とん、と肩を押される軽い衝撃に気付いた時にはすでに組み伏せられた後だった。
自分の体重を無理なく受けとめたベッドのスプリングと真っ白なシーツのやわらかな感触の心地よさに、一瞬何が起こったのか理解しかねる。
次いで神技としかいいようのない素早い動きに対してなんでこいつは訓練の成果をこんなカタチで発揮してるんだろう、とか無駄なことを考えた。
「………」
「なんだ」
シャツを咥えたヒイロのくぐもった声が胸元から聞こえる。
無言のままぼんやり中空を見つめたままのデュオを不審に思ったのか、澱みなく動いていた手が何時の間にか動きを止めていた。
「………」
「デュオ」
「………」
「デュオ」
「……え?」
不機嫌そうなヒイロの声に引き戻されるように意識を向ければ、怒ったように睨まれる。
「何、ヒイロ」
「………何でもない」
心当たりがなくてきょとん、と答えれば、心底嫌そうに眉が顰められた。
どう見ても何でもない、という感じではなかったけれど、ヒイロがそれを答えそうもなかったのでまあいいかとまた目を逸らす。
どうしてこんな状況になったのか、実際のところよくわかっていない。
久しぶりに会って、話をして……それで、どうしたんだっけ?
ヒイロの部屋に来て、ヒイロのベッドに押し倒されて。そしてその先へ及ぼうとするその行為を許している。
どうでもいいような気もするけれど、同時に取り返しのつかないことをしているような気もしていた。
「なあ、ヒイロ」
視線を合わせないまま、呟いた問い掛けにヒイロは目を上げることで答えてきた。
「なんでこんな事したいわけ?」
少なくとも自分の望みではない以上、これはヒイロが強行している。
別にそのことに嫌悪を抱くわけでもないけれど、理由もなく流されるのもまずいような、そんな気がした。
「そうだな…」
ヒイロはそこまで言って考えるように一度口を閉ざし、そして口元で笑んだ。
「それは自分で考えろ」
「なんだよソレ。卑怯だろ」
「そうでもない」
額へとやわらかく口付けられ、それでごまかそうとしているのかそれとも何の意味もない行動なのか図りかねていると、頬から顎にかけてのラインを指先が滑ってゆく。
顎のところで一旦止まった指がそこを軽く押し上げ、さらされた首筋を舌がたどる。
「…お前を」
その濡れた感触に意識をとめていると、顔を上げずにヒイロが呟いた。
「お前自身から、奪うために、な」
「……なんだよソレ」
「………」
今度は答えることなく、ヒイロはそのままデュオの口唇を塞いだ。
心を添わされないまま無防備に提供された身体への侵略を優先事項と定める。
…………結果は後からついてくるものだ。
後になって気がつき慌てふためこうともその時には手遅れ。
手に入れたものを離す気はないのだから。
少しの不満は、今だけの我慢と押し殺す。
恋は理性や常識では判断出来ないもの。
その意味を悟るとき、それは同時に己の中にその想いが存在することを実感するとき。
体と、心と。
本当の意味で始めに堕ちたのは、どちらだったのだろうか?
end.
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