「TRICK OR TREAT!」
コンコン、とドアをノックする音に続く子供の声。
本日すでにお馴染みになったものだ。
昔何かのお祭りだったというこの風習は、内容的にはあまり関係ないはずの
コロニーでもこうして生き残っている。
ただ単に、公然とお菓子をねだれるということなのかもしれないけれど。
「はい、いたずらはしないでくれよ」
「ありがとう♪」
すでに準備していた、小さな袋に詰めたクッキーを手渡してやる。
子供は嬉しそうに手を振って駆け出していった。日も暮れてきたし、きっと
そろそろ家に帰るのだろう。
「さて、と…」
もうこれで打ち止めだろうと上機嫌に踵を返したデュオは、その瞬間背後に
殺気を感じて素早く上体を倒し、振り返りざまに肘を叩き込んだ。
「…腕は鈍っていないようだな」
それを軽くかわした人物が、平然と言った。
戦争が終わった後、デュオはしばらくプリベンターを手伝っていた。正式な
要員には登録しなかったものの、結構ハードに仕事をこなしたものである。
やがて組織的にまとまってきた頃、彼はある日突然ふつりと姿を消した。
別に深い訳があってのことでもなく、ただ自分が必要な時期を過ぎたかな、
と判断してのこと。仕事的にも区切りをつけての失踪(?)だった為それほど
混乱もなく収まった事件であった。
まあ彼が元から『区切りがついたらやめる』と公言してはばからなかったから
と言うのもあるだろうけど。
わざわざ行方をくらますような真似もしなかったため、探そうと思えばすぐ
見つかるような状況だった。
だから、ここに訪ねて来る者がいても別に不思議はない。
ちょっとカゲキな挨拶だった気もしなくもないが、まあ元からヘンな奴だったから
それも特に気にならない。
気にならないが………さしものデュオもちょっとばかし頭が真っ白になった。
コロニー特有の夕暮れの映像をバックにえらそうに立つ人物は、見事なカボチャを
頭にかぶり、いつものタンクトップにジーンズという出で立ちの上に真っ黒のマントを
着ていたのであった。
「ひーろ…お前、それ、何?」
久しぶりの再会というにはなんだか妙に力の抜ける光景であった。
それは、今となっては振り向かなければ良かったの世界である。
「ジャック・オ・ランタンだろう?」
そんな事も知らないのかと言いたげだ。
「知ってるけど…なんでそんなカッコを………」
「ハロウィンだからな」
これまたえらそうである。
「いや、そーじゃなくて…」
「こういうのはお前が好きそうだったから、トロワに借りてきた」
気に入らなかったか?
真面目に聞いてくるあたりやっぱりちょっと変わった奴だと再認識する。
やっぱりこの格好でポートからココまで歩いてきたんだろうか…いやまさか・・・。
「それより入れる気があるのか、ないのか?」
近所の人たちの視線を感じる。
デュオはちょっと泣きたくなりながらドアを開けるのだった。
end.
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