VALENTINE 2004



目が覚めたら枕元にチョコレートがあってびっくりした。
A.C.197年2月14日。
それがバレンタインデーという1日の始まり。


「だーからさー、枕元はないと思わね?サンタさんじゃないんだしさー」
「目が覚めなかったのか?たるんどる証拠だ」
「相手がこいつではな…そうデュオを責めるな、五飛」
「それより、ヒイロがそんな可愛らしいことしてること自体が問題ですよ。君、絶対性格変わったでしょ。元からとか言ったらその方が怖いんだからね?」
「うるさい」
休憩室の一角を占拠し、元ガンダムパイロット達は和やかに会話を楽しんでいた。
普段は3人でも揃うことは滅多にないが、たまたまシフトが重なった2人と家にいても暇だからと加わった1人、警備の相談で本部を訪ねてきていた1人、せっかくだからと呼び出された1人という具合に全員が揃うことになった。
破壊力という意味においては最凶だろう一団は、今はその周囲に大量の可愛らしい包み紙が散乱しているため近寄り難さも半減だ。
ちらりと部屋の反対側を見やった五飛は、またぞろそこをうろうろしている女性職員数人の姿を認め嫌そうに眉を顰めた。
今日が何日かなどということは把握していても、それが仕事に影響を与えるほどに関係してくるとは彼は今日まで考えもしなかったに違いない。
プリベンターは国家機関だ。
ただし、危険因子の撲滅などというものが組織の目的なだけに、ゴツイむさい中年男が大半を占めてしまうという、ある意味ちょっとお近づきになりたくない組織でもある。
そんな中なので、若い男の子の群は数少ない女子職員にとってまさしく心のオアシス、見てるだけで幸せになる、愛でるべき花。
ましてそれが全員顔立ちが整ってるとくれば尚のこと熱が入るというもの。
さらに言ってしまうと、全員がタイプの異なる美少年というやつなので、どの女性職員も一人はツボにくるのがいたというオマケもあったりする。
そんなこんなで、ヒイロと五飛は朝自分のデスクを見たらそこにチョコがあり、作業の都合で席を立てば途中で呼び止められ、いい加減鬱陶しいと休憩所に避難すればそこに追っかけが現れ、と仕事どころではない状態になってしまっていた。
勿論本部に詰めているような人間達だから各人節度は守ってるわけだが、ちょこちょこ気が散る状態でなにかする気にもならず、結局2人は暇だからと出勤してきて同じ目にあっていたデュオと共にここに落ち着くことにしたのだった。
幸い、事後処理という名の報告書作成以外今は特別やることもない。
余談だが、普段の愛想の良さが大ウケしてデュオの義理チョコ被害が最も甚大だった。ヒイロと五飛のファンは、彼らの性格を慮って義理といえど遠慮する人間もいたせいだ。
今日は帰ってしまおうか、と考えていたときにばったり出くわしたカトルのせいでトロワも呼び出され、結果的に状況は現在のようになる。
さて、そこで話は冒頭に戻る。
「ヒイロがチョコなんて、世の中も平和になったんですねー…」
しみじみと呟くカトルに苦虫を噛み潰したような顔をしたヒイロは、自分の行いをソッコーで全員にバラした張本人を睨みつけた。
本人はそれに全く気付かず、カトルに相槌をうったりしている。
気付いたトロワが、苦笑しつつ視線でヒイロを宥めた。
「元々JAPが発祥というからな、L1ではポピュラーな行事なんだろう」
「しかし…、いや、もう何も言うまい…」
なんだか五飛は諦めの境地に入ってしまったらしい。
「それよりも、コレをどうするかが問題だ」
「ですねぇ…」
トロワとカトルの参入により、チョコの数は当初より増えていた。
それぞれに渡しにくる者、全員に渡す者とそれは様々だが、本来予定にないカトルとトロワまで貰っているということはどこかの男性職員が義理チョコを貰い損ねたということなのだろう。
お菓子などそうサイズが大きいわけでもないので山という程ではないが、中が全部チョコレートだと思うと胸焼けが起きる程度は積まれている。
5分割しても胃が悪くなることは間違いなかった。
「来月のお返しどうしましょう」
「いやカトル、問題はそういうことじゃないんじゃねぇ?」
「俺は公演で来れないから、代わりに頼む」
「あ、僕も無理ですので宜しく、五飛」
「何故俺がっ」
「だってヒイロとデュオは僕が警護に連れてっちゃうから君しかいないもの」
「………謀ったか、カトル」
「酷いな、偶然ですよ」
「まーまーまー、それは五飛に任せるとして、これってばどうするー?」
背中から五飛に懐きながら、デュオはかわいらしくラッピングされた袋の1つをつまんだ。視界の端でヒイロの眉が吊り上ったがそれはシカトする。
「なんかもーどれを誰が貰ったのかもわかんないし、誰がくれたのかもわかんないし、ぐっちゃぐちゃだけど、とりあえずそろそろ分けないと。オレさすがにこれ以上増える前に帰りたいし」
デュオの言葉に、それもそうだなと五飛が溜息を吐いた。
ふと気付いたように、トロワがデュオを見た。
「お前の分は俺が引き受けよう」
「なんで?」
「…甘いものが嫌いだっただろう」
瞬間、ヒイロが固まった。
「1つで限界だ。違うか?」
彼の視線を感じつつ、にこやかにトロワは言った。
デュオがうーんと悩むように宙を見る。ちょっと考えた後、「お言葉に甘えてもいい?」と舌を出す。
「気にするな。男所帯だからな、皆に喜ばれる」
「さんきゅー、トロワ」
にぱっと笑ったデュオに微笑み返して、ちらりとヒイロに視線をやる。
そのからかうような視線に眉を顰めて、ヒイロは嫌なやつだ、と小さく呟いた。微妙に自慢されてることは間違いない。
トロワとヒイロの無言のやりとりを傍の二人は面白く眺めたが、渦中の一人は気付かなかった。懐いたままの五飛の背中から、ようやく離れる。
「じゃ、とりあえず5分割しちゃいましょうかー」
で、人の寄ってこないどっかでお茶しなおしましょう。
デュオの提案は、一部の賛成と一部の溜息で承認された。


