ"と言った。だがそのことは、ジェイドの中の正義とは相容れない。
 決着が着くのも、そう先のことじゃない。)思いながら、待合室へ歩を進めるクリオネマンはその時、伝説超人の1人と擦れ違い、
 道を譲りがてら頭を下げた。その超人は会釈を返し、先程クリオネが出てきた病室の扉の前に着くとノックをする。
 (ああ・・・・あの超人は彼の関係者だと聞いたな。)

 ノックの音に、ケビンマスクは顔をあげる。入って来たのは、伝説超人ウォーズマンだった。
 「・・・・・!!」ケビンは跳ね起きた。ウォーズマンは手で制する。「無茶はよくない・・・。」彼はポツリと言った。だが温かい声色だった。
 「・・・ケビン。」
 「・・・・どうして、あんたが・・・。」ケビンはベッドに身を起こしたままで訊ねた。ウォーズマンは持ってきた花束を、サイドテーブルの
 上に置く。「花瓶を借りて・・・ここに生けてもいいか?」そう言った。「・・・まさか・・・・親父も一緒に。」ウォーズマンは顔をあげた。
 「"今あいつは、私に会いたくないだろう。"ロビンはそう言ったよ。」ケビンは息を詰める。「"私も、今行くべきではないと思う。
 父親として無責任だと言われれば、返す言葉もないがな・・・・。お前なら、奴も話しやすいだろう。行ってくれないか。
 "言われるまでもなく、俺も行きたかったよ。君の顔を見たかった。」ケビンはベッドに目を落とした。

 「ニンジャ。」Jrに呼ばれて、ニンジャは顔をあげた。3人の二期生を見て、ニヤリと笑う。「見事なチームプレイだったな、お主たち。
 こんな有望な若き超人たちがいるのなら、もう一度、特別警察隊を組織することを考えてもいいかもしれん。」同時に彼の頭をよぎったこと。
 (・・・・そして、我が弟子コクモが生きていれば・・・良き指導者となれただろうに。いや・・・)軽く頭を振ってニンジャは、僅かに照れた
 様子の3人を見る。
 「マンモスマンの出現先が判明した。」Jrと3人の二期生・・・中でも、唯一直接対峙したジェイドに緊張が走った。
 「なかなか、意外なことになっておったぞ。」ニンジャは手にした書類を捲る。
 「彼奴が出現したのはメキシコだ。お主ら3名は知らんだろうが、そこに現在、かつて王位争奪戦に参加した者が暮らしておってな・・・。
 Jrは名前くらい覚えておるかもしれんが、飛翔チームを率いていたキン肉マンマリポーサことジョージだ。」「え!?」Jrが怪訝な
 表情を見せたのは当然として、3人の二期生が声をあげたことに、ニンジャは驚く。「知っておるのか、お主ら?」
 「え?いえ、直接には・・・。」ジェイドが答える。「・・・マリポーサは弟子を取っておってな・・・。マンモスマンはそのザ・ファルコと
 いう超人に助け出されたらしい。」「シャルロに!?」ジェイドの声にニンジャは思わず目を瞬く。
 「・・・知り合いか?」「はい・・・。一ヶ月ほど前の、ヘラクレスファクトリー一期生親善試合で、超人委員会が招待した超人です。」
 「聞いた話では、そのマリポーサの部下の息子だとか。」ジェイドとクリオネが続けて言う。「ほほぅ・・・縁というのはあるものだな。」
 ニンジャは多少感慨深げに言った。

 「・・・マンモスマンと一戦交えたと聞いたよ。」ウォーズマンはそう言って口を噤んだ。ケビンは居心地の悪さから、目を反らして隣の
 ベッドで眠るマルスに視線を移した。ウォーズマンは隣のベッドをチラと見て。「新世代超人たちは凄いな。あのマンモスマンを
 追い払ったというんだから。」と言う。彼もどうするかに困って、話題を探しているんだろうとケビンは思った。心配して、全くの
 親切心で来てくれたのはわかっている。だから余計にやりきれない。俺は道を踏み外した。昔ウォーズマンは、説教じみたことは全く
 言わなかったが・・・俺がこうなったのを知って、失望なり軽蔑なりを感じた・・・かもしれない。いや、おそらくそうだろう。
 だったら俺は・・・親父に対してはそうは思わないが、彼を裏切ったことになるのだ。
 「・・・凄いよ、ケビン。」子供の頃の俺に接していたのと似た口調。家出から10年が経っている・・・その間勿論、ウォーズマンとも
 会わなかったから、口調が変わっていなくても仕方がない・・・だが、無性に寂しいような、少し腹立たしいような、何とも形容しがたい
 思いがケビンを包んでいた。
 「・・・言わないでくれ、そんなこと。」ケビンは声を絞り出す。しばらく沈黙が、二人を包んだ。

