先日、迷宮の封印を解いた。
出会った瞬間メリクリウスに逃げられた。
出会った瞬間ヴァイエイトに逃げられた。
出会った瞬間トーラスに逃げられた。しかもこれは続けて3回。
………探索とはこういうものではないだろう?
サンクキングダムは天使と人間、そしてあまり姿を見せないが精霊とガンダム族の住まう大らかな気質の国だ。
街は大陸お昼寝スポットベスト3に上げられる程のどかで、うっかり者が非常に多い。
………だから街にゴロゴロ物が落ちている。まあ、冒険者である俺としては高値の落とし物は有難いのだが、少しどうかと思う時もある。
街の回りに広がる森は、「広大」と言うには小ぶりなものだ。
遠くから見ると巨大なマッシュルームを連想させる形状的には愛らしいもので、いつも青々と緑を茂らせている。入口近くは涌き水が沸き、長旅をしてきた者達が喉を潤す広場がある。
だが、一歩奥地へ侵入すればサイズに見合うとは思えない種族がごろごろと転がっている危険な土地であることは言うまでもない。
俺はサンクキングダムの守護天使…神に仕え、街の治安を護るのが任務だ。
王国より賞金首指定された者を刈り、近隣の森の魔物を退治するのが最たる任。だから俺はいつも森へと踏み込む。
森には魔物から逃げ出した旅人が落とした品が落ちている上、キノコや草や木の実がある。単調な街の探索に飽いた者が、それを求め日々道なき道を進む。
確かに、偶に病院送りになろうと、ドラゴンを素手で倒したりナイフ一本でグリフォンをさばくのはなかなか爽快だ。戦闘を有利に運ぶ危険な草が生えているのも有り難い。だが、自分の体力には気をつけたいものだ。
さて、先日黒天使に昇格した際、プラサイチニ神殿におわす巫女姫に呼び出しを受けた。
「ヒイロ、東の旅の扉を通ってラクロアの遺跡と谷を調査してきて欲しいの」
初期クラスの者では危険過ぎて近づけられない場所らしい。
勅命を受けた俺はすぐさま古代の遺跡に旅立った。
………確かに敵は手強い。しかし「ファラオ」とは何者だろうか?さすがは古代、正体不明だ。
気味の悪い悪霊をざくざく剣で薙ぎ払いつつ進めば、森よりも高額な物がごろごろ落ちていた。マニアくさいものもあったから、街の衆が喜ぶだろうと持ち帰る。
谷も似たようなものだった。まあ敵の正体が割れている分遺跡よりマシだろう。
さすが見通しがいいだけあって囲まれることも多いが、こちらも伊達に黒天使の職についているわけではない。
従機兵に遅れをとるようなものに守護天使は務まらない。
こちらも高額の物が落ちている…デュオ辺りが喜んで走りまわりそうな土地だ。走りまわってふいを突かれないよう注意しておかなければならないかもしれない。
「………」
なんと言うか、溜息が出る。
近所の迷宮の封印を解いた時もそうだ、この国には危険地帯が多過ぎる。
旅の扉だって通りたければいつでも素通りと言う安全性皆無な扱いだ。守護天使の気苦労は尽きない。
落し物の多い街。
ドラゴンの群生する小ぶりな森。
謎の生物(?)のいる遺跡。
従機兵のたむろする谷。
おまけに、三歩に一歩は敵が出るくせに勝手に逃げていく近所の迷宮。
一体どういう国なんだろうかここは。
そういえば盗賊もやたら多い。治安も案外悪いのかもしれない。
「いらーっしゃーーい♪」
「………………」
治安の悪さの最たる存在。筆頭賞金首兼酒場のウェイトレスを見て、つい和んでしまった自分を叱りつつ、ヒイロはカウンターのいつもの席に座った。
「はい、ご注文の…えーと『天使の誘惑』ー。お前コレ好きだね」
「うるさい」
グラスを置いたウェイトレスは、そのまま隣の席に腰掛けた。
「で、今日は何体に逃げられたんだ?人外魔境」
「……4体」
にっこり笑ってさくっと発言した殺し屋を苦々しく思いながら、つい答えてしまう。
途端に爆笑された。
「フツーは逃げられないぜ。いやー、あいかわらず無敵なこって」
「………うるさい」
「いやーん怒っちゃダ・メv」
「……………………気色悪いから止めろ」
邪魔だとは思うが、追い払う気力もない。
俺の任務はサンクキングダムの平和を護ること。
敵には逃げられ、目の前の賞金首には悩殺されて仕留め損なう。
それでも任務は地道かつ着実に。
今夜も俺は奴を襲撃するし、明日も探索に精を出すのだろう。
単調な毎日。
でも最近、これはこれで平和かもしれないと少し思う。
end.
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