白い世界で生きてみたい。
ただ ただ真っ白な世界で。
だけどそこはなんて寂しいのだろう。
吐く息が白い。
冬を迎えたばかりの街はまだ皆そんな厚着でもなくて、鮮やかな色彩が目に優しい。
少し感覚が鈍くなっている指先をほぐすように擦り合わせると、デュオはすぐ前を歩く背中に追いつくように足を速めた。
「少しくらいゆっくり歩いたっていいだろ」
「時間の無駄だ」
「無駄って、お前ね……」
あいかわらず情緒欠陥な奴、とぶつぶつ呟きながら跳ねるように軽い足取りで後を追う。
とん、とんと靴が地面を蹴るたびに聞こえる軽い音にヒイロが瞳を細めた。
少し和んだような気配にデュオが気付くと同時にそれは消えてしまったけれど。
それでも、確かにあったという事実くらいは認識出来るに足る間。
変わっていく街の、変わらない背中。
変わっていく強さと、変わらない想い。
―――白い世界で生きてみたい。
そういえばそんな事を考えなくなったのはいつからだっただろうか。
早足ですぐ隣を歩くその横顔を見つめてみる。
全てを拒絶するような硬質な瞳と、変わらない不機嫌そうな顔つき。
随分と育ったらしい身長でほんの少しだけど目線が上になる。
横にいる自分を気にもしないようなフリで、その実かなり意識されていることはなんとなくわかった。
デュオはふいにくすりと笑うと、弾みをつけるようにとん、っと駆け出した。そうして2、3メートル先からくるりと振り返りにっこりと満面の笑みを浮かべる。
「早くおうちに帰ろーぜ、ヒイロ」
「……なんだ、いきなり」
今まで早過ぎると文句をつけていたデュオの豹変ぶりについていけなかったらしいヒイロが途惑ったように眉を顰めた。
それもまあしょうがないかと気に止めないことにしたデュオが、追い付いた彼の腕を引っ張る。
「ここは、寒いから…、さ」
含まれた言葉以上の意味はきっとわかってはもらえないだろうけど。
白。
真っ白。
そう言えば、白は狂気の色だと聞いた。
それだけだと人は狂うのだと。
純粋なる白。白の世界。
あなたがいない、ただそれだけで。
世界は色を失うから。
だから、今のこの色彩ある世界こそが正しいのだと、そんなことを考えた。
end.
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