『玄武の書 −第四章 銀世界での出会い−』
室宿の家を出て五時間・・・。
多喜子と室宿を乗せた馬は室宿の家から一番近い街・特烏蘭に到着した。
五時間走りっぱなしの馬に休憩させるため、そして自分達の食事休憩のため
室宿は馬預所に馬を預け、店に入った。
「あぁ〜〜〜〜疲れた。五時間も馬に乗ってるとさすがに肩こるわ」
「大丈夫ですか?クレアさん」
多喜子が心配そうに室宿の顔を覗き込む。
「やぁ〜ねぇ〜多喜子。いつまでも『クレア』はダメよ。
あたしは玄武七星士の室宿なんだから。『室宿』って呼ぶ事!分かった?」
「は、はい。室宿さん・・・」
「あぁぁぁぁ!!その『さん』もダメね。身体がくすぐったいからさ」
「わ、分かりました。室宿・・・」
「よしっ!その調子よ☆」
ニコニコ笑う室宿のもとへ、店の従業員が注文を聞きにきた。
室宿が適当に何品か注文すると、従業員は厨房の方へ歩いていった。
「多喜子」
「はい?」
「次の街へは今日中に到着しておきたいから、食事取ったらすぐに
出発するけど、大丈夫?」
「う、うん。大丈夫よ」
不慣れな馬に長時間乗っていた多喜子は疲れを感じていたが、
足手まといになるのを避け、自分の気持ちに嘘をついた。
父と離れて三日目・・・。
今頃お父さんは私の事心配しているのだろうか・・・。
お母さん、役所に連絡してなきゃいいけど・・・。
でも、三日も自分の娘が行方不明なんて・・・。
皇帝さんに会ったら元の世界に戻る方法教えてもらわなきゃ・・・。
「あ〜。他の七星士ってみんなどんな人達なんだろ〜。
かっこいい男の子っているのかな〜。あたしみたいな女の子いるかな〜。
ね〜、多喜子はどう思う??・・・多喜子?お〜い、多喜子さ〜ん??」
「えっ?ごめんなさい。何か言った?」
「多喜子最近ボーっとする事妙に多いよね。体調でも悪いの?」
「そ、そんな事ないよ。ごめんね、考え事してて・・・」
「ふ〜ん・・・。なら良いけど。体調悪かったら、ちゃんと言いなさいよ」
「うん。ありがとう」
「お待たせいたしました。ご注文の品でございます」
店の奥から従業員が、さきほど室宿が注文した品を持ってやってきた。
テーブルの上には温かな湯気を出している料理が並ぶ。
全て並び終わると、従業員は一礼をし、店の奥へと戻って行った。
「さ、食べよ多喜子!!・・・いっただっきま〜す♪」
「いただきます」
「あ〜!!お腹いっぱい。おいしかったね、多喜子〜♪」
店で食事をし終わった多喜子と室宿は馬を預けている店まで歩き出した。
さきほどまで晴れていた空は一変し、白い雪がちらついている。
街の大通りには、この寒さにも関わらず、たくさんの店が出ている。
「うわ〜。こんな寒い日によくお店なんて出すね〜。
尊敬しちゃうわ・・・。そう思わない?多喜子・・・」
「・・・・・・・」
「多喜子?」
自分の問いかけに反応を見せない多喜子の顔を覗き込む。
ドサッ・・・・・
「多喜子っっ!!」
急にその場に倒れた多喜子を抱き起こし、額に手をやる。
「・・・すごい熱・・・!!」
室宿は自分が着ている、家を出る際にリューから手渡された上着を
多喜子に着せると、一先ず家の屋根の下に多喜子の身体を移動させた。
「多喜子、寒い?ちょっと待ってね。今だれか人呼んで、
お医者様の所に案内してもらうから・・・」
「どうかしましたか・・・?」
室宿の耳元で男の人の声がした。
室宿はその声の主の方を見ると、今の状況を早口で言った。
「それはいけません。私の家は医者をやっています。
案内しますから、付いてきて下さい」
そう言うと、男性は熱にうなされている多喜子の身体を抱き上げて
左の方へ歩き出した。
その後に室宿が続いた。
「姉さん。道で倒れていたお嬢さんを連れてきたよ。診てあげてくれる?」
「オッケー!」
そういうと男性は多喜子を寝台に寝かせ、『姉さん』と呼んだ女医と
バトンタッチした。
「お嬢さん。あの娘の症状は?」
「はい。急に倒れたので、額に手をやってみるとすごい熱で・・・」
「だ、そうだよ、姉さん」
「ラジャー」
女医は多喜子の症状を聞くと、診察のため多喜子の衣服のボタンに手をやった。
と、忘れていたのを思い出したかのように男性に向かって言った。
「ケイラ!!あんたは男でしょ?部屋の外に出ておきなさい」
「あはは〜。バレちゃったみたいだね。では、失礼〜」
ケイラと呼ばれたあの男性は笑いながら部屋の外へ出て行った。
「ねぇ。あなたの名前とこの娘の名前は?」
「えっ?あ、あ〜、その娘の名前は多喜子で、あたしの名前はクレアです」
「多喜子ちゃんとクレアちゃんね。・・・私の名前はアルル。
あなた達をここに連れてきたのは、私の弟のケイラよ。
・・・にしても、この娘、だいぶ疲れているみたいよ?
