「1番目に欲しいものと2番目に欲しいもの。
どちらか選ぶなら勿論1番目だけど、それが手に入ってしまったら今度は2番目のものが1番欲しくなるよな」
ぽつん、と呟いた言葉が静かな部屋に妙に印象的に響いた。
何気なく見つめた手の平を、物を掴むように握り締めてみる。
「手に入れたものがいらなくなるわけじゃないけど、欲しいものの順番は変わっちゃうんだ。その上どうやら1番目と2番目はどちらか片方しか一度に掴んでられないらしい」
ちらりと問うような視線を横に流す。
「さて、お前ならどうする?」
「お前はどうした?」
問いかけに対し問いかけが返る。
不満気に睨みつけたデュオをヒイロは視線だけで制した。
『どうした?』
過去形の問い。
それはかつて実際に為された選択を指している。
選んだのだろう、と暗に責めている。
デュオは、どうやら伝わっていたらしい真意にくすりと微笑んだ。
「1番目を取ったんだけど今になって2番目が欲しくて仕方がない。今から2番目に乗り換えようか悩んでる」
「諦めてろ。どうせ2番目を選んだ後また1番目が欲しくなる」
「自信家だな。それとも、傲慢かのどっちかだ」
「そうでもない」
言葉と同時に引き寄せる力に抗うことなく、そのまま目を閉じた。
閉じた目蓋のその下で、まだ瞳は迷ってる。
何よりも大切で、かけがえなくて、けして捨てるまいと思ったもの。
それだけは手放さないと決めたものを捨ててまで選んだこの場所。
だけど、今でもまだ悩んでいる。
今だからこそ悩んでいる。
――――引き返すなら、今だ。
ただ一つ手に持っていた、誇りだった、自由という名の孤独。
代わりに手に入れたぬくもり。
手に入れたものと代償として失ったものは果たしてどちらがより大きかったのだろうか。
答えはわからないまま、見えないまま瞳は閉じられる。
ふとした時間に洩れる何気ない言葉のやりとり。
含まれた真意。挑戦と探索。
ちょっとした見落としが命取りとなる。
それもまた、1つの恋のかけひき。
end.
|