「貴様、何をしたっ?!」
「は、何が?」
ミーティングルームへと続く廊下でいきなり五飛に呼び止められたデュオは、笑いながらくるりと振り返った。
にやりという形容の相応しいその笑みは、相手が何を言いたいのか既に正確に理解していることを表している。
それを認め、五飛が重〜い溜息を吐いた。
「……ヒイロが今日は一日中上の空で使い物にならん」
「それをオレに言うってコトは、何かうーちゃんには思うところがあるわけだよな?」
「…………つまり、やっぱりお前が原因なんだな?」
「さあねー」
にやにやと笑ったデュオがくるりと方向転換をする。
当初の目的通り足はミーティングルームへと向けて動き出していた。
デュオの背中にはそれ以上の詮索を拒む気配があって、仕方なく五飛は見送るように壁に背をついた。
追求が緩いのは、もとからデュオが話すという期待が薄かったせいだろう。
だがそのまま立ち去るかに見えたデュオがその場でぴたりと立ち止まった。
勢いよく振り返り、にっこりと笑う。
「あいつに『バカ』って言っといてくれる?」
「……それで、口を聞いてもらえないわけか?」
「………」
「まあ、一応ご愁傷様と言っておこうか」
「…そろそろいい頃合いかと思ったんだが」
「………悪いがコメントは控えさせて貰う」
「…………………」
淡々と会話を続けるヒイロとトロワの横には、『婚姻届』と書かれた一枚の紙がぽつんと置かれていたのだった。
end.
|