Love Song



それに気付いたのは多分偶然だったのだけれど、気付いてしまったその後はもう気になって気になって仕方がなくなってしまったのだ。


「何をしてるんだ、お前は」
例えば部屋に訪ねてきたとしても大概において定位置と化したベッドの上でごろごろしているデュオは、今日に限って様子がおかしかった。
「うん…」
いつもよりももの静かな態度。
いつもよりも少ない口数。
どう考えても異常な様子に一応は注意を向けていたのだが、ヒイロが何度目かの様子を伺った際ばっちり視線があってしまったのだ。
そこまでは特筆すべき出来事でもないのだけれど、その後のデュオの行動がこれまたいつもと違った。
少し考えるように瞳の色を深めた後、無言のまま立ち上がりヒイロの首に腕を回してきたのである。
そしてそのまま肩口に伏せて、目を閉じている。
普段のデュオはそういった接触から避けるような傾向があって、だから距離を詰めるのはいつだってヒイロの方だ。
頬を摺り寄せるような体勢でやわらかく預けられる体重とぬくもりを何も気にせず受けとめていられるほどの浅い付き合いはしていない。
けれどだからと言って、特に『誘っている』という風情でもないのだ。
何かあったとか、落ちこんでいるとか、そういった様子も見受けられない。ただ、デュオの中でなんらかの心情の変化があったことだけは確かな事だった。
「…どうした」
しばらくの沈黙の後、宥めるように背に手を置いてヒイロが囁いた。
それにやっぱり無言のまま、少し頭を動かすことで答えたデュオは、小さく息をついてからゆっくりと顔を上げた。
デスクチェアーに腰掛けたままのヒイロと立ったままのデュオでは少しだけ視線の高さが違う。
僅かに見下ろすような、まっすぐ向き合えているわけではないことを残念に思いながら、デュオはヒイロの頬に指を滑らせた。
デュオの内心を図りかねているのだろう、軽く眉を顰めるに止めたヒイロの不機嫌そうな瞳を覗きこみその奥を探る。
深い青に染まる視界、吸いこまれそうな、その感覚。
互いの真意を探るように真顔のまま見合った二人の沈黙は、それまでの空気を払拭するようににっこりと笑ったデュオの笑顔と言葉で消えた。
「なあヒイロ、しよっか」
「………」
無言のまま、より不審そうな顔になったヒイロを無視してその首にぎゅうっとかじり付く。
そうして回した腕に力をこめつつ、確信に満ちた声で囁いた。
「嫌とは言わないよな?」
「言ったらどうする気だ」
「無理矢理にでもやってもらう」
「………………………」
ヒイロが返した言葉はほとんど確認程度のものだったのだが、再び返ってきた返答に対し今度こそヒイロは絶句した。
無理矢理に何をしろと?
果たして実行可能かどうかはともかく一瞬過ってしまった考えにさらに複雑そうな表情になりつつ、ヒイロは視界の端のやけに楽しげなデュオを見やった。
―――負けてやるか、否か。
長い髪に指を滑らせこの後の時間の使い方に思考を巡らせるヒイロは、再び肩に顔を伏せたデュオが瞳を閉じていたのに気付くことはなかった。
何かを確認するように、ゆっくり息を吐いたことにも。


―――気付かなかった。
声に出さないまま呟く。
―――何時の間にか、染みついていたこの匂いに気付かなかった。
特別に強いわけではなくて…それどころか常人より遥かに存在を感じさせないヒイロの、それでも僅かに存在する体臭。
何時の間にかそれに染まってた自分自身に気付かなかった。
最初、一人でいる時にヒイロがいるような気がして「あれ?」と思った。
しばらく考えてふいに気がついた。
ああ、そうか、と。

何時の間にこんなにも存在が近くなっていたんだろう。
何時の間にそんなにも長い時間傍にいたんだろう。
僅かな香りが体に染み付く、それほどに。

実感したらヒイロに会いたくなった。
実感したら、傍に行きたくなった。
実感したら……………なんとなく、その腕が恋しかった。

―――後で、後悔しそうだなぁ……。
絶対顔から火が吹く。
それでも、それは後の事だから、と。
ヒイロから返される返事を待って、デュオは彼の存在にゆっくりと意識を委ねていった。

                                          end.




COMMENT;

2000年最後に書いたものです。
甘いです。甘いのを目指したのです(-w-)
やはり20世紀最後の捕獲小説だから、捕まえに来る方々に暗いものを渡しては…と、気張ってみました。
成果の程はわかりませんが、うさぎ的にはなかなかに甘いのです♪
ちょっとしたことで「デュオがヒイロのいないとこでヒイロの存在感じちゃったりしてたら甘いよなぁ」と思ったので書いてみました。
キワドイかなーとも思ったのですがセーフと言うことでUPします。(捕獲は裏には置かないので)
「20世紀最後に書くのは甘いものか、えろいもの」。それが世紀末のうさぎの目標だったりしました…実は(^w^;


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