神様のいうとおり



さて、どうしようか?
手持ちのカードを頭の中で並べて考える。
さて、どうしようか?
これは偶然ではないけれど必然でもない。敢えて言うなら作為の末。
目の前には非常に困ったような顔をしたデュオ・マックスウェル。
せわしなく辺りを探る視線は逃げ道を探しているんだろう。本人はこっそりやっているつもりなんだろうが、そこまで慌てていればバレて当然だ。
壁に手をついたままの姿勢で考えてみる。
相手の弱みも切り札も、思い通りにことを進めるためのカードは全てこの手の中に。
さて、どうしようか?
ヒイロはゆっくりと瞳を細めた。


―――どうしよう。
残されているだろう逃げ道を探して必死に頭を回転させてみる。
壁に背中を押し付けたままの体勢で必死で顔を隠すように俯き、デュオは眉を顰めた。
現状混乱の余り頭が上手く働かないことは百も承知。それでも今考えないと非常にマズイことになるのは歴然としているのだ。
この際自分の混乱っぷりが相手にバレようが知ったことじゃない。
混乱して当然、という状況に自分はいるわけだし、今の優先事項はとにかくこの場から逃げることだ。
―――どうしよう。
囲いこまれた体勢は完璧だ。
さすがヒイロ・ユイと普段だったら褒めてやりたいくらいだが今はかなり有り難くない。
逃げるどころかちょっとでも動けばすぐヒイロの腕にあたる。包囲網を実感するような行動をわざわざとるのもバカバカしかった。
でも顔を上げれば視線が絡んでしまう。それだけは避けたい。
静まりかえった格納庫は全く人の気配が感じられなく、危機感に拍車をかける。
でもそれは当たり前だ。わざわざその時間を狙って来たんだから。
シフトの隙間の、格納庫から人気が引く僅かな時間を発見したのは自分だけの筈だった。何故ならわざわざいろんな技師に話を聞いてその隙間を探したのはデュオ自身だったから。
誰にも邪魔されず、じっくりデスサイズに向き合いたくてわざわざ出向いたここで、こんな事態になろうとは予想すらしてなかった。
こんな事になると事前にわかっていれば当然のことながら遠慮させて頂いたのだが。
ちらり、と斜め上を覗き見る。
逸らされることなくじっと、凝視と言って差し支えないだろう強さで見つめてくる瞳とぶつかる。
慌ててそれから逸らし、あらぬ方を見たデュオはやっぱり困ってしまって顔を歪めた。
―――どうしよう。
逃れる道というのが本当に見つからない。
困って、困って、真っ赤になっているだろう顔を自覚しつつ。デュオは思いきって正面から睨みつけるようにヒイロと視線を合わせた。
『逃げてもダメなら、開き直るしかない!』
それがデュオの出した単純かつ明快な結論。
それすらも、ヒイロの予想通りの行動なのだとは気付かないままに。


  人気のないはずの格納庫に滑りこんだときに、いる筈のない人物を見付けた。
目の前にあったのはいる筈のない人物の、ある筈のない状況。
格納庫の隅のコンテナの脇で、凭れるようにうたた寝するヒイロの姿を見た。
あんまりにも珍しすぎて思わず近づいてしまい、起きるかな、とか思いつつもじっと見つめてしまった。
目の前で手の平をかざしても全く揺らぐ気配のない寝息につい出来心。
起きるかな、起きないでくれよ、と思いながら引き寄せられるように顔を近づけていく。
言い訳の出来ないくらい近づいたとき、唐突にヒイロの目が開いた。
それが、全ての原因。


デュオがヒイロに対し、『何が悪い』とばかりにふんぞり返って告白した日から数日後。
行動を共にする二人という傍から見れば奇妙な光景が船内至るところで確認されるようになる。
そしてさらに数日。
シフトのズレがヒイロの小細工によって作り出されたものだと知り、顔を真っ赤にしたデュオがヒイロを追っかけまわしてる光景がまたクルーの間で噂されることとなる。
事実は小説より奇なり。
とりあえず、皆の予想した説はどれも真実に到達することはなかったりした。

                                          end.




COMMENT;

本日ヒイロの日です。
普通の更新しか出来そうになかったので仕掛けの方を一生懸命凝ってみました!!
簡単だったでしょう?(笑)
お話の方はヒイロ記念日ということでヒイロ主導の話にしてみました。
タイトルはなんとなく。


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