 「しかしなんで、あの翼のない鳥人くんは象男を助けたんですかね?」デッドシグナルが発言する。
 「・・・・マンモスマンの方も・・・もしかすると、また超人を襲い出すかもしれない。だとすると、彼の身が危ない!」とジェイド。
 「拙者が見た限りでは、その可能性は薄かったな。」とニンジャ。
 Jrと3人はニンジャを見る。「会って聞いてみた。別にこそこそやる調査でもなかったしな。奴に襲われなかったか、危険な様子は
 ないかと。ザ・ファルコはこう言った。"彼を見つけた時に、襲い掛かられました。"では超人警察に突き出した方が良かったろうに。
 そう言うと"でも彼には、私を害することはできませんでしたから。"何故。"そういう力が・・・私にはあるんです。腕力ではなく・・・。"
 ・・・どうもそれ以上は立ち入ることのできそうにない雰囲気だったな。彼奴がまた超人を襲い出すようなことがあれば、超人警察が
 出動することになる。そう言うと、"大丈夫だと思います・・・。超人を襲わなければ、生きていけない訳ではないのですから。
 "そう答えておった。」3人は、顔を見合わせた。「念のためにマンモスマンにも会ってみた。と言っても怪我のために昏睡しておったがな。」
 「超人を襲わないだろうというのは、そういう意味か。」Jrが言うと、「もう一つある。奴はマスクを外しておったよ。」
 Jrが目を丸くする。「だから、一瞬誰だか解からなかった。」「・・・・マスクを・・・外していたのか・・・」師匠の呟きを聞くジェイド。
 覆面超人が、他の超人の前で覆面を取った・・・しかもマンモスマンの場合、覆面は同時に 重要な武器でもある。これの意味することは・・・・
 「何があったのか拙者は知らんし、調査の範囲外だから知る必要もない。一つ言えることは、ザ・ファルコの言葉を信頼しても
 問題ないということだ。」

 ウォーズマンは、今は殊更戸惑った様子もなく、窓の外の暮れ行く日を見ている。じっとそうしているうちに・・・昔のように、ケビンは
 落ち着いてきた。絶え間ない勉強付けの合間に、時たま彼がやって来て・・・こんな時間を持たせてくれたことを、ケビンはぼんやりと
 思い出す。
 「マンモスマン、か・・・。奴のことは昔・・・」ウォーズマンは静かに顔を向ける。「貴方が・・・話してくれたっけ。」言葉がしばらく
 途切れた。「だから・・・立ち向かえたのかもしれない。」ケビンは、少しずつ語り出した。 ―――「そうか・・・・」
 じっと話を聞いていたウォーズマンは言った。「でも、俺の話なんて殆ど役に立たなかったんだな。マンモスマンは次々と隠された
 技や能力を明かしていく超人だったが・・・ビッグ・タスクの弱点まで克服していたとは。奴を倒したのはケビン、純粋に君たちの力だ。」
 「違う。」ケビンは首を振った。
 「ビッグ・タスクを切断したのはジェイドで、マンモスマンを倒したのはマルスだ。俺は何もしちゃいない。」
 「だが・・・おそらく彼ら二人だけでは、マンモスマンには勝てなかっただろう。君が立ち向かう勇気を見せなかったら、彼らのうち
 どちらかが、あるいは両方が、マンモスマンによって肉体より先に心を折られていたかもしれない。」「・・・・。」ケビンは俯く。
 「自分が役立たずだなんて、思わない方がいい。」
 ウォーズマンの言葉を聞きながら、ケビンはマルスの言葉を思い出していた。(俺にはもう、お前は必要ない。期待して助けてやった
 見返りは、たっぷりあったことだし。)
 「・・・・そう思われて当然だ・・・・。」呟くケビンを見るウォーズマン。「俺はあいつを裏切ったんだから・・・俺のために負った傷を攻めるよう、
 万太郎にアドバイスしたのだから・・・」「・・・・。」ウォーズマンはケビンを見つめてから。隣のベッドを見た。
 そこに横たわるのは――― マルス。ことスカーフェイス。正義超人を装った悪行超人。そしてケビンの仲間。
 ケビンは突如、ベッドに突っ伏した。ウォーズマンは思わず乗り出しかける。「あの傷・・・どうして・・・・どうしてマルスに残っていたんだろう・・・
 深手だと言っても超人の治癒力なら・・・・本当なら、跡形も残っていない筈なのに、何故・・・・。」今ケビンを苦しめているのは・・・友を・・・
 大切な人を裏切ったその事実。
 ウォーズマンは、そっとケビンの震えている肩に手を置いた。

