自分以外にこの部屋に対して何かしでかす人物には一人しか心当たりがない。
「―――…何をした?」 満面笑顔で出迎えられ、胡散臭気な表情を隠しもせずにヒイロは持っていたカバンでデュオの頭をはたき倒した。
「他人の家に無断侵入したお前が悪い」 ふくれるデュオにだってわかってはいるのだけれど、本当の本当に、全く悪気なんてなくて、純粋に「喜ぶかなー」なんて思ってやったことだったからちょっとショックだ。
「だってさー…せっかく、見付けたから」
―――桜、好きだと思ったんだけどなぁ。 先の戦争で確かに地球には降りたけれど、時期や場所を外してしまったためにデュオは実際の花は見ていない。 コロニーで見たフィルムではとてもきれいだったし、その話をしたときのヒイロは珍しく楽しそうだったから。いつかは見たいなぁなんて思っていた矢先、知人から桜の香りのお香だと言ってこのケースを貰ったのだ。 桜の香り。
見たコトのない花の、少なくともその香りだけは知ることが出来るのだ。 あんなにきれいな花の香り。どうせだったら、一緒に包まれたい。 そう思ったから、ちょっと悪いとは思ったのだけれど留守中先に部屋に入らせてもらい香を焚いて、ヒイロが帰って来るのを待ってたのだ。
「連絡するくらいの知恵はないのか、お前は」
「だいたい、コレは桜の香りなんかじゃないだろ」 むくれているデュオを扱い難いと感じたのか、ヒイロは話の矛先を逸らした。
その内容に、驚いたようにデュオがヒイロを見つめる。
「知らなかったのか?確かに桜をイメージしているのかは知らないが、桜の香りはこんなじゃないぞ」 呆然と黙ってしまったデュオに、さすがにヒイロが不審げな目を向ける。デュオはといえば、それどころではなくショックを受けていた。
「え…じゃ、コレ、桜じゃないの……?」
ヒイロの言葉にデュオは力が抜けるのを感じた。結構本気で信じていた上に感動までしていたのだから当然である。
「えーと、あの、ごめんなヒイロ…」 ヒイロは、そんなデュオの気落ちに気付いたのかぽんぽん、と頭を叩いた。
「もういい。それより、そんなに桜が見たいのか?」 ちょっと残念だけど、と付け加えてデュオは黙ってしまった。 そんなデュオを置いて、ヒイロは自室へと戻ってしまう。それからがたがたという音がして、なんだろうと振り向いたら顔に何かが降ってきた。
「ぅわっ……!!」 自分の分のコートを着込んで、取ってきたデュオのコートを頭から被せながら言ったヒイロに、デュオがきょとん、とした目を向けた。
「……1本だけ、このコロニーにもある。ちょうど花の頃だ、付いて来い」
「―――――…見たいよッ」
「―――行くぞ」
あの香は桜の本当の香りじゃなかったけど、もういいや。 何せ、「あの」ヒイロがこんな親切してくれるきっかけになったんだから。
「流されやすいよな、オレ」 |
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眠い中ソッコーで書いたので雰囲気だけの話になってます。 |