「なーヒイロー、ちっとは休まない?」
「………」
カタカタ、カタカタと部屋には絶え間無くキィを叩く音が響く。
規則的なそれにデュオの声が被ると、部屋の静けさと相俟って妙に雑音めいた響きをもつ。それに気付いてデュオはまた口を閉じた。
カタカタ、カタカタ……音は乱れない。
デュオが話しかける前と変わることなく。
「そろそろ10時間は経過すんですけど…」
「………」
今度は声を潜めつつ、自分は不満だという気持ちをめいっぱいのせて呟く。
別にヒイロが何時間作業しようと構わないが、延々延々作業してる姿を見かけるのははっきり言って心臓に悪い。なら見るなと言われても見える位置にいるし。
だがヒイロは答えない。
「………ヒイローヒイロさーーん?」
「………」
「ちえっもういいや、オレ遊び行く」
「ディスクを寄越せ」
あまりにも反応のないのに諦めて立ち上がろうとした瞬間、タイミングを計ったかのように返事が返った。
一言紡いだ後はそれすらも嘘だったかのようにまた無言になり、キィを叩く音も戻った。
「………」
「………」
「……。ディスク?」
首を巡らして、デュオはああ、あれかと傍のデスクに置いてあった一枚のディスクを手に取った。
ヒイロの作業しているすぐ横に置いてやって、また先程座っていた椅子に座り込む。
なんだか、出ていくタイミングを逃がしてしまった。
…いや、タイミングは間違いなく計られていたんだろう。デュオがこの部屋を出る前に口に出すことくらいヒイロは予想済みだろうから。
「ヒーイロさーん」
「………」
音が止むことも『雑音』で乱れることもない。でも。
―――ここで待ってろって?
案の上渡したディスクが使われる気配はない。単なる口実だったんだろう。
そして次の口実もその次位も用意されてるかも。
「………わがまま」
「そうだな」
溜息吐きたい気持ちになって思ったままを呟いた。
その時だけ、ヒイロはまともに返事した。
end.
|