『Watchmen: The End is Nigh Part1』デモふいんき訳

訳:さぼり( http://cosmicsmash.moe-nifty.com/dempa/ )

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history:
 2009/08/11 Chapter1「モロク」→多分「モーロック」が正しい。修正。

 2009/04/06 本編読み直して気付いた誤訳修正
      Chapter1「Sixty-Six」
           →店名ではなく単純に1966年でよかったらしい
           (本編に1965年にアンダーボスと戦った回想がある)

 2009/04/04 誤訳とニュアンス修正が落ち着いたので原文削除。
 2009/03/15 訳完了。
 2009/03/14 chapter 4 までアップ。

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Prologue


オウルシップのドック内。ナイトオウルがシップを整備中。
ロールシャッハは新聞を読んでいる。


 新聞記事《ニクソンがマクガバンを10ポインリード、再選ほぼ確実に》
   (※1972年の米大統領選挙)

 ロールシャッハ「こんなクズ紙を読むなんて信じられんな。勝手なたわ言ばかりだ」

 ナイトオウル「そのたわ言がこの国を偉大にしているんだよ、ロールシャッハ。
   君の信条には合わないようだが僕にとってはそうじゃない。
   …ともあれ、それなら明晩コロンビア(※シアトルのコロンビア・シティ)まで
   君がついてくる心配はしなくていい訳だ」

 ロ「何の用事だ?」

 ナ「そのワシントン・ポストの元記者のボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインが
   言ってるんだ。”昨年6月のウォ−ターゲートホテルの不法侵入の件について
   とんでもない新情報を手に入れた”とね」

 ロ「陰謀論好きどもの妄想だな。共和党(※ニクソンの所属党)のやつらの仕業だと
   吹聴したいがために、終わった事件をハゲタカよろしく突っついてやがるのさ。
   クビにされて何よりだ」

 ナ「つくづく君の偏見は手のほどこしようが無いな」

 ロ「この病的な頑固者−−」


警察無線が流れる。


 《繰り返す!オッシニング(※地名)の停電により、シンシン刑務所で暴動発生!
  手空きの全車両は事態の収拾に向かって下さい!》

 ナ「政治談義はお預けだ」


オウルシップ発進。


 『日誌 ロールシャッハ記 1972年10月13日
  今夜も雨だ。どしゃ降りになった。
  まるで天がニューヨークの罪を洗いとばそうとするかのように。
  …無駄な事だ、この街の魂はスチールウールで擦ったって
  清めることなど出来やしない。』


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Chapter 1


刑務所上空。


 ナイトオウル「刑務所までもうすぐだ」

 ロールシャッハ「下はモーロックの心臓みたいに真っ黒だ」

 ナ《刑務所長、こちらナイトオウル。ロールシャッハと私の着陸と加勢を許可して欲しい》

 刑務所長《断る。コスプレの自警団なんぞに状況を悪くされてはかなわん。
   我々は事態を完全に掌握している》

 ロ「ここからはそうは見えんな」

 ナ《所長、予備発電機に人をやっているか?》

 刑《問題ないと言っている、とっとと失せろ! いいか、着陸するなら撃つぞ!》

 ナ「撃ちたければ撃つがいいさ」

 ロ「大層冷たいお出迎えだな」


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脱獄した囚人達を返り討ちにしつつ予備発電機へ向かう。
到着直前に発電機が大爆発、部屋に入ると床には大穴が。


