開け放たれた病室の窓から流れてくる微風が、少年の淡い金髪を靡かせる。 片目と右腕に巻かれた包帯が、痛々しい印象を残す。 彼は窓に目を向ける。だがその目は何も写してはいなかった。 ノックの音がして、一人の女性が入ってくる。 「ボウヤ・・・、気分はどう?」 少年は顔を向けた。生気の薄い瞳が、彼女の心を痛ませる。 「・・・・おかみさん、・・・ドイツに帰らなくてもいいの? 店の方は・・・」 「そんなこと、ボウヤは気にしなくてもいいんだよ!」ヘルガはベッド脇の椅子に腰掛ける。 「ごめんね・・・わざわざ来てくれたのに、俺は・・・」 「ボウヤ!そんなことより自分の体を心配しなきゃ!ボウヤが元気になってくれなくちゃ、 あたし達安心してドイツに帰れやしないじゃないか!」 ジェイドは俯き、何も答えない。 「ボウヤ!こっちをご覧!」 彼は僅かに顔をあげる。 「あたしはお説教するのは好きじゃないけど、言わせてもらうよ!そりゃあショックだったろうさ、あんなに一生懸命 頑張ってたんだから・・・ でもボウヤはまだ若いんだ、これからいろんなことを覚えて、もっと強くならなくちゃいけないだろ? 一回や二回負けたくらいなんだい!そんなことでへこたれてちゃ、NO,1の超人になんてなれやしないよ!」 「おかみさん・・・ そのことはいいんだ・・・ レーラー師匠に、あんなに素晴らしい格闘技術を授けてもらったのに負けたのは、 俺が未熟だったから・・・ でも、あいつが・・・あいつが・・・」 再び俯いたジェイドの肩が震える。 「あいつが・・・悪行超人だったなんて・・・! 俺は、見抜くことができなかった・・・! あいつを仲間だと信じきって・・・! 俺は自分が許せない!」 声に嗚咽が混じる。「ボウヤ・・・」ヘルガは言葉を失った。 「ごめんなさい、おかみさん・・・もう俺のことは放って、旦那さんとドイツに帰ってください・・・」 待合室の革張りのソファに座るヘルガの所に、夫がやって来る。 「ヘルガ・・・。 ジェイドの様子はどうだった? あの子は意識が戻ってから、何も食べてないんだろう・・・いくら超人でも、 このままじゃ体が参ってしまうと医者も・・・ ひどい負け方をしたのが応えてるんだろうが・・・」 「ううん・・・そのことはいいって、ボウヤは言ってたよ・・・ あの子は仲間が悪行超人だったショックから立ち直れてないんだ・・・ 見抜けなかったって、自分を責め続けてるんだよ・・・」 ヘルガは嗚咽を漏らす。「あの子のせいじゃないのに・・・!あの子は何も悪くないのに・・・!」 普段は気丈な妻の涙に、夫は黙って肩を抱いて応えた。 「あたし・・・・あの悪行超人を許せないよ! ボウヤをあんな酷い目に遭わせて、今でもあんなに苦しめて・・・! 決勝戦で負けて、ざまあ見ろって思ったけど、ボウヤをあんな目に遭わせた張本人が同じ病院にのうのうと入院してるなんて、 あんまりだよ・・・!」 「そのことなんだけどな、ヘルガ・・・あの悪行超人、いなくなったらしい。」 「えっ?」ヘルガは顔をあげた。 「病棟が慌しいんで、患者にこっそり聞いてみたんだが、今朝病室のベッドから姿を消して、 病院のどこにも見当たらないそうだ。昨日まで動ける素振りも見せなかったそうだが・・・」 「そんな・・・」 夫妻の会話を、隠れて立ち聞きしている者があった。 悪行超人マルス、正義超人としての仮初めの名はスカーフェイスである。 (グフフ・・・俺を許せない、か。止めといた方がいいぜ「おかみさん」。あんたは普通の人間だ、 超人をどうこうできやしないだろう?) ほくそえむマルスの右頬には、キン肉万太郎の新必殺技「マッスル・ミレニアム」を受けた時の傷が残っていた。 深夜。とうに明かりの消えた病室で、ジェイドは目を凝らしていた。 