newsbreak



「その頃のオレってばさ、お前そっくりだったわけだ」
懐かしい昔を瞳の奥に甦らせるように、目蓋を閉じたデュオは囁いた。

L2コロニー郡のV08744コロニーに、ドーリアン外務次官が外交訪問するのは明日のことになる。
会談中の警護を任されたヒイロとデュオは、付近の探索を兼ねて前日に現地入りしていた。そこがデュオが昔住んでいた街なのだとは、ついさっき本人の口から聞いたばかりだ。
コロニーの町並みは破壊されでもしない限りそうそう変わる事はない。
ゆっくりと見物するように歩くデュオの瞳の奥に、感慨ともつかない何かが存在する。
「オレは孤児で、気がついたら盗みが当たり前の生活だった。赤ん坊の頃捨てられたんだろうから最初は誰かが気まぐれで育ててくれたんだろうけど、その記憶もない」
まあ育てた奴も何らかのメリットがあってやってたに違いないんだろうけど。
笑うデュオの表情は、どこか遠い。
「殺しも気がついたらやってたな。でないと殺されるって状況もあったわけだし…治安悪かったからなぁ。でもまあ、善良なコロニー市民を殺しちゃったらもうそこにはいられないから河岸を変えた。面倒ごとはご免だったし?」
酸素も水も、食料も。コロニーにおいては生きるために必要な全てが管理されていた。孤児や浮浪者に与える余剰分はなかった。それは、特に移民者の多いL2コロニーにおいては顕著だった。
市民権をもたない存在に、差し出される手はなかった。奪われることはあっても。
「それでも追われることも多かった。生きるのに精一杯で、なんで生きてるのかなんて考えることもなく、ただ生きるんだってそれだけを心に決めてた。復讐?そんなの考えたことない…ただ、全部憎かったことは確かだけど。でもそれだってどうでもよかった」
そうしてデュオはヒイロを振り返ると、ふっと笑った。
「お前は目的持ってたんだし同じにしちゃ悪いけどさ、外面だけならあの頃のオレと昔のお前ってばそっくり。無口で無愛想で、人の親切ばしばし撥ね退けて、自分だけで世界を支えてる気になってんの。頼れるのは自分だけ、ってね」
でも、そんな時にあいつに会ったんだよ、このコロニーで。
囁くデュオの顔は、幸せそうだった。
笑みを深くして、嬉しげに囁く。
「ソロって言ったんだ。ガキ共の大将でさ、始めはなんだこの馬鹿って思った。何が楽しいのかいつもにこにこにこにこしててさ、苦労してるはずなのに妙に明るくってそのくせ意味深なこと言うからすっげー不気味で。たまたま縁があって出会うハメになったんだけど、名前がないって言ったら『じゃあ俺がつけてやる』って……初対面でだぜ?」
くすくす笑うデュオの顔は無邪気そうでいて、どこか声をかけづらかった。
無言のまま先を促すヒイロに、微笑んだデュオは続きを言葉にしていく。
「そいつもウィルスにやられてあっさり死んじまったんだけどさ。ほんとに短い間だったんだけど、その時があるから今のオレがいるんだよな。あいつってばオレの人生観180度変えてくれちゃったから。もしかしたらあいつがいなかったらオレガンダムに乗ってなかったかもしれない」
そうあっさりと言って、『デュオ』を名乗る少年が笑う。
その言葉が相手に与える影響力をきっちり認識した上で笑うのだ。
「………」
「何か言いたそうだよな?ヒイロ」
からかう眼差しで問われても何も言う気にはなれない。ヒイロは無言のまま歩き続けた。
「人がせっかく誰にも言った事のない大事な思い出話してやったんだからコメントの一つくらい寄越せよー」
勝手に話し出したんだろうが、とは思うがその言葉にふと思い当たる。
「……それがお前の初恋か?」
「は?」
聞こえた言葉が一瞬わからず、口からマヌケな音が漏れる。
次いで、デュオはまじまじとヒイロを見つめてしまった。
「……聞いててわかったとは思うんだけど、ソロって男の子なんだけどさ…」
「俺も男だ」
言外に理由にならない、と切り捨てつつ睨みつける。
「…まあ、そう言われると身もフタもないんだけどさ。うーん……初恋、だったのかなぁ?なんか違う気もするんだけど大事なのは違いないし…うーん?」
悩み始めたデュオを視界から無理矢理追い出し、不機嫌なヒイロは街を睨みつけた。
十年前、この街を走り抜けた子供がいた。
その時傍らにいた少年。見たこともないその子供に、やたらと不快感を覚えるのは何故なのだろうか。
単純な嫉妬とも違う。
話を聞いている途中から感じた奇妙な嫌悪感は何なのだろうか…。
「あ、そういえばさ」
ふいにデュオが思いついたように顔を上げた。
「ソロってさ、なんかヒイロに似てた気がする」
顔とか人種とか性格とか全然違うんだけどなー、何でだろ?
のほほんと呟き出されたセリフが不機嫌へのトドメ。
「……ホテルに帰るぞ」
いきなり方向転換したヒイロに、デュオが驚いたように文句を言い始める。
それを無視しながら、ヒイロは言いようのない腹立ちと共に『ソロ』の名を胸に刻んだのだった。


「もっと、お前と一緒にいたかったぜ……」
囁く声はしっかりとしていたのに、彼の命の炎が燃え尽きようとしているのは傍目にも明らかだった。
何も出来ることはなく、傍で看取ってやることが少しでも彼の救いになればいいと、ただそう思った。
初めて価値を覚えた。
生きること、死ぬこと、奪うこと、与えること、世界に満ちるたくさんのこと。
そうして誰かの存在そのものをはっきりとした認識で捉えたのは、初めてのことだった。
見ていたのに見えていなかったものがたくさんあったことを知る。
世界が初めて意味をもつ。
開いた瞳にうつるのは、今までと同じで、けれどまったく違うもの。
変えたのは、死へ至るたった一人の少年。



10年後の同じ街並みを生き残った子供が歩く。

                                          end.




COMMENT;

本日のお花は「水芭蕉」。
花言葉は「美しい思い出」。

美しいかはともかくとして思い出話にしました。
最初に考えたのが昔の恋人を思い出すの話で却下し、次に死にネタを2人分考え却下し、結局悩んだ末これにしてしまいました。
ここでさらっと書いているようですが、実はうさ吟醸では凄まじく大事なネタなんですー(>_<;
ソロはうちのデュオのかなり重要人物です。
かなりうさぎ解釈混じってるので普通のソロとは違うのではないかと思うのですが、ヒイロ最大のライバルは実はソロです!!
現在の強敵はリリ様とカトルさんでしょうが、ソロがもし生きていたら、ガンダムに2人が乗ることなく別の出会いをしていたら負けるかもしれないという位強敵なのです!!(力説)
何気なく今回暗気な感じで書いてますが、そんなディープな感じでなく
デ:「オレソロ大好きv」
ヒ:「……!!(ぐがーん)」
という感じで読むとベターかと……(-w-;

タイトル訳は『報道価値のある事件』。
単語ってこれだ!!と思うものが存在するのが凄いです。


back