化城喩品第七
(一)
無量億劫 |
その昔 |
大通智勝と |
名づけます |
仏ありしを |
我は知る |
世界を砕き |
粉にして |
千の国土を |
過りては |
その一点を |
下さんに |
遂に微塵も |
余すなし |
遠く過ぎりし |
国々を |
又粉にして |
その粉を |
一劫として |
数えなば |
その遠きこと |
如何ならん |
仏の智慧は |
限りなく |
その古を |
今日の日の |
事のごとくに |
見ゆるなり |
(二)
『仏は世にも |
有難し |
二十劫歳 |
坐を起たず |
漸く道を |
得たまえり |
仏は冥き |
人の世を |
照らす芽出度き |
光なり |
我等仏に |
帰しまつる |
百福荘厳 |
たぐいなき |
仏よ法を |
説き給え |
我等仏に |
なるを得ば |
一切衆生も |
然ならん』 |
(三)
『見よ宮殿の |
曽てなく |
照り耀くは |
何事ぞ |
仏の生じ |
給いしか |
光のもとを |
尋ぬべし』 |
『世尊に値うは |
稀なこと |
仏は主なり |
師親なり |
我等は遠き |
遥かより |
供養なさんと |
詣でたり』 |
『唯願くば |
説き給え |
悩みの衆生 |
度し給え』 |
(四)
『見よ宮殿の |
曽てなく |
照り耀くは |
何事ぞ |
仏の生じ |
給いしか |
光のもとを |
尋ねかし』 |
『迦陵頻迦の |
声の主 |
神々の神 |
み仏よ |
百八十劫 |
仏無く |
空しく我等 |
過ごしきし |
大法輪を |
転じませ |
罪の衆生を |
清めませ』 |
(五)
『見よ宮殿の |
曽てなく |
照り耀くは |
何事ぞ |
仏の生じ |
給いしか |
光のもとを |
求むべし』 |
『すべての罪を |
清めます |
仏の雨ぞ |
有難き |
百三十劫 |
優曇華の |
花に遭うごと |
稀なりき |
真理の曲を |
奏でませ |
甘露の雨を |
雨らしませ』 |
(六)
『見よ宮殿の |
曽てなく |
照り耀くは |
何事ぞ |
仏の生じ |
給いしか |
光のもとを |
訪ねなん』 |
『甘露の門を |
打ち開き |
一切衆生を |
度し給う |
仏よ供養を |
受けたまえ |
願わくばこの |
功徳もて |
われひと共に |
このえなき |
仏の道に |
進まなん |
涅槃の道を |
示しませ |
鈴のみ音を |
聞かせませ』 |
(七)
大通如来 |
二十劫 |
漸く仏に |
成りませり |
『我等に法を |
充ちたまえ』 |
十六王子 |
請いにけり |
『仏に値うは |
稀なこと |
甘露の門を |
開きませ』 |
尽十方の |
神々も |
集い来りて |
請いにけり |
『われ在りとする |
心こそ |
一切の苦の |
もとなれや |
われ無しとする |
心こそ |
苦を解きはなつ |
もとなれや』 |
四諦の真理 |
響きては |
無量恒沙の |
集いとは |
み弟子の位に |
入りたり |
『世尊よ尚も |
説き給え |
仏の位 |
大乗の |
究竟のみ法 |
示しませ』 |
十六王子 |
又請いつ |
そのとき世尊 |
法華経の |
無数の歌を |
説き終り |
深く禅那に |
いりませり |
十六王子 |
師のままに |
蓮のみ法を |
講じつつ |
遂に仏に |
成り果たし |
今八方の |
国々の |
十六仏は |
王子にて |
この我はその |
一人なり |
我汝等に |
法華経を |
説くは初めの |
事ならず |
大通仏の |
昔より |
汝等我の |
弟子なりき |
ここに路なき |
五百里の |
遠く険しき |
森ありき |
一行ありて |
この森を |
過ぎらんとして |
出掛けたり |
されど途中に |
疲れはて |
長に向かって |
申しけり |
『ここより我等 |
還らなん』 |
一行の長 |
智慧ありき |
一つの城を |
化し作して |
輩に向かい |
呼ばわれり |
『見よや彼方に |
館あり |
汝等憩うに |
適すなり』 |
輩俄かに |
勇み立ち |
館に入りて |
安らげり |
時こそよしと |
見し長は |
この化の城を |
消し無くし |
『いざや汝等 |
起てよかし |
かれはまことの |
城ならず |
わが方便の |
力もて |
仮に作りし |
宿りなり |
宝の島は |
遠からず |
いざや汝等 |
進むべし』 |
仏と長と |
異ならず |
我は衆生の |
導師なり |
この三界の |
森を経て |
仏の島に |
手引くなり |
されど汝等 |
懈(ものう)けば |
方便の道 |
説き作して |
仮の憩いを |
与えたり |
されば汝等 |
勇み立て |
仏の道は |
程近し |
かりの方便 |
振り捨てて |
二なく三なく |
一つなる |
まことの幸に |
進めかし |