信解品第四

我らが父の      み仏は      日ごろ夢にも     思わじき

無上の宝       残りなく     我らがものと     宣りたもう

ああ我らも      仏なり      いみじき幸の     仏なり

躍るなかれと     誰かいう     躍る心を       如何にせむ

昔一人の       童子あり     父を離れて      みなし子の

貧しき旅に      彷えり      子を失いし      父親は

愛し面影       胸に秘め     探しあぐねて     五十年

とある都に      居を定め     富めるがままに    厳めしき

家の構えに      住まいたり    憐れなりけり     かの息子

町から町へ      さすらいの    飢(ひも)じき旅を   続けつつ

父の都に       辿り着き     父の家とは      露知らず

その門前に      立ちにけり    見れば金銀      瑠璃瑪瑙

ここの主人と     おぼしきが    眩きばかり      飾り成し

多くの人に      かしずかれ    妙なる椅子に     座りたり

ここは我らの     場所ならず    疾く去りなんと    せしときに

父の長者は      気づきたり    彼こそまこと     わが子なり

侍者を遣わし     彼の人を     呼び戻さんと     命じたり

されど使いの     厳めしき     身成のさまに     彼の人は

捕えらるると     おそれなし    心うしない      倒れけり

強いて連れなそ    彼の人を     長者心に       案じつつ

卑しきみめの     人を呼び     含めさとして     遣わせり

「汝に合いし     仕事あり」    使者は男に      語りけり

「如何なる条(すじ)の 職なるか」    男は使者に      問いにけり

「我らと同じ     掃除なり」    男は心        やすらかに

長者の家に      戻り行き     掃除夫として     働らけり

「ああわが息子    憐れなり」    長者みずから     美しき

身の装いを      脱ぎ捨てて    掃除夫のごと     なりすまし

息子の側に      近寄りて     言葉やさしく     打解けり

しばらく経ちし    時なりき     今こそ時と      彼の長者

長者の身成      そのままに    かの子の傍に     打ち寄りて

声も親しく      語りけり     「汝まことに     よき人ぞ

わが子の如く     思うなり     わが財宝は      限りなし

これより後は     何事も      欲するままに     尋ぬべし」

かくて暫らく     経ちしとき    長者やまいに     罹りたり

息子を呼びて     言いけるは    「我汝を       頼むなり

これより後は     この家を     汝の支配に      渡すなり

心のままに      差配せよ」    環境心を       移すとて

さすが卑しき     心根も      徐(おもむろ)なれど  開けたり

かくて暫らく     又経ちて     長者の病       重かりき

臨終近きを      知るままに    うから友びと     呼びあつめ

息子の肩に      手をやりて    「諸賢聞くべし    今此処に

立てる人こそ     誰あらん     まことに我の     子なるなり

今より後は      我が持てる    すべての資材     ことごとく

息子のものに     帰するなり」   大恩深き       み仏よ

仏は長者の      如かりき     我らは窮子(ぐうじ)の 如かりき

我らの低き      性を知り     低き教えを      先ず説きて

我らの心を      馴らしまし    長き月日を      耐えたもう

今日こそ知りつ    み仏の      てだての智慧の    尊さよ

仏の恩は       かぎりなし    たとえ千万      億刧も

肩に戴き       仕うとも     報い果つべき     時ぞなき

大恩高き       み仏よ      まこと仏は      父なりき

深自慶幸 獲大善利 無量珍宝 不求自得