 ナイトオウル「お約束だな。市の停電があと5分早く回復していれば
   ヒヤヒヤせず済んだんだが…」

 ロールシャッハ「警備員は見当たらんな。もしいたらまっ逆さまに落ちて
   ミンチになっていたところだ」

 ナ「僕らもね。ふむ、発電機は意図的に破壊されたと見ていいな」


銃を持った部下とともに刑務所長が登場。


 刑務所長「両手を見えるところに挙げろ、クソども!
   失せろと言ったはずだぞ。貴様らを逮捕する!」

 ロ「あんたの仕事を肩代わりしてるだけさ。礼には及ばん」

 ナ「所長、事態を完全に掌握してると聞いたはずだが?」

 刑「礼など言うか! 全ての囚人は房に戻した…一人をのぞいてはな」

 ロ「誰だ?ビッグ・フィギュア(※悪漢の名前。原作Chapter8で登場)か?」

 刑「いや、アンダーボス(※悪漢の名前。原作Chapter5で名前だけ出てくる)だ」

 ナ「奴か? あのゴリラは我々が66年に捕まえたんだ」

 ロ「この暴動に乗じて脱獄したとは奴にしては知恵が回りすぎるな。手引きした奴がいるはずだ」

 ナ「所長、停電の件について情報が欲しい。我々が奴を連れ戻す」

 刑「どこにも行かせんぞ、お前らのおせっかいでどれだけの被害が出たかわかるまでは…」


Dr.マンハッタンがテレポートで登場。シルクスペクターも一緒。


 刑「ド、Dr.マンハッタン?」

 ナ「シルクスペクターもか」

 マンハッタン「手助けが必要かね?」

 ロ「5分前ならな」

 マ「すまない。スリランカのサイクロン被害を食い止めていたのでね」


 ナ「大丈夫かい?」

 シルクスペクター「ええ。テレポートはいつも吐き気がするけどそれだけよ」


 マ「本当に助けはいらないのかね?」

 ナ「ああ、今からここを発つところさ。そうだろ、所長?」


マンハッタンを見てガクブル状態の所長。


 刑「ま、全くそのとおりだ。何も問題はない…」

 マ「それはよかった。私が干渉しないと今から4分37秒後にウルグアイの
   ラグビーチームを乗せた飛行機がアンデスで墜落してしまうのでね」
   (※史実の「ウルグアイ空軍機571便遭難事故」。
    ウォッチメン世界ではマンハッタンが阻止したもよう)

 シ「心配してくれてありがとう、ナイトオウ…」


マンハッタンとシルクスペクター、テレポートで退場。


 ロ「あの青い化け物を見ると身の毛がよだつな」

 ナ「彼ならアンダーボスの居場所もわかっただろうに」

 ロ「…ダニエル、ラムランナー(※酒場名)で一杯やらないか」


聞き込みのため酒場へ。


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Chapter 2


裏路地にオウルシップで着陸。


 ロールシャッハ「もっと近くに停められなかったのか?」

 ナイトオウル「ここでいい。なるべく目立たないように…」


女の悲鳴。


 ナ「何だ?」


ストリートギャングに女がからまれている。


 女「やめて、お願い!」

 男「来いよベイビー、別に傷つけやしねぇからよ」


ロールシャッハ登場。


 ロ「誓ってか?」

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ストリートギャング達をけちらしつつ酒場のある建物に到着。


 ロールシャッハ「日に日に物騒になるな。ケダモノどもが放し飼いだ」

 ナイトオウル「今の僕らにはもっと大事な使命がある」


建物入口のテレビでニュースが流れている。


 《最初のニュースです。オジマンディアスがノトーリアス・キング・オブ・スキン
  (※悪漢の名前。原作Chapter5で名前が出てくる)を捕らえました。
  では現場のジョディ・クレイマーから、この高名なクライムファイターへの
  特別インタビューを…》

 ロ「カメラ好きの目立ちたがり屋め。奴が俺達の中で一番うまくやったのかもな。
   ああもったいない」

 ナ「やり方は人それぞれさ、相棒。僕らに彼を責めることはできない」

 ロ「責められないって?」


店内へ。酒場の主人(※ハッピー・ハリー。原作Chapter1に登場)が
2人を見るなりうろたえる。


 ハリー「な、なあ、揉め事は勘弁してくれよ。あんた達が前に来てから
   やっと店の修理が終わったとこなんだ」

 ナ「悪いが約束はできない。」


男が一人逃げようとするのをロールシャッハがさえぎる。


 ロ「どこへ行く気だ?」

 男「お、俺ぁ何も知らねぇよ…本当だ」

 ロ「まだ何も言ってないぞ」

 ナ「アンダーボスが脱獄した。手引きした奴がいるはずだ…それは誰だ?」

 男「わ、わかんねぇよ…!」


ロールシャッハ、ビリヤードのキューを手に取って男の頭に突きつける。


 ロ「いいだろう。ゲームでもするか…お前が球だ。そして俺が突く」

 男「ま、待ってくれ!話す!」

 ロ「さっさとしろ」

 男「あ、ああ。ジミー・ザ・ギミック(※悪漢の名前。原作Chapter5で名前だけ出る)だ。
   どこで手に入れたのか刑務所の配電図をいじくってやがった」

 ナ「驚くにはあたらないな。ジミーなら盗品売買はお手のものだ。
   奴はチンピラにでも反政府組織にでも、金さえ払えば
   ガールスカウトにだって武器を売りつけるだろう」