 「・・・・ケビン。」ややあってウォーズマンは、ケビンに声をかけた。「そういう傷の話・・・・俺も聞いたことがあるよ。」ケビンの動きが止まる。
 「・・・万太郎の伯父君、キン肉アタルことキン肉マンソルジャー・・・その方は昔、君と同じ様な経緯で家出をされた。キン肉王家の跡取だったから、
 当時の大王夫妻に絶大な期待を寄せられて・・・君のように、遊ぶ暇もなく勉強漬けにされて、反発して家を出られたんだ。その時に左腕を
 ぶつけて、傷を作ったんだけど・・・・。大人になったアタル様の腕には、その傷がまだ残っていたんだよ。」ケビンは顔をあげ、
 ウォーズマンを見た。「アタル様は、家を出て・・・・後悔されていたんだと思う。自分は果たすべき責任から逃げたんだと、気付かれてから
 ずっとね。」一息入れてから、彼は言葉を続ける。
 「超人は確かに、人間と比べて傷の治癒速度が遥かに早い。だがその代わりのように・・・超人によっては、心理面に関係する傷が長く残ることが
 あるんだ。」「それじゃ・・・マルスも・・・俺を助けたことを後悔したから」「そうじゃないと思う。」静かに、ウォーズマンは遮った。
 「勿論、本当の所は彼にしか解からないけれど・・・多分、君を助けた行為自体が・・・・彼にとっても意外だったからじゃないだろうか。
 思わず助けた、でもそんなことをしたのは、おそらく君が初めてだった。彼はきっと・・・君を失いたくないと思ってそうした。」
 ウォーズマンは、ケビンの肩にそっと手を置く。
 「悪行超人だから、と言うのではないが・・・負ければ死ぬのが当然で、誰が死んでも仕方がないと割り切れる世界。そういう世界に彼は
 生きてきたから、誰かを助ようとした事はなかったんじゃないかと思う。それでも君を失いたくないと思って助けたんだ。自分を傷つけても。
 自分にもそんな気持ちがあるのだと・・・そう感じたことが、もしかしたら、彼に傷を残したのかもしれない。」
 ケビンは両手でマスクを覆った。「辛いだろうけれど、ケビン。あの入れ替え戦決勝で・・・君は万太郎だけじゃなく、彼も・・・マルスも
 助けたかったんだろう?」ケビンマスクは・・・ウォーズマンの胸に頭を凭せ掛けていた。「彼がどう受け止めるかはわからない。でも君は、
 彼を受け止められるよう努力しなくちゃ。いつか互いに分かり合えるように。」ウォーズマンは、ケビンの背にそっと手を回し、
 口を噤んだ。
 明かりのない病室内は、薄闇に包まれようとしている。声を押し殺しているケビンを支えているウォーズマン。隣のベッドは薄闇の中で、
 輪郭以外はっきりと捉えられない。ベッドの上で、マルスはそっと目を開けた。(・・・フン。)心の中で呟き、再び目を閉じる。

