The End of the Beginning



第一印象を一言で表すなら、やっぱり『嫌な奴』ってのが一番しっくりくる。
今になって考えれば理解できなくもない彼の行動の数々も、その時はお互いの事情なんて知ったこっちゃなかった。
沈んでたガンダムを回収しようとして忍び込んだ軍港で、なんだか目つきが悪くて胡散臭い男がいかにも一般人のお嬢さんを撃とうとしてたら、そりゃあ女の子を助けるのが最優先ってもんだろ?
別に深く考えて行動したわけじゃないが、あそこで二人の世界を作られて悪者にされるとは思いもしなかった。
かと言ってリリーナお嬢さんがそこで嫌いになったかというと…まあ、凄く変な子だなぁと思った程度でそう悪く思ったという記憶はない。基本的に女の子には甘く出来すぎてる自覚はあるけど。
逆にヒイロの方は凄く嫌な奴だと思った。
直後に魚雷で愛機を沈められたことが深く関わってるのは言うに及ばない。
だから、病院からあいつを連れ出したのは本当に単なる興味だけで…多分、あの白い機体のパイロットなんだろうという予想に対する興味だけで、やったことだった。
手助けはいらないと言いながらちゃっかり船の備品で骨折固定してるし、俺にはできるとか偉そうなこと言いながらデスのパーツはパチるし、いかにも誤解を招くような行動の後にこっちを助けてヤバイ高笑い残して去るし、まあその後の印象は悪化の一途をたどるばかりだ。ついでに言えば性格捻じ曲がってる上にかなり変質者くさいなぁと思ったりもした。
でも、仲間意識なのかなんなのか興味は尽きなくて、追い掛け回して、嫌がるあいつを構い倒して、名前を知ったときは状況にも関わらず凄く嬉しくて。
ヒイロが初めて自分の名前を呼んだときには、なんだか胸の奥があったかくなったりもして。
そして自爆した時は、本気で心臓が冷える心地がして。
所詮自分達は一人なんだと。
同じ目的で降りてきたガンダムがいたことを知っても、結局最後は一人で、仲間なんて甘ったるい存在でもなくて。
………いや、違う。
そんな一般論以前に、彼と自分は本当の本当に全く関係のないすれ違うだけの人間だったのだと、あれはそんなことをはっきりと理解してしまった瞬間だった。
だって、コードネーム以外の何を知っていたと言うんだろう?
知っているのはいつも不機嫌そうな顔。滅多に聞けない低い声。東洋系の血が濃そうだからおそらくL1かL5出身で、どうやらガンダムのパイロットらしいということ。推測まで交えてもそれくらいしかない。
自爆しておそらく死んでしまっただろうことを嘆くだけの関係すらもない。一体何を思い出せるのか。何を偲べるのか。
ああ、そうだ。
自分達は本当に他人で全く関係なくて一瞬だけで離れていくものだったんだと。忘れていたわけではないけれど、頭の隅に敢えて追いやっていたそれを思い出してしまった。
だから、ヒイロを追いまわすのも、しつこく付き纏うのもその時に止めた。もう二度とそんなことするつもりは無かった。
多分、それは中途半端に終わってしまった気持ちだった。
友情かもしれないし、愛情かもしれないし、仲間意識なのかもしれない。もっと別のものだったのかもしれない。
生まれ始めていたのは、とてもとても幼い気持ちだった。
返事があれば嬉しいとか、声が聞けたらラッキーだとか、一緒にいると嬉しいなとか。
育ち始めた気持ちは形をとる前に強制的にピリオドをうたれた。
誰も悪くなかったし、誰にもどうしようもないことだったのだろう。
でもその時からヒイロの近くにいることは、とてもつらくて苦しいことになった。
捕虜になったところを助けられたときも、月面で会ったときも、そして今ピースミリオンで再会しても、デュオはヒイロに近づくことをしなかったし、出来なかった。また喪失を迎えるのが怖かったというのもあると思うが、それだけじゃないことも確かだ。
実のところ、顔を見るのも嫌だったから最後に視線が合ったのがいつかというのも覚えていない。
だから、本当に予想外だった。
そのことにヒイロがこんなにも腹を立てていたなんてことは。本当に予想外だった。
偶々出くわした食堂で、デュオは思わず『しまった』という顔をしてしまった。普段は顔に出さないよう注意していたから、それはかなり致命的なミスだったと言っていいだろう。
その時の感情豊かなヒイロの瞳を、多分デュオは生涯忘れられない。
本当に一瞬だった。けれど、向けられた暗い青い瞳に圧倒された。
眼差しが。刺さるようだった。
深い暗い青の瞳に囚われるのを感じた。
―――息を飲んだデュオの前で、ヒイロがゆっくりと立ち上る。
「…あの時、殺しておけば良かった」
呟いて去ったヒイロの背中。
振り向くことも、出来なかった。
言葉では拒絶されているはずなのに瞳が伝えてきたのはむしろ執着で、渇望で、静かな怒りと深い悲しみで。
「………、な、んだよあいつ…」
喉の奥から搾り出した声は、掠れていた。
理由はわからないまま、デュオは胸が痛んで固く目を瞑った。


本当は、幼い気持ちは、二人のものだった。
不器用な気持ちは本当に少しずつ育っていて、でもデュオの中では形をとる前に終わってしまった。その終わりの瞬間は、けれどヒイロにとっては始まりだったことをデュオは知らない。
二つの時間は、今も止まってしまったままで。

                                          end.




COMMENT;

2/2ですvデュオデーおめでとうございますー!(*><*)
本編に立ち返り、ヒイロの自爆ネタです。
なんとなくなんですが本編見てて思うのは、あれより前のヒイロってあんまりモノを考えてなさそうなのですよ。でもって、デュオはあれを境にヒイロから離れてるような気がするのですよ。
2人(まあ他の3人もでしょうが…)の内面の転機になるには十分な衝撃的な出来事だったんじゃないかなとか思うわけです。
さてここでイチニ甘々妄想を繰り広げてみましょう(-w-)+
二人でお子様な恋ゴコロ(爆)を育ててたと仮定すると、幼い初恋を大事に大事に育ててる途中で片っぽが消えるわけです。
デュオは絶対二度と踏み込ませないバリケード作りますよ!間違いなく!!
でも逆にヒイロは、そのことで今まで気付かなかったこと色々に気付いてしまって、初めてマトモにデュオのこと見始めたりとかするんです。でもその時点でデュオは絶対振り向きません。
気付かないまま一生懸命能動的にヒイロは動き始めるのに、なんか思ってたのと違うわけですよ、デュオの反応が。
今までとのギャップでヒイロどうしていいかわかんないだろうなと思います。
絶対原因なんてわかんないですよあの人(笑)
わからないまますれ違って、一旦はそこで全て終わってしまうんじゃないかなーと。動き出せるとしたら、ヒイロがもうちょっと大人になった時です。
デュオの壁をこじ開けてでも入るか、うまくするりと滑り込むのかはわからないですが、鍵をかけられた扉を開けられるとしたらもっと精神的に大人になってからだろうな、と思うのでした。
その辺りの自分設定を書いてみましたー。お楽しみ頂けてたら幸いですv


back