 ロ「奴は今どこに隠れてる?」

 男「ふ、古い遊園地だと思う。知ってるだろ、今取り壊し中の?
   けど「あんた達は俺から何も聞いてない」、いいな? もう俺はこりごり…
   …ん?」


(下を見て)


 男「ああ、何てこった、チビっちまった!」


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Chapter 3


またストリートギャングをけちらして遊園地へ。
ジミーを追い詰める。


 ナイトオウル「逃げ場は無いぞ、ジミー。年貢の納め時だ」

 ロールシャッハ「まだ歩けるうちに観念しろ」

 ジミー「いらんお世話だね、顔無し野郎。逃げ道ならあるぜ」


ジミー、ジェットコースターの線路によじ登るが線路上で2人に挟みうちにされる。


 ロ「ここの出口は地上の道路だけだ」

 ジ「くそっ!」

 ジ「ま、待てよ。理性的に行こうじゃないか」


コースターの制御室。謎の男の腕(※)がコースターを発進させる。
突っ込んでくるコースター。
 ※腕を見ればバレバレですがこの時点では一応謎に。


 ジ「おい、冗談だろ…」


斜面の上側にいたナイトオウルが咄嗟に線路から跳び退いて
グラップリングフックでコースターを引き止める。


 ナ「長くはもたないぞ。ジミー、白状するなら今だ」

 ジ「わかったよ!何でも喋る!」

 ロ「アンダーボスはどこだ?」

 ジ「奴の古い地下の隠れ家に決まってるだろう。他にあるってのかよ?」

 ロ「奴の財産は土地も含めて競売にかけられたはずだ」

 ジ「誰が買ったにせよ、そいつがアンダーボスに使わせてるはずだ。
   ブツをそこに届けるように言われたしな」

 ナ「何のブツだって? 届けるように言ったのは誰…」


フックのケーブルが謎の男の狙撃で切られる。
コースターが突っ込み、ジミーは線路の下へ落下。


 ナ「どういう事だ? あのケーブルはさっきの5倍の重量に耐えられるよう
   設計されていた…自然に切れるはずは無い。
   何かが…あるいは誰かがケーブルを切ったんだ」