 病院のロビーまで、Jrと二期生たちはニンジャを見送った。「達者でな。」ニンジャは4人に言う。「御世話になりました。お元気で。」
 ジェイド達は言葉を返す。笑いかけてニンジャは、Jrに向き直ると言った。
 「Jr。お主は良い弟子を持った。大事にしてやれよ。」「・・・・。」答えようとしてJrはニンジャを注視する。
 「では、さらばだ。」彼は病院の自動ドアを出た。(・・・・。)足を速めながら、ソルジャーの言葉を思い出す。
 (・・・ノーリスペクトNO.2、ハンゾウ。奴はフォーク・ザ・ジャイアント以上に危険な超人だ。)思いあぐねているようだった。
 (とりあえず、ノーリスペクト3人衆に対しては、万太郎に勝てば釈放するとの条件で今回の修練試合を了承させたが・・・ 
 万一ハンゾウが万太郎に勝った場合は、超人射撃隊を待機させておいて、強制再収監か射殺も考えなくてはなるまい。) 
 ニンジャの脳裏に、あの時の光景が浮かんだ。弟子コクモの前に、凶悪な笑みを浮かべて立っていた、鬼面を着けた超人ハンゾウ。
 その後に・・・・。
 僅かに首を振りニンジャは思った。(そうなる前に拙者が。)前方を見据える。(コクモよ。お前の敵は必ず取ってやる。)ニンジャは
 跳躍し、夜の闇に消えて行った。行き先は、万太郎とハンゾウの試合の行われる京都府だった。

 二週間後。ケビンマスクは退院した。退院が決定した時、ウォーズマンに知らせた。「・・・どうするんだ、ケビン。」ウォーズマンは
 訊ねる。「ウォーズマン。」ケビンは彼に言った。「俺が自分に納得できるようになったら・・・・その時、親父を訪ねて行く。
 そう伝えてくれるか。」ウォーズマンはケビンをじっと見つめていた。「わかった。元気でな、ケビン。」「・・・貴方も。」
 ウォーズマンとの別れが頭を過る。病室を出ようとしてケビンは、隣のベッドのマルスを見た。眠っているようだ。彼もかなり回復している。
 直に退院するだろう。「・・・・じゃあな、マルス。」呟いて踵を返そうとしたケビンに、「おい。」声が掛けられた。振り向くと、
 マルスは上半身をベッドの上に起こしていた。
 軽い嘲りを含んだ笑みが、形のよい唇に浮かんでいる。「そのマスク取れよ、ケビン。」マルスは指示した。
 「・・・・・。」ケビンは、言われたとおりにマスクを取る。マルスはその間に立ち上がっていた。
 「む・・・!」顎を掴まれ同時に、唇が塞がれる。一瞬離れようとしたが。ケビンはマスクを床に落とし、マルスの背に両腕を回していた。
 しばらく流れる時。マルスはケビンから顔を離すと、ニヤリと笑っていた。
 「今度会った時ゃ・・・俺の背中に傷はないぜ、ケビン。」ケビンの肩を突き放す。
 ケビンはマスクを拾い上げると踵を返した。扉の前に立つと、マルスに問う。「お前はまだ、dMpを再興したいと思っているのか?」
 「さぁな。」マルスは言った。再び被ったマスクの下で、ケビンはふっと笑う。
 病室を出て・・・・ケビンは、はっと横を見た。クリオネマンが居た。彼は腕組をして、ケビンを見ている。
 「・・・・退院、おめでとうございます。」クリオネマンは声をかけた。(・・・そうか・・・・なるほどな。)クリオネの唇が歪められる。

