このコロニーの夜の街角じゃよくある光景だ。
ほんの出来心でそれをやってみたところで、まずバレない筈だった。
「なーお兄さん、遊ばない?」
「………」
「げ」
その時はまさか、それが奴だとは思いもよらず。
振り向いたその「お兄さん」の見覚えのあり過ぎる顔に、デュオは一瞬で頭から血が下がっていくのを感じた。
「えーと…」
「………」
「…その…はろーv」
「馬鹿かお前は」
不機嫌そうに目を細めこちらを見たヒイロが、デュオの手首を掴んだ。
引き摺るような勢い歩き出した彼に痛いと文句も言えず、デュオは首を竦めて素直にそれに従った。
真っ直ぐ向かうのは、デュオの部屋のある方向だ。
(や、そういえば住所送ったんだっけ先週)
疑問と同じに答えが浮かんだ。でもまさか、来るとは思ってなかったけど。
後ろ姿がなんとなく好みで、硬質な感じの頬のラインがこれまた好みで、少し固めの黒髪が決定打だったわけだが、まさか本人を釣り上げるとは思ってもみなかった。
まあ、代わりより本人のがいいに決まってるんだけど。
…少しは、怒ってたりとかするのかな?
掴まれた腕の強さにくすくす笑ってしまってから、振り向いたヒイロにデュオはにーっこり笑って囁いた。
もちろん嫌がられることを知った上で。
「お兄さん、サービスしてやろっか?」
案の上目に見えて眉が寄せられた。
安いもんだ。これくらいの意趣返し。オレが失くした、奪われたものに比べたら。
end.
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