その日、デュオはとてもとても疲れていた。
疲れてたからシャワーもそこそこにそのままベッドに倒れ込んでしまった。
だから朝ヒイロが来て起き上がって、初めて髪を編んでいなかったことに気が付いた。
「………あのさあヒイロ……」
「黙ってろ」
「いやでもさ……」
「うるさい」
デュオとしても結構予想外の事態だったのだが、普段なら「鬱陶しい」と言うに違いないヒイロが何故かほどかれた髪を気に入ってしまったらしく、先程からずっと髪を編ませてくれなかった。
デュオとしてはそのままにしておくと邪魔だから編む、或いはせめて束ねてしまいたいところなのだけれど肝心のゴムをヒイロに奪われていた。
まあ、予備はあるのだが…ここでソレを出してきて使ったりしたらヒイロの逆鱗に触れそうなのでそれは避けたい。いくらなんでも下らなさ過ぎる。
「……そんなに気に入った?」
「別にそういうわけじゃない」
恐る恐る尋ねてみても返ってくる答えはコレ。
そのくせ髪を指に絡めたりしてるから、デュオとしては恥ずかしいやら何やらでかなり居心地が悪かった。
昨夜洗ったばかりの髪はさらさらしていて絡めたヒイロの指から逃げるように滑り落ちていく。
普段の編み髪からは快活なイメージを受けるデュオだが、何故かそれをほどいただけで不思議な落ち付きを醸し出すから不思議なものだった。
「あのさぁ…」
「うるさい」
「いやそうじゃなくて…。もしお前がそんなに好きなら、今度ほどいて行ってやろうか?」
どこに?
…現在の境遇からすれば当然プリベンター本部に行く際に。
「………」
「だからさ、今は邪魔だし編んでもいいだろ?お仕事しなきゃなんだし」
にっこり笑って「ダメ?」と強請られ、しぶしぶヒイロはデュオの髪から指を離した。
それから1週間。
今もってデュオの髪がほどかれる気配はない。
毎朝デュオの登場時気にしているらしいヒイロの視線を感じながら、デュオは舌を出した。
「『今度』ってホント便利な言葉」
とりあえず『今度』の予定は今のところない。
end.
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