眠れない夜が続いている。闇の中に浮かぶあいつ・・・スカーフェイスの姿。逞しい、肉付きのいい体、それに反して端正な 瓜実型の顔、冷たい瞳、刃物のような笑みを浮かべる唇。それらを思い起こす度、怒りにジェイドの体は熱く燃える。 脳裏に蘇る彼の声。(ジェイドよ、お前は絶対に、俺には勝てねえんだよ。) (黙れ・・・!)火のような憎しみが体を駆け抜ける。 (お前は・・・ お前だけは俺が・・・!) その時病室のドアが開き、大きな影が入ってきた。 (誰だ)声を出すより先に、影はベッドの側まで歩み寄ってくる。月明かりにその姿が浮かんだ。 「よお、ジェイド。」 マルスは傷の残る顔を、冷たい笑いに歪めた。 「・・・ス・・・・!!」 ジェイドは次の言葉を飲み込むと、跳ね起きて身構える。 「止めな、ジェイド。お前最近ロクに食ってないんだろう。そんなザマじゃ俺は倒せねぇぜ。」 「き、さま・・・」 ジェイドの瞳は、激しい怒りに燃えていた。 「いい目をしてるじゃねぇかジェイド・・・。」マルスは手を伸ばし、ジェイドの金髪に指を挿しいれる。 次の瞬間ジェイドはその手を払いのけ、右手をマルスの喉笛目掛けて放った。 だがそれより早く、マルスはジェイドの縫合された右手の付け根を掴んで捻り上げる。 一度はマルスがもぎ取った右手。 「ギッ・・・」ジェイドは悲鳴を飲み込んだ。 マルスはそのまま、ジェイドの体をベッド目掛けて突き放す。 「貴様・・・貴様だけは、許さん・・・」鈍痛に耐え、喘ぎながらジェイドは声を漏らした。 「・・・相変わらず可愛いな、ジェイド。」マルスはそんなジェイドを、薄笑いを浮かべて眺める。 「お前が俺を許さんと言うのは、俺がお前を欺いたからか? 正義超人と偽り、実はdMp再興のために戦っていたからか。 グフフ・・・ お前は今時珍しい純情超人だからな、流石に俺も心が痛んだぜ?」 「ふざけるな、ス・・・」体を起こしたジェイドは、またそこで言葉を切った。 「俺をどう呼べばいいのか、迷ってるようだな。俺は悪行超人のマルスだ。だがお前が俺をスカーフェイスと呼びたいのなら、 好きにするがいい。今俺の顔には、キン肉万太郎につけられた傷が残っている。文字通り"ス傷カのーあるフェイス顔"って ワケだ。」 マルスはベッドに腰を降ろした。「ジェイドよ。俺の目論見は見事に潰えた。その点に関しちゃ、お前は安心していいぜ。 だが俺は諦めん。必ずdMpを再興してみせる。生き残った仲間は俺の他にもいる筈だからな、しばらく人員増加に 精を出すのもいいだろう。 ・・・だがその前に、」 マルスはジェイドの肩に手をかけると、ベッドに押し倒した。 「・・・! 貴様、何を・・・」 「遣り残したことがあるからな。」ジェイドの寝間着が引き裂かれ、白い胸が露わになる。 「やっ、止め・・・!」ジェイドの声にお構いなしに、マルスは両手で彼の体を露わにしていく。 そしてジェイドの頭を押さえつけると、耳元で囁いた。 「いかせてもらうぜ。」 「いっ、嫌だ! はな・・・」マルスの手が、ジェイドの下腹部に伸びる。 「うぐっ!!」その手にジェイド自身が鷲掴みにされた。「あっ・・・アッ・・・!」激しく揉みしだかれ、経験したことのない 衝動が体の奥から湧き上がり、ジェイドは身悶えていた。 「はあっ・・・ひうっ!」 白い体が大きく撓る。次の瞬間、熱い滾りが迸り、ジェイドはがくりと首を落とす。 「お〜お・・・もうイッちまったのか?」熱く息をつくジェイドを見やりながら、マルスも自分自身を露わにしていく。 「口を開けな、ジェイド。」マルスはジェイドの顎に手をかけ引き起こすと、口唇に指を差し入れる。 「う、むふぅ・・・」「ホラ、もっと大きく開けな。」ジェイドの口唇を無理矢理押し開く。