欲しいと思うことは悪いことじゃない。
一緒にいるだけでも幸せ。
だけどそれだけじゃ足りないということが「欲しい」ということ。
別の言い方をしてしまえば「執着」。
性的なものを孕めば相手を傷つける刃にもなるそれ。肌を合わせて、
より近くなろうとする想い。
それが「欲望」。
そうして自分だけを相手に見ていて欲しくなって、制御がきかなくて
暴走する危険を持ってしまう、強い強い気持ち。
それが「独占欲」。
全部が全部、恋とか愛とか、そんなやさしい言葉の中に存在するもの。
それだけなら悪いことのように言われてしまう、純化された想い。
でも確かにそれは正しくて。
悪いことじゃない。でも強すぎる執着は相手を縛る鎖になってしまうし、
激しい欲望は相手を追いつめる。
膨らみすぎた独占欲が招くのは哀しい結末だけ。
そんなことは過去の人間の創り上げた歴史が教えてくれるのだけれども。
知っては、いるのだけれど。
唐突に吹きだした相手に、ヒイロは眉をしかめた。
不機嫌そうな表情を目にしてようやく現在の状況を思い出す。
「・・・止めるか?」
ふとした瞬間に目があって、引かれるように重ねるだけのくちづけを交わした。
鼓動が早まってきた頃には服をはだけられていた。
後はベッドルームに直行、というのはリアルな表現ではあるが事実である。
シーツが頬に触れて、相手の体重を感じて、身体の中に熱がこもってきたころ。
まあ、いきなり笑いだされたら確かに嫌なものだと思う。
「・・・・・ごめん。ちょっと考え事してた」
素直に謝るのだけれども、その理由と言うのは考えようによっては「お前のは
集中できないんだよ」とも聞こえる。
さらに機嫌が下降したヒイロに、わけがわからずデュオは慌てて付け加えた。
「いや、だからさ・・・おかしいなって」
「何がだ」
とりあえずデュオに悪気がないらしいことだけは伝わって、話を聞くまでは
集中もしなさそうな様子に少し呆れながら続きを促す。
なんとなくそれが伝わったのかデュオはやわらかく微笑んだ。
「いろんな名前の感情があるけど、お前に会わなかったら知らないでいられた
んだな、って・・・・・・」
「・・・・・・会わなければ良かったと?」
その言葉にデュオが一瞬考え込む。
「そうかも。知らないほうが幸せってこともあるよな。・・・でも」
浮かんだ笑みが深まる。
「会っちゃったんだからしょうがないかな」
「責任はとってやるから安心しろ」
「それはまあ、当然だろ」
やりなおすようにもう一度くちづけから始める。
それを自分から深めていって、瞼を閉じずに相手の瞳を見つめる。
―――お前に出会ったこと。
―――それだけがただ一つ、オレの全てを変えていってしまう。
どんなに押し込めても浮かんでしまうこれは、醜い感情。
そんなこと知ってる。
それでも、それが恋に落ちるということ。
それも知っている。
end.
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