「やっぱりすぐ枯れちゃうんだな」
花入れですでにしおれているコスモスを撫でながら、呟く。
命あるものはやがて衰える。
それが切り花であればかなり気をつけて世話をしていても、そうもつものでもない
のはしょうがないことだった。
そんなことはデュオもわかっていたのだけれど、それと感情はまた別物らしい。
「枯れない花・・・はイヤだしなぁ。しょうがないんだろうなぁ」
枯れない花、もちろん造花である。生の花はどんなに品種改良が進んでもやっぱり
枯れてしまう。これも自然の摂理、当然のこと。
なおも未練がましくぶちぶちと言いながら、その花たちを捨てた。
キレイで、とてもとても好きだったのに。
花の命は短いというけれど、実際に手元に置いてみるとそれが本当によくわかった。
「また貰ってくるか?」
ふと読んでいた雑誌から顔を上げてヒイロが聞いてくる。
そのコスモスたちはお隣の奥さんが家庭菜園の隅で育てたものだった。男の子二人
暮しでは色もなかろうと、わざわざきれいな盛りに届けてくれたものである。
まだ花の時期は終わっていないから、頼めばきっと分けてくれるだろう。
「うんにゃ。また枯れるの見るの嫌だもん」
その話は、それで終わったはずだった。
少なくとも、デュオの中では。
それからかなりの時間がたって。
ある日、デュオはヒイロに手を引っ張られて近くの貸し家庭菜園に連れてこられた。
そこでデュオを迎えたのは満開の、いろいろな野菜の花たち。
「ヒイロ?これって・・・」
そこには確かに『ヒイロ・ユイ』とプレートが立ててある。
「・・・・・・・・・・始めは花を育てるつもりだったんだ」
ちょっと決まり悪そうな声が返る。
枯れてしまう、死んでしまう花を哀しんだデュオのために。
毎年花を見せてくれる多年草でも育てて、鉢植えにしてプレゼントしようと思ったのだ。
そうしてすぐ種を買ってきて、一生懸命大切に育てて。
やがて一斉に芽が吹き、気がつけばどこをどう間違ったのか・・・野菜の苗となっていた。
「・・・種、間違えたのか?」
「そうらしい」
答えを聞くと同時に、吹き出してしまった。
まったくもってヒイロらしからぬミス。ツメが甘いというより、慣れないことをやろうと
したこと自体が失敗の始まりだろうか。
それでも、自分のためにがんばってくれたことが凄く嬉しいから。
「さーんきゅ!」
照れたようにそっぽを向くその頭を後ろからがしがしと撫で繰り回してやった。
髪をぐしゃぐしゃに乱されて不機嫌気に振り返るヒイロ。
反対にさらに上機嫌になるデュオ。
無邪気にはしゃぐ二人を、近くを通りかかった親子連れが微笑ましそうに見つめていた。
今年は、きっと美味しい野菜が食べられるだろう。
end.
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