本当にふとした思い付きで、机の中に仕舞いっぱなしにしていたメモを取り出した。
手の中で小さな紙がカサリと音をたてる。
「………」
らしくない。
本当に、らしくない。
たかだか1ヶ月。
今まで、もっと長い期間会わなかったことなんてざらにあった。
最初の1年を思えば会ってた時間のが少なかったくらいなわけだし、しょっちゅう顔を合わせている今が異常だと言えなくもない。
だと言うのに。
「何時の間に…」
………なんとも、悔しい。
自分が変わったことなのか、変えられたことなのか、それに気付いてしまったことなのか。
ただ聞きたい。
声が、聞きたい。
それに気付いたことが、こっちが先に気付かされたことが悔しい。
渋い顔になってしまうのを止めようもなく、…まあ実際不機嫌だったわけだから止める必要もないわけだが、デュオはジャケットから携帯を取り出した。
少しはこういったものも持ったらどうだ、と貰ったそれを使う日が来るとは思わなかった。
律儀に持ち歩いている向こうも、きっとそれが鳴ることがあるとは思ってもいないだろうけど。
メモを見ながらボタンを押していく。
ナンバーは既に頭に入っていたのに、なんとなく捨てられずにいた小さな手書きのメモ。
1つボタンを押すごとに、ピッと軽い電子音。
そうして1つ相手に近くなる。
最後のボタンが押されれば一瞬の沈黙。そうして、着信を報せる電子音。
目を閉じて耳を澄ますように聞きつづけた音はプツ、と音をたてて唐突に途切れた。
「Hello,HEERO?」
繋がった後で今更ながらに、さて何を話そうかと考えた。
end.
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