ヒイロ・ユイ。
元は暗殺された伝説の指導者の名前。
そして今はL1コロニーのエージェントの名前。
完璧と評される兵士。無敵のガンダムパイロット。
だから、それがなんだと言うのだろう?
オレはあいつがきらいだ。ただ、それだけが存在する現実。
「ごくろーさん。全くお前も相変わらず無茶するな、いっくらガンダニウム合金ったって燃え出せば一発なんだぜ?あ、グリップ握ってた手火傷しまくってるだろ。後でサリィにちゃんと診てもらえよ」
MO−Uの格納庫は全員が生きて帰還したガンダムの受け入れに雑然とした雰囲気が漂っていた。
そんな人込みの中、違わず最初に自分を見つけだし近寄ってきた人間をヒイロは睨みつけた。
笑顔の中に含みのあるなにか別のものが見える。また、いつものように。
「……お前に言われるまでもない」
「ああ、そう?そりゃ悪かったな」
突き放すような言葉にも堪えた様子など欠片もなく、先程より鮮やかな笑みを浮かべてみせる。
なんて、信用ならないその笑顔。
「傷はないようだな」
「オレ?当たり前だろ。ああ、カトルは今トロワに付き添われて医務室な。五飛はどっかに消えた。オレは知らない」
ざっと上から下まで見渡して呟けば、その言葉を掻き消すようにさりげなく話を反らされる。
友好的なようでいて、ヒイロの存在を認めない。その言葉すら嘲るようなその行動。
「…まあ、お前も無事みたいだし?オレはカトルの様子でも見てくるよ。ああ、リリーナお嬢さんがお前のこと探してたみたいだぜ」
ヒイロの中に沸き起こり始めた静かな怒りに気付いたのか、デュオはくるりと身を翻した。
その行動の素早さに口を挟む隙もない。
あっという間に人波に消えた後姿を無言のまま立ち尽くし睨むように見詰めてから、ヒイロは溜め息を吐いた。
「馬鹿が……」
終戦を理由に逃げられると思うなら大間違いだというのに。
ヒイロ・ユイ。
元は暗殺された伝説の指導者の名前。そして今はL1コロニーのエージェントの名前。
完璧と評される兵士。無敵のガンダムパイロット。
だから、それがなんだと言うのだろう?
気付いた時には心を大きく占めていた。
そんなあいつが、ただ憎いだけ。
end.
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