Black & White 朝食を採り、教室へと向かう。 今日は寝坊してしまったからいつも一緒にいる彼とは別行動だった。 「おはよう」 クラスメイトが声をかけてくるのに笑って応え、自分の席へと向かう。 本当はこんなことしてるのも面倒なくらい気持ちが急いている。 早く。 早く会いたい。 教卓を回るようにして窓際へ向かう。 横目で確認した席に彼はいない。クラスメイトと窓辺で話をしているようだった。 まだこちらには気がついていないようで、何か言われてむっとしたように言い返している。 子供っぽいその表情が、作ったものではないことを俺は知ってる。 少しの嫉妬と、今隣にいるのが自分ではないことに対する悔しさ。 醜いと自分で思う。 でもこれが俺なんだと、諦めに達してきてもいる。 こんな風に人には言えない感情を育てたのはもう一度や二度ではないから。 誰にも言えない。 特に、彼には絶対に。 クラスメイトに屈託なく笑うその姿を憎いとすら思う。 …なんで、俺に気づかないんだよ? 考えが通じたのか、ふと気づいたように彼が顔を振り向けた。 途端にふわりと広がる笑顔。 それは今までとは明らかに違う、やわらかい微笑み。 「おはよう。啓太」 ―――ああ、きれいなんだ。 瞬間的に頭にそう浮かんだ。 彼はきれいなんだ。多分気持ちが。 暗さを伴っていても、なぜだか酷く真っ白で。 冷たいのにきれいな、温かい白さで汚い感情を浄化してしまう彼は本当にすごいと、思う。 だってほら。 笑顔と挨拶ひとつでこんなにも、俺まできれいな気持ちになっている。 「…おはよう、和希」 他のクラスメイトの挨拶にも笑って応えて、でも頭の中はそんなことどうでもよくて。 込み上げるような温かな幸せの余韻に浸っている。 鳴った予鈴に連れ立って席へと戻る。 今日も、いつもと変わらない一日が始まる。 end.
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