 その夜。照明の落ちた病室内に、扉を開けて入って来た者があった。ベッドの上のマルスは横目で見る。
 「ジェイド。」 翡翠の衣服の少年超人が、ベッド脇に立っていた。「スカー。」彼は口を開く。
 「明日お前は、超人警察病院に移されることになった。」「あぁ?」「お前、もう動けるんだろ?ここを出ろよ。」さらりと言うジェイドを、
 マルスは一瞬見つめる。「・・・・チッ。警察病院に移すなら、俺が動けねぇうちにやっとくべきなんじゃねぇのか。相も変わらず杜撰だな、
 正義超人どもはよ。」「重傷者をそう簡単には移せないだろ。そう言う意見もあったらしいが、レーラァが掛け合ってくれたんだ。」
 「てめぇの師匠がか?」「レーラァに感謝しろよ、スカー。お前は軽犯罪で収監されたくないって前に言ってただろう?」ジェイドは
 笑った。「・・・・dMpの残党をそのままにはしておけんってのもあるんじゃねぇのか?超人委員会は、覇権を奪われることを恐れて
 いらっしゃるようだからな。」「―――かもな。」ジェイドはマルスに手を差し出した。「行こう。」
 「・・・・第二期主席卒業生さんらしくもねぇ行いだ。」マルスはそう言ってニヤリと笑う。

 「・・・・ますますらしくねぇな、ジェイド。てめぇの師匠が知ったら卒倒するんじゃねぇのかよ。」半分呆れ顔でマルスは言った。
 二人はラブホテル前に立っていた。ここまで連れてきたのはジェイドだ。「どうせまた、どこかへ消えるんだろう。お前は。」
 ジェイドは言う。「その前に・・・その・・・・無理強いでなくお前に抱かれたいって・・・・思って。」彼は顔を背ける。赤くなっているのが
 見て取れた。「大体お前は今まで、勝手にやって来て一方的に・・・・!」ジェイドは、マルスにキッとした顔を向けた。だが口から漏れた
 言葉は。「・・・イヤか?それとも、まだ傷が痛むか?」「そういうことは先に聞け。」「お前は全然気にしてやがらないクセにっ!」
 むくれたような表情を見せるジェイドにマルスは言った。「傷なんざとっくに塞がった。」
 そう言うマルスをじっと見つめ、ジェイドは言葉をかける。「・・・・もう・・・・あの頃には戻れないんだな。」
 マルスはジェイドを見る。「俺たちは・・・同じ道は歩めないんだ。」目を落とすジェイドに、マルスは言った。
 「いいんじゃねぇのか、それで。」ジェイドは目をあげる。「群れると超人は弱くなる。俺はそういうのはまっぴら御免だ。」
 自分を見つめているジェイドに、マルスは笑いかけた。「ま、てめぇはお友達や師匠と仲良くやるがいいさ。」「スカー。」マルスは
 ジェイドの肩をぐいと引き寄せる。「野郎二人が突っ立ってたら注目されるだろ。さっさと入るぜ。」「・・・・・。」
 ジェイドはそっと、マルスの胸に身を寄せる。

