「んっ……」
肌に触れる湿った感触に思わず小さな声が洩れる。自分の耳に響いた声が甘さを含んでいることに気付いて、悔しさにデュオは口唇を噛んだ。
空気の揺れでヒイロが微かに笑ったことがわかる。瞳を歪めてしまいながら、そろそろ抑え切れなくなってきた声を遮るために口元を手で覆った。
始めは、何が起こったのかよくわかっていなかった。
ふいうちのキス。
え?と思う間もなく肩が押され、倒された先は狙ったかのように(…いや、実際狙ったんだろうけど)ベッドだった。
まさか、これはもしかして…と思った時には乗り上がられていたし、手首をとられて噛み付かれた。
ゆっくりと視線を合わせたソレは多分見せつけだったんだろうと、どこか現実味を帯びない感覚でそれだけはわかった。
「……抑えるな。勿体無いだろう?」
「……ッ」
言葉と共にヒイロが耳に息を吹き込む。
デュオの反応を楽しんで為されただろうことを意識するよりも早く、身体の方が勝手に震える。洩れそうになった声は手の平に吸い込まれて消えた。
本当に、何故。
一体どうして。
問いかけが頭に浮かびかけるが、それらは言葉になる前にヒイロの手の熱に消されていく。流されていることを自覚しながら、デュオはそれに抗うように首を振った。先程ヒイロによってゴムを取られた髪が動きに従って少しずつほぐれてゆく。
本当に、何故。
一体どうして。
愚問なのかもしれない。こういった展開は予想出来ないものではなかった。
初めにヒイロとキスしたのはいつだったろう。確か、C−102を脱出した後のシャトルの中。補給しろと言われて水を受け取った際に目が合って、どちらともなく目を閉じた。
あれから時間だけならもう大分経つし、あれっきりというわけでもなかったからそれはそうおかしいことではないのかもしれない。
物事は、いつだって進んでいくのだから。
でも、何故、と思うのは、自分がそれを全く予想していなかったからなのだけど。
「…あっ…!…」
「……邪魔だ」
手首を掴まれ、声を押さえていた手が外される。同時に滑った冷たい指がデュオのものを掴み上げた。
防ぎようもなく洩れた声を満足気に聞いたヒイロが、そのまま手の中のものを緩やかに刺激する。
あまりにも当然のように行為を進めるヒイロに、歯を食いしばったデュオがヒイロと視線を合わせ睨み上げた。
本当に、何故。
一体どうして。
そんなことを考えるのはヒイロの真意が見えないからだ。
キスをした。だからそれが何だ?それは本当に何かの証明や保障になりえるんだろうか。
いいや、ならない。そんなものは何の価値もない。
問いたくて問えないまま、抵抗しようにも出来ないまま、進行していってしまう事態を止めたくて流されそうな意識を繋ぎとめるようにヒイロのタンクトップへしがみ付く。
自然と浮いてしまう背を腕を回して支えたヒイロが、片手でデュオを刺激しながら首筋に顔を埋めた。
解けてしまった髪がシーツで揺れてかすかな音をたてる。
結局言葉は見つからず、デュオは諦めたようにそっと目を閉じた。
問えないまま、言えないままでも夜はふけていく。
納得しない心を抱えたまま、それでも夜はふけていく。
end.
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