「聞いてないぞ」
夜。夕食を食べ、お風呂に入り、さて後は寝ましょうという段階になって、それまで黙っていたヒイロがようやくぼそりと呟いた。
「なにがー、…あ、甘いもの嫌いってやつ?そりゃ言いふらしたりとかはしてないけど。お前気付いてなかったのな」
「………」
何のことか量りかねたデュオは、ヒイロの機嫌が下降したときの会話を思い出しつつ吹き出した。
「だーいじょうぶ、お前のはちゃんと食べるって」
笑うデュオにも、ヒイロの眉間の皺はなくならない。
それをつつきながらデュオはヒイロの胸にぺったりと倒れこんだ。
「そんなに気にしなくていいし、オレお前のは食べたいし。なんたって本命じゃん」
義理なら他の人にあげてもいいけど、そればかりは粗末にするような性格はしていない。その上、くれたのはかのヒイロ・ユイ。
「ちょっとびっくりしたけどさ…」
くっついた状態のまま、間近で笑みをもらす。
「思ってたよりずっと、オレってば幸せなんだなぁって実感したからさ」
だから多少甘くっても許すのだと、笑って囁いてデュオはヒイロにキスをした。

                                          end.




COMMENT;

2/12のイチニデーに、ちょっとだけ早いバレンタイン小説です。
甘いです。甘いのを想定してたとはいえ、思ってたよりなんか変に甘いです;;
書いた本人がちょっとびっくりしました( ̄ロ ̄;;
ちなみにデュオが甘いの嫌いってのはこのお話だけの設定です。
なんか甘党な気もするし、甘いの嫌いな気もするんです。
ブラックコーヒー飲んでるデュオとか、凄い容易く想像できるんですよ!でも甘いものがっつり食べてるのもかわいい…。
同様にヒイロも、イメージからすると甘いものダメなんですが、予想外に甘党だとなんかそれはそれで素敵じゃないですか!?
そんなこんなで二人共、お話ごとに味覚変わってたりします。9年近く経ってもこの辺はイメージ固まりません(>w<)


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