 「ふあ・・・・・あ・・・・」全身を愛撫する逞しい手に反応し、甘美な興奮に戦慄く、ジェイドの白い肢体。
 張り詰めた、艶やかな腿を押し開いたマルスは、既に待ち侘びている窪みと擡げ始めた肉茎の間を、力を込めた指先で広げる。
 「ア・・・・」マルスは押し広げたそこに、尖らせた舌を当て、嬲り始めた。「ひっ・・・・」ジェイドの漏らした甘い喘ぎが、一瞬引き攣った。
 「あん・・・・っ・・・あッ・・・」刺激されている部分と、愛撫を待ち侘びる二つの個所に熱い血が集中し、焼かれるような感触に耐えられなく
 なったジェイドは激しく首を振った。両の手が、マルスを求めて下がる。
 「もうココが・・・喜んで、震えてるぜ? ヒクヒクしやがって・・・濡らさなくてもすんなり入りそうだな、ジェイド・・・。」嬲るように
 囁きながらマルスは、右手をジェイドの腿から離すと指を立て、誘うように僅かな動きを見せてる、頼りなげな窪みへと・・・真っ直ぐに、
 突き立てていった。
 「ああ・・・!ふっ・・・」喘ぎを漏らすジェイドの瞼は閉じられ、その頬は薄紅に染まる。マルスは指を根元まで突き入れると、内部で
 掻き混ぜ、突如一気に引き抜いた。ジェイドが声を引き攣らせる間もなく、マルスの指は再び窪みに突き入れられる。弾力に富む狭い
 窪みは、もう一度容易く、指を受け入れた。「くふッ・・・!」その動作が幾度か繰り返され、ジェイドはそれによって齎される肉体の
 反応―――快楽―――に従うことしかできなくなっていった。「ア、あ・・・!! スカー・・・! !! うっ・・・!!」幾度も繰り返される
 指の動きに、体の律動を合わせていたジェイドは、突如2本に増やされた指に窪みを押し広げられ、「か・・・はっ・・・」
 その衝撃に順応して行く。「ぐ・・・クゥッ!・・・ ス、スカー・・・!もう・・・・っ!!」激しさを増す喘ぎに混じる、哀願の響きを伴った声。
 マルスに指で犯されている部分からせり上がってくる、淫靡な波に耐え切れなくなり、ジェイドはその引き締まった腰を激しく動かした。
 マルスはジェイドの窪みを犯したまま、再び舌を、ジェイドに快楽を齎す二個所の中央に滑らせ・・・そのままゆっくりと、上の方へと
 移動してゆく。赤い舌は、興奮に硬さを増し、薄い血の色を浮かび上がらせたジェイド自身を根元から嬲り始める。
 「んあぁ・・・スカー・・・は、やく・・・」その声に殊更答える風でもなく、マルスの舌はゆっくりとジェイドを包む。彼の指は、
 今だジェイドの奥まった部分を犯し続けていた。
 溢れる蜜にしとどに濡れた先端に辿り着くと・・・口に含み、マルスは口内の敏感な部分に歯を立てた。
 「アアッ!!」瞳を一杯に見開き、ジェイドは鋭い悲鳴をあげる。同時に熱い肢体が硬直する。
 口内に、ジェイドの甘い蜜が迸ったのを感じながら、マルスは舌を、痛みを与えられた部分を癒すように絡みつかせた。
 「ううっ・・・うぅ――――ッ!!」首を振り、激しく腰を揺らし・・・それに合わせて、マルスはジェイドの中の指をうねらせる・・・・
 「はぁっ!!」ジェイドが、体内の熱い奔流を滾らせた。
 マルスは口唇をジェイドの肉茎から離した。飲み込まれなかった蜜が、どろりと口唇の端から流れ出す。白い果汁は、
 笑みを浮かべながら口を拭ったマルスの厚い手を濡らした。

 「ジェイド。」悩ましげな吐息を吐きながら、肩を上下させているジェイドの耳元に口唇を押し付け・・・声をかけながらそっと息を
 吹き付けるマルス。頬を染め、喘ぎ続けながら、マルスにその翡翠の視線を向けたジェイドに、さらに言葉が投げかけられる。
 「今度はお前がサービスしな。」マルスは、両手を寝台に突っ張ると、ジェイドに覆い被さった。

 ジェイドの唇が、マルスの逞しい胸を、腹部を、腰を滑り落ちて行く。そのまま、彼の足の間に・・・体を割り込ませた。「ん・・・?」
 そのまま潜り込むジェイドに、聊か不審を感じるマルス。ジェイドは、潜り込んでから彼の双丘を手で割り開くと、窪みに舌を這わせた。
 「く・・・ッ!」ジェイドの濡れた舌が、窪みの周囲を辿る。そして窪みの入り口を弄ってから・・・舌は窪みに潜り込んだ。
 「う、む・・・・。」マルスは思わず声を漏らす。柔軟で温かく、濡れたそれは別の生き物のように、マルスの中で蠢いていた。
 「くぅ・・・。」ジェイドが挿入された時にあげる叫び。その理由をマルスは、今感じ取ったような気がしていた。
 淫らな音が響く。舌をマルスの中で動かしているジェイドが、口唇を使ってその部分に吸い付いているのを感じたマルスは、
 「て、めぇ・・・。」ジェイドの体を見下ろす。マルスの足の間に潜り込んでいる頭部と、腰に添えられている白い両腕。
 仰向けになっている肢体の・・・目に留まった、一度は萎えたジェイドそのもの。それが、再び充血し立ち上がっている姿。
 「・・・俺に吸い付いて感じてるのかよ?」
 ピチャ、ピチャッ。答えのようにその部分を吸い、嬲る音が聞こえる。「この淫乱が。」マルスは上半身を乗り出し、ジェイドのそれを
 鷲掴みにした。腰に添えられた手が一瞬震える。
 厚い手が激しく動き出し、ジェイドを揉み扱く。その感触に耐えようとするかのように、マルスの窪みを愛撫する動きが一層激しくなる。
 手の中でジェイドが固くなるのを感じたマルスは、上半身を前に倒すと、再びそれに舌を使った。最初、舌先で先端を濡らしていたが・・・
 次第に口全体で飲み込み、ジェイドの動きと競争するように激しく嬲る。互いの秘所を貪っていた二人は、やがて登りつめた。

