ある晴れた昼下がり(ドナドナ調)オープンカフェで、お茶を飲んでいる二人の超人。 悪目立ちする姿を、通行人の好奇の視線に晒されながらも、気にする様子はまったく ない。 しかし、なぜか会話がはずんでいない。 お見合いの後で急に二人きりにされた男女のように、ぎこちない二人は、スカーフェイスとジェイドである。 スカーフェイスが悠然とかまえているのに対し、落ち着かないジェイド。 スカーフェイスがいくら話しかけても、ジェイドは生返事を繰り返すばかり。 「お前、さっきから全然人の話聞いてないな。俺といるのがそんなにつまらないのか?それとも師匠が俺と会うのを 反対しているのか?出かける時になにか言われたのか?」 ついに苛立ち始めたスカーフェイス。 「ううん。レーラァはなにも・・・。あ、コーヒー飲むならカフェオレにしろって・・・、牛乳の方が多いやつ。あと、 間食はあまりとるなって言ってた。」 「子供かお前は。何だ、お前の師匠にしてはやけにあっさり俺と会うのを許したな。」 「うん。」 「じゃあ何でそんなに緊張しているんだ?(ハッ!もしかして、今夜はOKって感じ?)」 「うーん、あの・・・、なんでだろ?(どうしよう。昨日、レーラァに教えられたことはスカーには言えない)」 にやけるスカーフェイスと、もじもじするジェイド。かみ合わない二人の思惑はさておき ジェイドの回想、レーラァに(一方的に)語られちゃった昨日の出来事。 レーラァは昨日仰った。 「スカーフェイスと付き合ってもいいが、付き合う相手を一人にするのはよくないな。」 俺は一瞬自分の耳を疑った。レーラァがそんな不謹慎なことを言うなんて信じられなかった。レーラァはこうも仰った。 「いいかジェイド、自分の美貌を自覚しろ。顔が良いということはそれだけで注目されるということだ。言い寄ってくる者も 大勢いるだろう。しかしお前はそいつらの中で、上手に立回らねばならない。」 俺は全然意味がわかりません、と、答えた。でもレーラァに顔が良いと言われて嬉しかった。 「上手に立回るというのは、言い寄る者全員に気のある素振りを見せ、かつ、押さえるべき者を厳選して付き合い、 そして複数の者と付き合っている事を、絶対に隠しとおすということだ。」 え?ええっ?何だかすごく不道徳なことを仰っている気がする。 「むっ。まだ解っていないようだな。誰からも愛されると言うことは、それがどんな形であったとしても、自分にとって あらゆる意味で有利なことだ。その有益な愛を得るためには魅力的であることが重要だ。早い話が色仕掛けだ。これなら解るな?」 俺は頷いた。レーラァはそれを見て少し笑った。 「問題はその愛の形なのだ。わたしにとって父であり師であったラーメンマン。禁欲的な彼は若いうちから悟りの境地に 行ってしまったので、わたしを愛してくれたが抱こうとしなかったし、独占しようともしなかった。ただ黙って見守ってくれていた。 こういう形の愛は、(かなり腹立たしいが)ただ受け取っていればいい。だが肉体的なものが絡む時は、細心の注意を払わねば ならない。なぜなら相手には独占欲や嫉妬心というものがあるからだ。だからいつでも、お前のことが一番好き、という態度を とり続ける必要がある。」 俺は、はあ、と気の抜けた返事をした。 「世の中にいい男は大勢いる。一人に絞るのに苦労するぐらいなら、いっそ全員と付き合えばいい。そのことをお前にも 理解させたかった。ポイントは本命、キープ、火遊び、金蔓だ。」 レーラァは俺にポイントを復唱するよう仰った。俺はゆっくりと復唱した。でもまだ意味がわからない。 「ようは相手を使いわけるということだ。スカーフェイス一人にかまけていたら、他を逃して惜しい思いをするぞ。 お前は可愛いから、よりどりみどりで選び放題のはず。生意気なやつがちょっと可愛いところを見せれば、大抵のやつは コロっといってしまうから、後は上手に甘えていればいい。」 俺はよりどりと言うほど二期生はいません。と答えた。それにしてもレーラァは、一体若い頃どんな人だったのだろう。 これだけを聞けば、ただの浮気者としか思えない。 「レジェンドがいるだろう。ロビンなんかはお勧めだぞ。あいつはリングでもベッドでもテクニシャンだし、激しいのなら バッファローマンとか。ああ、そういえばケビンと一期生もいたな。ところでもうスカーフェイスとはやったのか?」 「やっちゃいましたレーラァ。でもあなたにそんな事いえません。」 「何だ?いきなり。」ジェイドの突然の言葉に驚くスカーフェイス。長いこと難しい顔で黙っていたジェイドの意味不明な言葉。 「ごめん(ここで上目づかいをしろって言ってたな)あのさ、もっと静かな所に行かないか?」ジェイドは、 昨日師匠に教わったことをやってみようと決意した。あれから師匠に相手のハートをわしづかみにする技を伝授されたのだ。 「!(誘ってる?誘ってるのか?)もちろ・・・いや、ここじゃ都合がわるいのか?」嬉しいくせにわざととぼける スカーフェイスだが、顔が半分笑っている。 「いやならいいよ。(えっと、目をそらしてうつむくんだったな)」 「行く、行くから顔をあげろよ。」 「いいよ、俺、帰る。クリオネから電話がかかってくるかもしれないし。(さり気なく違うやつの名前をだす、と。 クリオネでもよかったのかな?)」 「なんだと!海洋生物のくせにジェイドにちょっかいだすな!こい!ジェイド、お前は俺様のものだ!」ものすごい剣幕で 立ちあがったスカーフェイスは、カフェの店員にお茶の代金を投げつけると、ジェイドを抱き上げ走り出した。 驚いて道を開ける通行人にかまわず、ひたすら走るスカーフェイス。一体どこに行くのかは、抱かれているジェイドにもわからない。 ジェイドはスカーフェイスの腕の中で考える。スカーフェイスをどのポジションにつけるのか。 本命、キープ、火遊び・・・。 |