「…の角を右に曲がって3つ目のドアがメインルームだ」
『了解』
空間に満ちる端末音、そして背後で次々と飛ばされる指示。
それをBGMにしながら、デュオは手元の端末をもの凄いスピードで操作しヒイロへ指示を与えていた。
「ロック解除完了…っと。システムを騙せるのは後3分だ。その間に作業済ませろよ」
『わかっている』
普段は無口なヒイロも、さすがに必要最低限の返事を返してくる。返事があるうちは無事な証拠だ。まあ、単に潜入してデータを盗って来るだけの簡単に過ぎる仕事なのだけれど。
それでも、もう7割方は大丈夫だろう。
デュオは肩から力を抜くように軽く溜め息を吐いた。
『……ッ』
「ヒイロっ?どうかしたか?!」
通信機の向こう、ヒイロの呼吸が乱れた。
慌てたように声をかけ端末で状況を調べ始めたデュオを遮るように、ヒイロの声が重なる。
『問題ない……任務完了。これより帰還する』
いつも通りの落ちついた、でも少し急かすような口調で言い切るとヒイロは撤退にかかった。
ナビゲーターをしている以上デュオもそれ以上追求することは出来なくて、心の隅に僅かな違和感を残したままそのまま退路の指示にかかった。
『見張りはオペレータールームに3人、警備システムには偽の情報を流す。5分で片をつけろ』
「了解っ!!」
返事を返すと同時に走り出す。
プリベンター絡みとはいえ実戦は久しぶりだった。前回はヒイロに取られてしまったが、今回は役割交代を希望してデュオが実動部隊、ヒイロが後方支援だ。
目的の部屋のすぐ近くの角に身を隠し、壁に背を預ける。
不謹慎だとわかっていてもわくわくしてしまい、デュオは軽く口の端を持ち上げた。
「……人生偶には刺激が必要、ってね…」
『デュオ』
「っ?……え…」
諌めるようなヒイロの声が聞こえた瞬間、反射的にぞくりとした背中にデュオは動きを止めた。
「…………ナルホド」
一瞬の沈黙の後、渋い顔をしながらデュオが呟いた。
『どうした』
「いや、そういえばコレって耳に付けるんだよなとか思ってね」
コン、と通信機を叩く。音からこれで通じるはずだ。
「確かに結構感じるかも。溜め息なんて吐いて悪かったな」
笑いながら言ったデュオに、通信機の向こう、ヒイロは無言だった。
end.
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