薬草喩品第五

 

(一)

我は世界の      有(う)を破る   覚りの王(きみ)の   如来なり

世の人々の      性もては     極みのさとり     解し難し

さればてだてを    先ず示し     やがて極みに     入るるなり

迦葉しるべし     譬えなば     大いなる雲      湧き出でり

ともに稲妻      輝きて      雷(いかずち)遠く   震うれば

雨普くぞ       降り注ぐ     山の頂き       谷の辺の

大いなる樹々     名も知らぬ    小さき草に      至るまで

等しく雨に      潤いて      一味の水に      歓べり

迦葉よ我は      雲なるぞ     生きとし生ける    ものは皆

おのおの性の     異なれど     わが降り注ぐ     みさとりの

雨はあまねく     等しかり     異る性の       そのままに

異なる教       説きたれど    異なる教       在るならず

仏の智慧は      一つにて     仏の慈悲に      隔てなく

雨の草木を      生かすごと    仏の子等を      癒すなり

仏の声は       甘露なり     甘露浴びる      ものは皆

心たのしき      のみならず    この世の幸も     受くるなり

すべての仏は     同じなり     等しき幸を      与えんと

てだての道を     示すなり     さればてだての    教をば

聞き来たれば     そのままに    まことの道と     言うべけれ

(二)

かの太陽を      仰ぎ見よ     徳と罪との      隔てなく

すべての人を     照らすなり    仏の慈悲も      その如し

かの陶器師の     かまどより    出づるは同じ     器なり

されど器に      容(い)るものの  違いによりて     かの器

種々(くさぐさ)の名を 示すなり     砂糖入るれば     砂糖壷

不浄入るれば     不浄壷      もとの壷には     変らねど

(えにし)によりて  変るなり     衆生の性の      違うまま

同じ仏の       乗りものが    種々の名を      示すなり

声聞乗れば      声聞乗      縁覚乗れば      縁覚乗

菩薩の乗れば     菩薩乗      されば迦葉よ     悟るべし

仏の教は       一つなり     仏の乗と       定まれり

宗派の別を      言うなかれ    昔一人の       盲あり

日月ありと      いう人を     嘘のごとくに     思いけり

そを憐れみし     ある医(くすし)  かの暗き眼を     開かんと

いみじき薬      求むまま     雪山ふかく      踏み分けり

かくて得たりし    薬もて      遂にかの眼を     癒やしたり

「我は愚かな     ものなりき    日月在るを      無しといい

日月在りと      言うひとを    罵りつつも      恥じざりき」

されど心の      悲しさよ     しばらくあって    かの人は

おのがまなこの    敏きまま     うぬぼれ心      懐きたり

「わが眼は世にも   稀なり」と    ここに仙人      現われり

「うぬぼるなかれ   汝若し      壁を隔てて      物を見る

力無ければ      なお同じ     暗き盲と       我は言う」

この仙人は      菩薩なり     神通眼の       菩薩たり

いとし迦葉よ     み仏は      かの医にて      ありしなり

すべての人の     暗き眼を     癒さんものと     夜昼に

休むことなく     法を説き     一仏乗を       与うなり

我是如来 未度者令度 未解者令解 未安者令安 未涅槃者 令得涅槃