次の瞬間、口腔に熱く、 逞しい茎が押し込まれた。 「・・・!」逃れようとするジェイドの頭が、両手で押さえ込まれる。瞳から、涙が溢れ出た。 「歯をたてるなよ。口全体でゆっくり吸いな。その方が楽だぜ。」 押し込まれ、屈辱の行為を強制されるジェイド。透明な雫が顎を伝わって流れ落ちる。 「う・・・」ゆっくりと息を吐くマルス。「・・・そろそろ、か。オイ、あんまり深くくわえ込まない方がいいぜ。 結構キツイ目に合うからな・・・」涙と唾液で顔を濡らしているジェイドは、その言葉に反応しない。 マルス自身から、奔流が放たれる。 「!!」咄嗟に口をもぎ放す。熱い奔流は、顔全体に注がれた。 「ア・・・あがっ・・・ゲフッ・・・!」激しく咳き込み、口腔の奥の狂おしい証を幾度も、幾度も吐き出すジェイド。 「がは・・・っ」美しい瞳も、屈辱に霞み見る影もなかった。 その様子を、一度放ったマルスは満足げに見ている。 「ほおら・・・言わんこっちゃない。」 マルスは、力を失ったジェイドの両肩を掴んで引き起こし、再びベッドの上に押し倒す。「さてと、そろそろ本番と行くか。」 「・・・い、やだ・・・もう・・・」擦れた声でジェイドが呟いた。全く意に介さず、マルスはジェイドの白い腿に手をかけ、押し開く。 露わにされる、誰にも触れられたことのないのが明白な、初々しい窪み。 侵入の瞬間。ジェイドの身体は一瞬強張る。 「あぐぅ・・・・っっ 」その部分を引き裂き、熱く硬直したそれがジェイドを侵略していく。「ひあ、アッ・・・!!」 意志と関係なく、激しい痛みに涙が止め処なく溢れてくる。 「あ、があぁっ・・・!! や、め・・・」マルスはジェイドの身体に収まると、ジェイドを抱き締め、動かした。 「あ・・・あぁ・・・ ! うっ、うっ・・・!」ジェイドとぴったりと触れ合い、蠢くマルスの熱い肉体。 ジェイドは、左手を動かした。 右手はベッドに投げ出され、マルスの手に掴まれている。力を込めて。 左手は、ジェイドの上で蠢くマルスの背に回された。 辿っていく。皮膚が盛り上がっている。 ―――― 傷痕。 それに触れたジェイドの脳裏に、 背中を打ち付け。 苦痛に顔を歪めるスカーフェイスが。 その姿が浮かんだ。 逃れられる。 左手で、「ベルリンの赤い雨」は放てない。だが、これほどの傷痕ならたった一撃でも充分だろう。 たった一撃でも。 マルスは、ジェイドの耳元に唇を近づけた。 耳朶に熱く囁きかける声。 「――― ジェイド。」 その瞬間。 ジェイドの胸の中に、暖かい奔流が満ち満ちた。 左手は。 傷に触れず、マルスの背中を抱擁する。 「ス・・・」 声を漏らす。涙が、先程の屈辱と苦痛のそれとは違う涙が、ジェイドの頬を伝い落ちていく。 「スカー・・・!」 マルスは、ジェイドの押さえつけていた右手を離す。 「スカー・・・ スカー・・・!」両手で、マルスの背をしっかりと抱き、 ジェイドは、噎び泣いていた。 全てが終わった後。 マルスは、うつ伏せるジェイドに頬を寄せた。 頬にまだ残る、涙の後。ジェイドは、 か細い声で、何事か呟いていた。 確かに、そう聞き取れた。 「レーラー師匠・・・・ ごめんなさい・・・・」 「フ・・・ダメ師匠のことなんぞもう忘れちまいな、ジェイド。」 マルスは、ジェイドのほつれた髪を掻き揚げる。 「奴にくっついている限り、お前は俺を越えることはできんぜ。」 再び、耳朶に唇を寄せて囁く。 「ジェイド。俺と一緒に来い。」 ジェイドは、目だけを動かしてマルスを見た。 「俺と来い。正義超人でいるより、もっと強くしてやる。」 ジェイドは目を伏せる。 再び瞼を開いた時。 少年の澄んだ瞳には、一つの決意が宿っていた。 To be continued |