しんしんと、雪が降る。
「積もるかな」
窓の外を覗きながら、デュオはどうでもよさげに呟いた。
冷たい窓は室内との温度差で結露してしまっている。手の平でぬぐっても、濡れたそれはいつものようにクリアに世界を映し出すことはなかった。
降りそそぐ白い結晶体にはしゃぐ気も起きず、かといって麻痺した交通機関のため移動もままならない。
別にだからと言ってどこにも行けないというわけじゃないのに、訳もなく閉じ込められた気持ちになる。
「さあな」
静かな声が落ちた。
デュオはそれを聞いて、ようやっと思い出したように首を傾けた。
そういえばこの部屋にいたのは自分一人ではなかった。
誰かの返事を求めた呟きではなかったから、言葉の意味を捉えるのに少しの間かかった。
そしてその言葉が自分の呟きに対するものだと気付いても、特別返す言葉もなくてデュオは微かに瞳を伏せたまま黙った。
ああ、苦手だ。
外界の、純白に吸い込まれたように落ちる独特の静寂も、今こうしてここで落ちる沈黙も。
一人で騒ぎたてたところでけして壊せない静かな空間。
むしろ、一人だったならば余程気が楽だったろうと思う。
静かな空間で、静かに見つめてくる瞳は『静謐』なんて言葉とは程遠い。
妙な居心地の悪さを感じて、デュオは視線を逸らして気付かれないよう小さな溜息を吐いた。
聖なる夜のパウダースノゥ。
場合が場合で相手が相手なら、多分一般的に諸手を上げて喜ぶようなシチュエーションなんだろう。今の自分にはどうでもいいことだが。
「…なあ、何しに来たんだ?」
何度目かの問いを投げる。
唐突な訪問を受け入れたのは自分だけれど、その問いに対しての答えはもらっていなかった。
「………」
気付かれないよう、小さく溜息を吐く。
質問は堂々巡りで、でも他に特に話すこともないからこうした少しの会話と沈黙との間を行き来している。
―――何しに、来たんだろうな。
何度問いかけても疑問に答える声はない。
しんしんと、雪が降る。
聖なる夜は更けていく。
閉じ込められた空間で、二人だけの静かな夜が過ぎていく。
end.
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