 「さぁて・・・・やっぱりフィニッシュは、入れてほしいだろ?」互いに愛撫する行為を終え、マルスはジェイドから離れると、その体を
 引き起こした。「お前が乗ってきなよ、ジェイド。」
 ジェイドは身を起こすと、マルスの肩に手を置き体勢を整える。まだ力強く頭を擡げているマルス自身にその部分を当てると・・・
 興奮に、触れ合った部分の周囲が熱くなってくる・・・・・力を込めて腰を落とした。
 せり上がってくる・・・自分自身の体重により、体内のマルス自身がより圧迫されて感じられ・・・・「アゥ・・・っ・・・あ・・・・。」ジェイドは
 声を漏らした。動こうとした彼の腰を、ジェイドの肩にかけていたマルスの両手が、突如グッと掴んで押し止めた。「アッ!?」
 悶えようとする腰を、マルスの手は押さえつけて離さない。「うっ・・・く・・・・」マルス本人も動こうとせず、苦しげに
 顔を顰めるジェイドを、薄い笑みを浮かべて見つめている。「い・・・や・・・だ・・・」マルスを動かすためにジェイドは、その肩に手をかけ、
 揺さぶろうとする。「スカー・・・ぁ・・・・!」ジェイドを貫き、体内を占領している重い肉。全身に広がる、じりじりと焼け付くような焦燥。
 「俺・・・もう・・・」半分涙声を絞り出すジェイドに、マルスは声をかけた。「いいぜ、ジェイド。」ジェイドの肩口に唇を寄せると、
 「やっぱり可愛いな、お前は・・・。そういう姿を見てると・・・。」
 唇を滑らせ、固く尖っている胸の蕾を含み、舌でねっとりと舐め回す。「ん・・・んん・・・」堪えていた涙が、きつく閉じられた眦から
 零れ落ちる。「ジェイド。」声をかけるとマルスは、腰の動きを封じていた手から力を抜き、ジェイドを突き上げた。「ウアァッ!!」
 突然の衝撃にジェイドは叫ぶ。だが直に自らスカーの動きに合わせて腰を動かし、悦楽の渦に飲み込まれていった。
 「はっ・・・アッ・・・あ・・・・スカー!!」
 ジェイドの内側に密着したマルス自身が、熱い潮を吹き上げる。二人は互いの熱さを今、自分の熱さと同等に感じていた。

 「スカー・・・。」マルスの逞しい腕に頭を乗せたまま、ジェイドは呟く。「ん?」マルスは顔を向けた。
 「・・・・何でもない。」ジェイドは僅かに微笑む。さらに、マルスに身を寄せながら彼は思った。(・・・守りたい。)マルスを見て、
 それから目を伏せる。(この瞬間を、守りたい。スカーとこうしている・・・この瞬間を。)
 マルスは、甘えるように身を寄せて・・・・全てを委ねるように目を閉じたジェイドを見て。彼のさらりと流れる金色の髪に指を入れる。
 頭をそっと引き寄せ、微かに微笑んだ。

 (・・・・・男同士、なんでしょ?)ジェイドもマルスも、知る由もない。二人が睦み合う部屋の、閉じられた窓の外で、ひっそりと
 交わされていた会話を。(見たらわかるだろ。)と答える声。(ホントに、アレなのかな。) (知るかよ。) 
 (またやらなきゃいけないのかしら。でも言うとおりにならない、ってゆーのがね。) (どうせアイツがうまくやるんだろ。)
 そこで、二つの気配は消えた。
 一つの事件が終ったにすぎない。
                                   
《終劇》
To be Continued "Liebeslied"(←CLICK!)