だったら何故繰り返すのか? 有り得もしない可能性をこねくり回し何を求めているんだろう。 果たしてそれは本当に無意味なことなのか? 『もしも』を繰り返す。それはそこに後悔があるから、やり直しを望むから。 手にしたい何かがそこにあるからだ。 『後悔』は無意味じゃない。 ならば『もしも』も無意味じゃない。 過去の過ちを悔やんでいる、やり直しを望んでいる。 今度は間違えないと決めている。 だから何度も繰り返す。 それは、今度こそ手にするそのために。 「驚いたぁ」 暗闇の中、掠れた声が響く。 「お前、本当に神出鬼没だな」 尋問で受けただろう傷が痛まないはずはないのに、その声に不安定な揺れは存在しなかった。 闇に溶け込むような黒衣は外観からは何事もなかったかのように見える。 だが捕虜となった兵士が受ける待遇などわかりきったことだったし、何よりガンダムのパイロットが子供であるという事実は敵である兵士たちのプライドをいたく傷つけただろうことは容易に想像がつく。 微笑みを浮かべるその内で、痛みを押し隠すことに何の意味があるのだろうか。 処刑の際、コロニー市民に虐待の痕を見せるわけにはいかない。 そんな意図で見えない部分にばかり受けただろう攻撃は、ヒイロをしても程度を推し量ることは不可能だった。 軽いはずはない。痛みがその意識を苛まない筈はない。 なのに、変わらない笑み。ヒイロを目にして嬉しそうに変わった、その気配。 無言のままに銃を上げる。 ここに来た目的は捕虜となったデュオ・マックスウェルを始末することにあった。 それは感情とは別の位置で、任務の都合上必要な措置だったので。 それでも実際にこうして銃口を向けたのはほぼ無意識の行動に近かった。 だが、果たしてそこに引きがねを引く意志があっただろうか? ―――いいや。 違う、多分試したかった。 ―――何を? 答えは出ないまま。 全てを受け入れるように瞳を閉じたデュオを前に、結局そのまま彼を連れて逃走することを選んだ。 成功率の低い賭けだ。本来なら選ぶべき選択肢ではない。 だが、このままにしてはいけないと、自分の中の何かが警告を発していたから。 自分の中に生まれた「何か」を、放置するわけにはいかないのだと。そのために必要なパーツとしてデュオを死なせるわけにはいかないのだと。 そう警告を発していたから。 それはこの先任務を遂行するために、そして自分自身にとって必要な選択だった。 「助けてくれんの?」 「さあな」 「……ヘンな奴」 支えた肩にぬくもりを感じながら、それはお前だ、と心の中で呟いた。 あの時一度は取ったはずの手を離してしまったその後で。 あの手を離さなかったら、逃げることを選ばなかったら、そうしたら。 自分は違う未来を選べたのだろうか。 気付けばあれから長い時が過ぎ、また同じ冬がくる。 踏み出しかけた足は常に止まり言葉は形にならずに消えてゆく。 「何か」を形にすることを望んだのはあの時の自分。 そして同時にそれを恐れ直前で逃亡を選んだのも自分。 不確かなまま変革を迫った「何か」。 それの正体を、ようやく理解出来るようになったけれど。 また一人の冬がくる。 後悔の元に為される仮定の山。 それが無意味になる前に起こすべきは行動。 ラスト・チャンスは、いつだって『今』だ。 ただ今は、それが手遅れでないことだけを祈る。 ただ、それだけを、切に。 end. |
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半年ばかりなのに奇妙に懐かしく感じてしまう、捕獲企画の残念賞です。 |