あなた達、いったい何してきたの?」
アルルの問いかけに、室宿は返答に困った。
今、知り合ったばかりの親切なこの女医に事実を言ってしまうのは
ちょっとどうかと思う。
『あたし達は玄武の巫女と七星士で、都にいらっしゃる皇帝陛下に
会いに行くために旅をしているのです・・・』なんて安易に明かしては
いけない事だという事は、だれでも思う事・・・。
「クレアちゃん?どうかした?」
「あっ、い、いいえ〜。別に何でもないです〜。アハハハハハ」
クレアの妙に動揺した態度に疑問を感じながらも、アルルは多喜子の
診察を終え、カルテを書き始めた。
カルテを書き終わると、アルルはニコニコしながらクレアに言ってきた。
「多喜子ちゃん。2・3日休養したら元気になるわ。だからクレアちゃん、
その間家に泊まっていきなさい。私、あなた達気に入っちゃったから〜♪」
「えっ!?で、でも、そんな、悪いですよ。
あたしはどこかの宿に泊まりますから。」
「あら〜。クレアちゃん知らないの?この辺の宿、女の子が一人で泊まると
どうなるか知らないわよ〜」
イタズラっぽい視線で言ってくるアルルの言葉に、室宿は
冗談だと感じてはいたが、多喜子を一人にしておくのは心配なので
アルルの誘いを受ける事にした。
―――その夜・・・
アルルに風呂を勧めれた室宿は、月夜を見上げながら
湯船に浸かっていた。
「はぁ〜。一応宿代は削れたけど、多喜子が倒れちゃうとは・・・。
あの娘、体調悪いんだったらちゃんと『悪い!』って言えばいいのに。
全く・・・無理しちゃってさ・・・」
多喜子の異変に気づかなかった自分に後ろめたさを感じると共に、
情けなくも思っていた。
「早く残りの七星士見つけなきゃ・・・。あたし一人だとまた多喜子に
苦しい思いさせてしまうかもしれない・・・」
室宿は、らしくない声を出した自分が恥ずかしくなり、
湯の中に潜り込んだ。
息が苦しくなったので湯から頭を出し、深呼吸すると「そろそろ出るか」
と呟き、上がった。
身体の水分を拭き、服を着ようとした時、急にだれかに左腕をつかまれた。
「きゃっ!!だ、だれ!?」
「やはり、そうでしたか・・・」
聞き覚えのある声がした方を、手にしていた灯りで照らしてみると、
そこには多喜子をこの診療所まで運んだケイラが立っていた。
「あなたと多喜子さんに近寄った時、同じ種類の『気』感じました。
まさかとは思っていましたが。やはり七星士だったのですね、クレアさん」
「ケ、ケイラさん・・・?あ、あの、「同じ種類の『気』」って・・・。
まさか・・・・・っ!!」
室宿の問いかけに応えるように、ケイラは額に蒔いていた布を取って見せた。
そのには、黒文字でハッキリと『壁』と浮き出ていた。
「えっ!?『壁宿』!?って事は、ケイラさんも玄武七星士!?」
「そうです。あなたと同じ、巫女を護り力を与える事を天より定められた
宿命の持ち主で・・・・・・あっ」
「えっ・・・?」
風呂から上がり、室宿がまだ服を着ていなかった事に気づいた壁宿の
反応に、自分の今の状態を思い出した室宿は、顔を真っ赤にしこう叫んだ。
「きゃ――――――――――――っ!!変態―――――――――――っ!!」
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こうして北の大地の夜は更けていった・・・。
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