Trowa Barton -side.H-



「悪いが、そこの本を少し借りたいのだが…」
「ああ、すまない」
これが、ヒイロとトロワの交わした最初の会話である。



その日ヒイロは一日中書庫に篭もっていた。

その頃のヒイロは少々読書に凝っており、人気のない書庫で何冊かの本を 自分の横に積み上げ、それを読み終えると自室へと戻るという生活をしていた。

どうやらヒイロが積み上げていた中の1冊が必要だったらしい少年は、言葉少なに 礼を述べるとそれを持って姿を消した。

夕刻、ヒイロがそろそろ部屋へ戻ろうかと棚へと本を戻していると、その少年が 先程の本を手に戻ってきた。

「もう戻るのか?」
それは悪かった、と遅くなったことに対し詫びた少年にヒイロは好感を持った。

「いや、構わない。本は明日でも読めるからな」
「そうか」

その一言で、二人の間に沈黙が落ちた。

けれどそれはけして不快な類のものではなく、おそらくこの目の前にいる人物は 自分と波長が近いのだろうな、と二人は互いに考えていた。

「風に興味があるのか?」

問われた意味がわからず、訝しげな顔をすれば先程渡した本を示される。

『風の図鑑』と記されたそれは、風属性について詳細に述べられていることで有名な 本だった。

「いや、俺の属性がそれだからな。自分で知っておくべきかと思っただけだ」
「そうか。俺は土だ」
「…風の書を読むことに意味があるのか?」
「いや。単なる趣味だ」

火と水、風と土はそれぞれ相殺し合う働きをもつと言われている。

だが別に人間関係においての相性とは関係ない上、それ以外の必要事項は塔の カリキュラムに含まれているので、わざわざ古い書物を引っ張り出して詳しく調べる 必要は全くない。

自分の属性だって調べる奴は稀だというのに、対照属性を調べるというのは ほぼ行われないに等しい行為だ。

どうやら、目の前にいるこの人物はその極少な一人らしい。

「面白い奴だな」
苦笑まじりに言えば、目の前の相手は驚いたような顔をした。

表情はそれほど変わってはいないが、そういうのはなんとなくわかるものだ。
なんだ、と問う視線を投げかければ、ふ…と柔かい微笑みが浮かぶ。

「いや、話に聞いていたのとだいぶ違う奴だと思ってな。ヒイロ・ユイと言えば、 表情筋が硬直しているだの他人に対して無関心だのという噂が大量にある。どんな 奴かとは思っていたが…そうか、お前か」

やはり噂はアテにならないな。という少年に、ヒイロは一体どんな噂が流れて いるんだと少々憂鬱になった。

「……何故俺の名を知っている?」
「お前は有名人だからな。……俺は、トロワ・バートンという」
「そうか…ヒイロ・ユイだ」

少々変わり者に属する二人は、この日を境に意外と普通の友情を育むこととなる。


そうして自然ヒイロと行動を共にすることが増えたトロワと、もともとヒイロと よく一緒にいたデュオが出会うのも、これまた必然である。

特別なエピソードなんてものはなかったが、二人の関係はかなりのとこ良好。
ヒイロを間に挟み、ヒイロの知らぬ間に、いろいろ事態は進んでいたのである。

―――ヒイロが少々のストレスを抱え込む程度には。



時は過ぎ、それぞれに進路を定めた頃。


「トロワ、お前は死神に進むと言っていなかったか?」
「ああ、デュオが死神だと言っていたからな。変更した」
「………」
「そう睨むな。考えることは同じ、と言うことだ」


所詮は、好みまで似た者同士だったということだろう。

                                          end.



トロワとヒイロの出会い。
デュオとトロワを書いてたハズなのにデュオはロクに出てこない…。
私がヒイロとトロワは親友♪なんていつもほざいてるせいですね(爆)
しょうがないのでトロワとデュオ出会い編も出ます(・w・;
他の2人はまだ書いてないんで2本になるかはわかりませんが、これは2つで1つのお話ということで(苦笑)
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