「うーん、やっぱりコレ美味いわ」
先程から、絶え間なく紡ぎ出される言葉がどんどんとヒイロの機嫌を下降させていく。
それにも全く気がついていないように、デュオは目の前に築かれた山からまた一つ、 綺麗にラッピングされた箱を取った。
どうやら最近の女の子は量より質、と考えるものらしい。
一つ一つの箱は小さいし量も少ないものの、味が大層いいのである。どれをとってもハズレなし、と言ったところか。
しかし、この「量が少ない」というのは重要なポイントだ。
貰った数が数なので、これで大きなものを貰っていたらと思うとなかなかにぞっとする。
プリベンター内部では、ヒイロとデュオの仲は結構なとこ知れ渡っている。
だからバレンタインデーという一大イベントにおいても、この二人に本命チョコを渡す強者はいない。
その代わりなのだろうか、義理チョコならそれこそ山のように渡されてしまった。
ヒイロはそれも鬱陶しがって片っ端から断っていたのだが、デュオは持ち前の愛想の良さから全部を受け取ってしまっていた。
現在、デュオの前に積まれているのはその戦利品。それに、ヒイロのデスクに有無を言わせず置き逃げされていたものが加わっている。
せっかく貰ったんだから、と言ってデュオがそれを食べ始めたのがつい先程。そして、それ以降ヒイロの機嫌は下がりっぱなしである。
「………」
「ヒイロ、いいかげんに機嫌治せってば。義理なんだしそんな目くじら立てる必要ないだろー?」
どうやら、デュオはヒイロの様子に気付いてはいたらしい。しかしその口調から察するに、ヒイロの苛立ちの原因にはたどり着いていないようだった。
お前のその無神経さが問題なのだと、言えたらヒイロは楽だったかもしれない。
たとえ義理とわかっていても、他の人間から貰ったものを目の前でこうも嬉しそうに食べられるとさすがに気が滅入る。
しかしヒイロとデュオの間には深くて深い溝があるのも事実。
どこかピントのずれた発想しかわかないらしいデュオに、諦めたように溜め息を吐いて、とりあえずこの場から去ろうと腰を上げた。
憂鬱そうな気配を隠しもせずソファから立ちあがると、デュオがくいくいと手招きをした。
一体今度はなんだと思って振り返ると、ふいに口唇にやわらかい感触。
一瞬の隙をつくように、口唇越しに何かが押し込まれる。
―――甘い。
眉をしかめたヒイロに、デュオが楽しげに微笑んだ。
「フランス製のトリュフ。クリームの味がいいだろ」
確かに、一般的に美味しいと言える代物なのかもしれない。
ただし、非常に甘い。舌に残る感覚がヒイロ的には嫌な気持ちがする。
固まったまま口を抑えて嫌そうな顔を隠しもしないヒイロに、にーっこりと嬉しげな
笑顔が映った。
「オレ、コレ好きなんだー。お前にも一度食べさせたくってさ。でも、せっかく貰ったコレ、なんかお前食べようとしないし」
だから、強行突破させていただきました。
いたずらめいた笑みを浮かべて言われてしまえばもう苦笑するしかない。
「甘過ぎて、俺の口には合わないな」
だが……
「お前から、というならもう一つくらい食べてやっても構わない」
告げれば、デュオがびっくりしたように顔をあげた。
不審なものでも見るようにしばらく沈黙した後、なんとも言えない、というような溜め息を吐く。
「お前、絶対性格変わったぞ」
「誰のせいだか」
寄せた口唇ごしに呟けば、黙れとばかりに口唇を軽く噛まれた。
口の中に溶けたチョコレートの味が広がる。そうして、同時に感じるヒイロの感触。
やっぱりほとんどオレが食べてる気がする……。
まあ、それもいいか、とデュオは身体の力を抜いて、ゆっくりとヒイロへもたれかかっていった。
恋人たちの甘い一日は、こうして過ぎてゆく。
end.
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