譬喩品第三(一)

仏は我に      説きたもう   「汝は我と     同じき」と

このみ言葉を    今にして     漸く悟り     得てしなり

仏よ我を      知ろしめせ    疑の雲      残りなく

晴れて今こそ    仏子なり     まこと仏の    み相(すがた)

心の中に      隠るなく     三十二相     麗わしく

心は必ず      現わるれ     その美しき    み仏は

我を証(あか)して  宜り給う     「汝は我と    同じき」と

夢か現か      惑うほど     あまりにはずむ  嬉しさに

熱き涙の      堰きあえず    我は今こそ    仏子なり

  

譬喩品第三(二)

わが舎利弗は    未来世に     華光(けこう)如来と 名づくなり

年号の名は     大宝厳(ほうごん)  その国の名は   離垢(りく)と呼び

瑠璃の地面に    金の路      花とこのみの   麗しく

この仏国を     埋むなり     仏の壽(よわい)   十二劫

人の寿も      八劫年      仏涅槃に     入りて後

仏法永く      潤いて      仏舎利塔の    限りなく

この国人に     拝まれん     歓べぞかし    舎利弗よ

 

譬喩品第三(三)

昔仏は       ハラナシに    未だ無かりし   法の道

「無我」の真理を  宜り給う     今亦仏は     未曾有の

大法輪を      転じまし     すべて「仏性   平等」と

妙法華経を     宜り給う     我等も同じ    仏なり

嗚呼有難き     このみ言(こと)     仏よ今ぞ     知ろしめせ

我等も堅く     誓いなん     このみ法をば   受け持(たも)

仏の道を      伝えては     仏のすがた    顕わさん

 

譬喩品第三(四)

譬えを引いて    語りなん     昔一人の     長者あり

家ふるければ    様々の      虫やけものが   住まいけり

やもりげじげじ   蛇ねずみ     烏ふくろう    むじなまで

天井といい     床といい     修羅場のごと   相咀(は)めり

ある日なりけり   火事起こり    火の手たちまち  拡ろがれり

幸い長者は     いち早く     この火の宅(いえ)を 遁れ出づ

されど長者の    子供らは     火の熾(さか)るをも 気づかわず

屋内ふかく     戯れり      「汝等子らよ   疾く出でよ

火事よ火事よ」   と叫べども    如何に遊びの   面白き

父の呼ばりに    気づくなく    憐れなるかな   子供らは

この火の海に    呑まるべし    されど長者は   智惠ありき

「汝等常に     欲しがりし    羊の車      鹿ぐるま

牛の車ぞ      外にあり     とく出でざれば  失わん」

さしも夢中の    子供らも     この呼び声に   我先きと

門の外へと     駆(は)せいでり  「父よ賜わん   かの車」

口々に乞う     子供らに     父の長者は    おもむろに

大白牛車(だいびゃくごしゃ)を 指し示し  「我与うるは   これらなり」

見れば飾りの    麗しく      真珠の床に    金の鈴

メノウ琥珀を    ちりばめて    およそ眩(まば)ゆき ばかりにて

かの子供らの    歓びは      譬えんものの   なかりけり

汝舎利弗      我も亦      同じ長者の    ごとかりき

この三界は     火宅なり     我まず悟り    遁れども

汝等欲に      拐(かどわ)され   生老病死     果てしなき

わずらいあるに   気づくなし     この三界は    わが有なり

又その中の     汝等は      まこと愛しき   わが子なり

されど汝等     幼けば      我独りよく    汝等を

久遠の幸に     救うなり     われ三乗の    教えをば

まことしやかに   説きたれど    三乗の別     あるぞなき

ただ汝等を     いざないて    一仏乗の     悟りまで

渡し果てんと    せしままに    三つのてだて   説きしなり

されば汝等     心せよ      わが仏法は    一つなり

我と同じき     仏性を      汝等ひとしく   受くるなり

夢な謗(そし)りそ  このみ法     謗りの罪の    重ければ

みだりに人に    説くなかれ    夢な忘れそ    このみ法

柔和と信の     心もて      この一乗を    護れかし

今此三界 皆是我有 其中衆生 悉是吾子 

而今此処 多諸患難 唯我一人 能為救護