『玄武の書 −第三章 巫女と七星士−』

「多喜子――――――っ!!多喜子――――――っ!!
 くそ・・・。どうやったら多喜子を連れ戻せるのだ・・・」
多喜子を吸い込んだ『和訳・四神天地書』に向かって
何度もその名前を呼び続けている多喜子の父。
時間が経つに連れて、勝手に書き込まれていく本の文字。
それを焦り見ながら、多喜子の父は本に向かって叫び続けるしかなかった。


「あたしが『玄武七星士・室宿』よ」
今まで江戸っ子タイプの雰囲気だったクレアは、それを一変させた
真剣な眼差しで多喜子にその事実を告げた。
「あたしは玄武の巫女を護り、力を与える七星士。
 そして、その『玄武の巫女』こそが、異世界からやってきた
 多喜子、あなたなのよ」
「私が・・・玄武の巫女・・・。クレアさんが・・・七星士・・・」
「ね、姉ちゃん・・・・・」
母の横で二人のやり取りを聞いていた弟のスーラは震える声を出した。
「姉ちゃん・・・・・・・・姉ちゃん、かっこいい〜!!」
ガクッ・・・。
今まで緊張していた空気は、弟のその場違いな発言で一気に晴れた。
「ただいま〜」
「あっ!!サクバ兄ちゃん、リュー兄ちゃんおかえり〜♪」
「おかえりなさい、サクバ、リュー」
「ただいま、母さん、父さん」
「ただいま」
「あのね兄ちゃん、今ね、姉ちゃんすっごくかっこよかったんだよ〜♪」
『サクバ』と『リュー』と呼ばれた二人に兄は、顔立ちがとてもよく似ている。
それはだれがどう見ても『双子』である。
「そうか、そうか。・・・母さん、こちらの娘さんは?」
足にまとわりつく弟を半分シカトしながら、クレアの兄・サクバは
入り口付近で固まっている多喜子の事を母に聞いた。
「あ、あ〜、こちらは多喜子さん。
 草原で途方に暮れていたところをクレアが助けて家に連れてきたんだよ。
 そして、この多喜子さんは、あの伝説の『玄武の巫女』らしいよ」
「えっ!?マジかよ、それ!!・・・おい、聞いたかよリュー。
 あの娘、『玄武の巫女』らしいぞ」
サクバは自分の脇にいた双子の兄のリューに、耳打ちをした。
リューはその事を聞いても、顔色一つ変えないで多喜子を見ている。
「って事は〜・・・おい、クレア、お前あの事言ったのか〜?」
「兄ちゃん僕がさっきからその事言ってるじゃないか〜!!」
「あ?あ〜、ごめん。聞いてなかった。悪ィ、悪ィ」
サクバは背中に担いでいた狩の武器を家の隅に置くと、
多喜子の元へ歩み寄った。
リューも自分の荷物を置き、クレアの元へ歩み寄る。
「へ〜。お前あの『玄武の巫女』か〜。
 俺はサクバっていうんだ。あっちは俺の双子の兄・リュー。
 俺達はクレアとスーラのお兄様だ」
「は、はぁ〜・・・」
多喜子は自分のより背の高いサクバを上目使いで恐る恐る見て言った。
「それでな〜、多喜子さん・・・」
サクバは一度深呼吸すると、顔の表情を変え、
多喜子に再度言葉を投げかけた。
「君はなるべく早いうちに都に行き、そのにいらっしゃる皇帝陛下に
 会わなきゃいけないんだ。
 異世界より伝説の少女が現れるのは、『国が乱れ滅びんとする時』。
 多喜子さんがこの世界にやってきた・・・という事は、近いうちに
 この国に何かが起きるって事なんだよ」
「何かが・・・起きる・・・」
「そう。だから君の存在を早く皇帝陛下にお知らせしなければならない。
 奇跡的に、俺の妹のクレアはあの『玄武七星士・室宿』だ。
 巫女と七星士が一緒に目の前に現れたら、皇帝陛下は100%
 歓迎してくれるに違いない。都までの道中も安全だ」
サクバは自慢気に話を続ける。
「しかし、今日はもう夜である。今から都に行くのは、例えクレアが
 七星士だと言っても危ない。それに、君はこの世界に来てまだ間もない。
 ってことで、母さん続きをどうぞ・・・」
サクバはそこまで言うと多喜子の前からその身ををどかし、
多喜子と母を向かい合わせた。
「って事で、多喜子さん。2・3日家で休んでいきなさい」
「あ、ありがとう・・・ございます」
「よしっ!決まった!!・・・あ〜腹減った〜。母さん、飯まだ〜?」
サクバは暖かな敷物の上に座ると、お腹を鳴らし、その場に倒れこんだ。
その様子をポケ〜と見ていた多喜子の肩を、リューがやさしく叩いた。
「うるさい弟だけど、許してね・・・。さぁ、こっちに座りな・・・」
リューに誘導されて、多喜子は敷物の上に座った。
しばらくすると、温かな食事が並べられ、楽しく賑やかな食卓が始まった。


―――三日後・・・

「それじゃ、行ってくるよ、母さん、父さん、
 サクバ兄さん、リュー兄さん、スーラ」
朝もやが残る、ひんやりした空気が流れる朝、室宿ことクレアと
玄武の巫女・多喜子は都へと出発しようとしていた。
二人の出発を祝うかのように、空には雲一つ無い青空が広がっている。
「気をつけるんだよ、クレア、多喜子ちゃん」
「はい。どうもお世話になりました」
「姉ちゃん。早く帰ってきてね」
「イイ子にしてたらねん」
「病に気をつけるのだよ」
「父さんもね」
「何かあったらクレアが何とかしてくれるから大丈夫だぜ!
 こいつ俺より強ぇから(笑)」
「おいっ。シメるぞ、兄貴・・・」
「(笑)」
「クレア、多喜子さん・・・。これを着ていきな」
リューは暖色の明るいデザインの上着をクレアと多喜子に手渡した。
「ありがと、リュー兄ちゃん」
「ありがとうございます」
手渡された上着を着ると、クレアは多喜子を馬に乗せ、その前に自分も乗った。
「んじゃ、いってくるよ。兄さん達、母さんと父さんとスーラを頼むね」
「おう!任せろ!な、リュー」
「うん。がんばってね、クレア、多喜子さん」
バシッ!!
クレアが威勢良く馬の腹を蹴った。
「いってらっしゃ〜〜〜〜〜い!!」
スーラは元気良く馬に乗って行った二人に手を振った。
その後で、さっきまで明るく二人を送り出していた4人は
正反対の暗い顔をし、二人が旅立って行った方を見つめながら
心の中で同じ事を思い、無事を祈った。
『この別れがクレアと会う最後の機会だったのかもしれない・・・。
 七星士であるかぎり、必ず生きて帰ってくるという保障はない。
 クレア・・・。
 必ず生きて帰ってきて・・・。
 そして、無事に多喜子さんと他の七星士の皆さんと共に
 玄武を呼び出し、国に平和を・・・』
強い意志と覚悟を心に秘め、多喜子の前に乗っているクレア・・・
いや、室宿は馬のタズナ強く握り、北の大地を駆けて行った。


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