「ヒイロ、何すっ………ん…ぅ」
力任せに押さえ込まれ、唇が重ねられた。
壁際に追い込まれた姿勢のまま、
それはデュオの抵抗がなくなるまで続けられる。
ヒイロを引き剥がそうと肩口にかけられていたデュオの手がやがてすがる
力も無くしたのか、落ちた。
押さえつけられた体制のまま、シャツをはだけられる。
完全には脱げきらず、肘にひっかかった状態で止まったそれを邪魔そうに
見下ろしながらヒイロは目の前にさらされた白い肌に舌を滑らせた。
「・・・調子にのるんじゃねぇ!!」
その瞬間今までおとなしかったデュオが正気づき、暴れ出した。
さしものヒイロもこう至近距離で暴れられてはコトを進めにくい。
とりあえず腕を封じようと両手首を捻り上げようとしたところ、それに
気付いたデュオが膝を使って腹に一撃を加えた。
ヒイロを見るデュオの瞳はすでに、いままでけして見せることのなかった
敵を見る…死神と呼ばれるものだった。
「何考えてやがる・・・。」
互いに動きを止め、至近距離で睨み合う。
感情を覗かせることのない無機質な青と敵意の中に困惑をにじませた青がぶつかる。
先に動いたのは、ヒイロだった。
「…へ?おい、ちょっ……」
突然の事態に焦りまくる声を聞きながら、軽々と肩の上に抱え上げた荷物
を見上げる。
「うるさい。だまってろ」
「だまってろって…おいっ!」
先ほどまでの緊張感が嘘のように思えるほど、予想外の展開である。
担ぎ上げられ、連れ込まれたのはヒイロの部屋だった。
ヲイ、ちょっと待てえぇええ!!とのデュオの内心の叫びとは裏腹にベッド
に落とされ、今度はカンペキに伸しかかられてしまう。
何がなんだかわからないとはまさにこの事。
先ほどはだけられたままのシャツを掻き分けられ、首筋に口付けられなが
らデュオは錯乱状態に陥っていた。
本日、デュオはただ廊下を歩いていただけだった。
そこをヒイロに出くわし…た瞬間壁に押さえ込まれ、唇を奪われ。今はこ
うしてヒイロの部屋で、ベッドで、身体をまさぐられている。
なんだかデュオは泣きたくなってきた。
「何を情けない顔をしているんだ」
さも当然と言うかのように涼しい顔をしてデュオを組み伏せているヒイロ。
はっきり言って憎たらしい事この上ないが、抵抗しようにも先程のフェイ
ントで気力をそがれたらしく、情けなくも力が出ない。
「てめえが悪いんだろうが!」
しかし文句だけは言っておかねば…。とばかりに思いっきり嫌そうな声を
出してやった。
「何故だ?」
ヒイロが困惑気に呟く。どうやら本当にデュオが何故抵抗するのかわかっ
ていないらしい。
「お前があそこじゃ嫌だと言うからわざわざベッドまで移動してやったん
だぞ」
「ちょっと待て、いつオレが“あそこが嫌だから”なんて言った?そもそ
もなんでオレがお前にヤられなきゃなんねーんだよ!!」
…恐ろしく話に食い違いがあるようだ。
「お前は俺が好きなんだろう?」
「……へ?」
いきなりヒイロが断言した内容に、デュオの目が丸くなる。ついでに顔も
真っ赤になってしまった。
「な、何言って・・・」
「お前は俺が好きだ。そして俺もお前が好きだと気付いた。好き合うもの
同士がすることはひとつだとドクターJが言っていた」
この力説ははたして告白なのかなんなのか…。
とにかく「自分は間違って
ない」とばかりに自信有り気に詰め寄るヒイロ・ユイ(15)
「…えっとよーするに、お前はオレが好きで。オレもお前が好きだから
こーゆーコトしたい、と言うかするのが当然、ってそういうことか?」
無言でうなづくヒイロ。
「へー、そーか。ふーん………ははは…」
「納得したならいいな?」
「ひゃ?!」
と、確認というより宣言してヒイロはデュオをもう一度押し倒した。
「ちょっと待て!!」
ヒイロの鳩尾に蹴りが入る。 もう何の問題もないとばかりに油断していた
のか、めずらしくもヒイロはその一撃をモロにくらってしまった。
「・・・・・・何をする」
「それはこっちのセリフ。あのなー、お前俺を好きだって言うけどさ。俺は
別にお前を好きなわけじゃない。だからこーいうことされる謂れはないね!」
デュオの言葉にヒイロは目を丸くした。彼としては余程意外だったのだろう。
「嘘だな」
「ホントだってば。あーあ、信用ないねオレ。」
「だが・・・」
「だがじゃなくて。違うと言ったら違うの!!」
ヒイロはまだ疑いぶかげにデュオの目を見つめる。それに負けてしまいそうに
なりながら、言葉を続けた。
「ほら、離せよヒイロ。」
しぶしぶといった態でヒイロが動いた。まだ何か言いたそうな瞳を無視して、
服を整えながら彼の横をすり抜ける。
ドアを開けながらふと振り返って。
「あのさ、もしさっきのセリフが本気だっていうなら。オレをくどいてみたら?」
気が向いたら落ちてやるよ。にっこり笑って出ていくデュオをヒイロは呆然と
見つめた。
「本当にあいつは・・・何考えてるんだ」
髪をかきあげ、微かに微笑む。
「煽ったからには、責任とってもらえるんだろうな・・・」
「いままであんな冷たかったんだから、これくらいカワイイ仕返しだよな♪」
ヒイロの部屋からわずか数メートル。そこにそんな呟きが落ちた。
end.
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