 ロ「考え過ぎだろう」


線路下へ降りてジミーの様子を見る。


 ロ「まだ生きてるぞ」

 ナ「救急車を呼んでジミーに続きを聞こう」

 ロ「他にやる事は?」

 ナ「下水道へ向かおう。奴の私有地だ」

 ロ「もっともだな」


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Chapter 4


下水を通ってアンダーボスの隠れ家へ到達。
道中、襲ってくる敵の中にプロの傭兵がいる事に気付く。


 ナイトオウル「おかしい。アンダーボスみたいなのろまがこのゴタゴタの中で
   傭兵を雇うなんてあり得るか?」


隠れ家を進むとドアの中から人の気配が。


 ナ「おい、誰かいるぞ!」


開けると椅子に縛られた瀕死の男。


 ナ「何てこった…」

 ナ「…生きてるぞ!」

 ロールシャッハ「だが長くはないな」

 ナ「彼は誰だ?」


ロールシャッハが身分証を確認する。


 ロ「マーク・フェルト。行方不明になっているFBI副長官だ」

 ナ「ミスター・フェルト、もう大丈夫です」

 フェルト「わ、私の事は構うな…や、奴に喋らされた…彼らにどこで会うかを…」

 ナ「誰に会うと?」

 フ「き、記者だ…う、ウッドワードとバーンスタイン…奴、奴が彼らを殺しに…」

 ナ「どこで?いつ?」

 フ「建設現場…チャールトン(※英国ではなくニューヨークの街名)39番地…午前3時…
   や、奴は狂ってる…と、止めてく…」


フェルト死亡。


 ナ「死んだ…」


隠れ家の出口に向かう。


 ロ「腑に落ちん。どうしてFBI副長官があんな扇動者どもと秘密裏に会うんだ?
   彼らに渡そうとしていた情報とは何だ?」

 ナ「そして何故アンダーボスが彼を殺してまで情報を奪ったのか?」

 ロ「ううむ…きっと奴は情報など欲しくなかったんだろう。ただの復讐だ」

 ナ「そうだな。彼らの書いた調書であいつが裁かれたから…」


シャッターを開くと眩しいスポットライトの光。出口が警官隊に包囲されている。


 警官《動くな!動けば射殺する!》

 ロ「ハメられたな」

 ナ「午前3時までもう時間が無いぞ」

 ロ「ならばする事は1つだ」


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Chapter 5


警官隊を突破してチャールトン地区の建設現場に到着。
男が停車中の車のトランクから武器を取り出して吟味している。


 男「たまらねぇ、極上品じゃねえか。こりゃわざわざ来た甲斐が…
   …ん?
   ちくしょう!何だこりゃ?」


トランクの奥には頭を撃ち抜かれた死体が2つ。
そこにナイトオウルとロールシャッハが登場。


 ロールシャッハ「ゲームオーバーだ…アンダーボス」

 ナイトオウル「くそっ、遅かったか。ウッドワードとバーンスタインは救えなかった」

 アンダーボス「いや、待てよ誤解だ。俺がやったんじゃねぇ、俺はハメられたんだ」

 ロ「隠れ家で貴様が俺達をハメたようにか?」

 ア「隠れ家? 俺はあそこには何年も行ってねぇ…」

 ナ「言い訳は司法の場でするんだな!」

 ア「冗談じゃねぇ! またムショに戻るくらいなら死んだほうがマシだ」

 ロ「どっちを選ぼうと貴様の勝手だ」


アンダーボス、2人に発砲。


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Chapter 6


逃げるアンダーボスを追跡、建設現場の最上階で戦い勝利する。


 ナイトオウル「さあ来るんだ、大将。答えてもらう事は山ほどある」

 アンダーボス「言ってるだろう、俺がやったんじゃねぇ! 真犯人は−−」


アンダーボス、謎の男に狙撃されて落下。謎の男の正体はコメディアン。


 コメディアン「ケッ、ド素人どもが」


周囲を見回すナイトオウルとロールシャッハ。


 ナ「何か見えるか?」

 ロ「何も。アンダーボスを殺った奴はもう消えたようだ」

 ナ「何故僕らを撃たなかった? 隙だらけだったはずだ」

 ロ「決まってるさ。俺達は標的じゃなかったんだ。
   何が起きたにせよ…俺達は弄ばれたんだ」


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Epilogue


ロールシャッハ、通りで新聞(ニューヨーク・ガゼット)を買う。
新聞の見出しには、
《ニクソン大勝利》
《ウッドワードとバーンスタイン殺害容疑のアンダーボスは今も昏睡状態》
《フェルトFBI当局者の死にはキューバ系テロ組織が関与か》


 『日誌 ロールシャッハ記 1972年11月8日
  3人の間抜けどもは死んだ。
  そのうち2人の極悪人(※記者2人)が遺した火種は今も燻っている。

  トリッキー・ディック(※ニクソン)は再びホワイトハウス入りし、
  世界はまた民主主義にとっての安寧を取り戻した。
  だが、その安寧はどれだけ続くだろうか?』


ロールシャッハ、新聞を投げ捨てる。


 『俺やナイトオウルのような善人が真実を暴き立てる必要のない世の中は
  いつになったら来るのだろう?
  あるいは悪が最後の勝利を収める時は?』


おしまい。

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補足。

・このエピソードはウォッチメン世界の年表の
「1972年 ウォーターゲート事件を追う、ウッドワードとバーンスタイン両記者の
 死体が発見される」をストーリー化したもの。

・ウッドワード、バーンスタイン、フェルト(=ディープ・スロート)は実在の人物。
 現実の歴史ではフェルトの手引きでウッドワードとバーンスタイン両記者が
 ウォーターゲート事件の調査を進め、その報道によってニクソンが失脚する。
 ウォッチメン世界では彼らが死んで事件がもみ消された結果、ニクソンが
 1985年時点で5選目を果たしている。

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