コンコンコン。
ドアをノックする音がする。
「はーい」
デュオは、食べかけのおやつをそのままに慌てて立ちあがった。夜も遅くのメール配達、急ぎの用事に違いない。
予想する相手は多分ご主人と仲のよいカトルだろう。他からは配達はしても滅多に向こうからは来ないし。
だから、このドアの向こうにはペンギンがいるはずだ。
そのはずだったのだ。
「………」
パタン。
開けられたドアをまた閉める。
―――なんでヒイロがっ?!!
パニックにデュオの頭が真っ白になる。
間違いなく黒猫だったし、他にネコの知り合いはいないし、何より見間違えようもないし。
―――なんでぇええええっ?!!
会いたくないのに。
最近ヘンなことをされるから、離してくれないから会いたくないのに。
このまま帰ってくれないだろうか…メールだけ置いて。
そんなデュオの願いも虚しく、目の前で押さえていたドアがこじあけられる。
(ちなみに鍵なんて大層なものペットルームにはついてない)
「ずいぶんな歓迎だな」
ふん、と。
明らかに怒っています、という見下ろすような視線にデュオは肉食獣に追い詰められた獲物よろしく縮こまった。
ヒイロがこの部屋に来るのはもちろん初めてではない。
仕事柄、ご主人同士が連絡を取れば必然的に片一方からのメールで済むわけがないからだ。
ただそれ以外の時にもちょこちょこメールをするからデュオがヒイロの部屋に行くことのが多いわけである。
ヒイロがメールを持ってくるのは一緒のお仕事が始まる証。
つまり、今後多分しばらくの間はこのメールのやり取りが行われるということでもあった。
「ねーヒイロ、ごめんってばぁ…」
つーん。
怒ってます、という態度を崩しもせずにヒイロがメールを握り締めて座っている。
へそを曲げたヒイロはしつこい。
しかもタチの悪いコトに、メールを寄越さないのだ。これではデュオのお仕事まで完了しない。
確かにデュオが悪いのだ。
どんなペットでも顔を見た途端ドアを閉められたら腹が立つだろう。思わずやってしまったのだけど。
でも、いっつもヘンなことするヒイロが悪いんじゃないかぁ…。
困ってしまったデュオの耳が垂れ下がる。
どうしよう、どうしよう。
どうしたら仲直りしてくれるんだろう。
オロオロと部屋を見まわすと、さっきから食べかけのまま放置されてしまっているおやつに目が止まった。
―――そうだ!
「はい、ヒイロ♪」
にこにこ、にこにこ。
ヒイロの鼻先にとっときのおやつを付き付ける。『これで機嫌を直してね』攻撃だ。
「………………」
ヒイロの表情が固まる。
そのままおやつを見詰め、デュオを見詰め、またデュオを見た。
「ヒイロ?」
しまった効かなかったか?と思いつつ妙なリアクションを返すヒイロと視線を合わせた。
「いや…なんでもない」
なんだか毒気を抜かれてしまったような表情で、デュオからそれを受け取る。
一応しょうがないから許してやる、ということらしい。デュオがほっとしたように息を吐いた。
ヒイロが貰ったおやつ。
その名も銘酒『うさ吟醸』。
―――のんべだったのか……。
ウサギの意外な一面を知ってしまったヒイロであった。
まあ、実際そんなに怒ってたわけでもないし。ウサギがオロオロしてるのが可愛いからほっといただけである。(悪)
「ほら」
そろそろいいかとヒイロはデュオにメールを手渡した。
デュオがいそいそと受信簿にそれを放りこむ。
カタン。
「任務完了!」
ささいな達成感というか、満足気に微笑むウサギをネコはじっと見た。
やっぱりただ帰るのも何だし…この後どうしようか。
ふむ、と顎に手を当てるネコを尻目に、ウサギはもう用は済んだからいいやとぼやんとしてるネコを無視して先程のおやつに手を伸ばす。
自分もいつもヒイロの部屋でのんびりしてから家に帰っていたから、他所のペットがいようと気にしない。
まあ、最近はヒイロがほっといてくれないし帰してくれないんだけど。
シアワセいっぱいな気持ちでご主人特製のにんじんケーキに齧り付く。
大好きなご主人の創ってくれたおやつは、デュオのためだけに生まれた他には絶対ない特別品である。だからとても美味しいのだ。
もくもく、もくもく。
ヒイロがじっとこっちを見てても気にしない。
もとから食べかけだったケーキはシャリシャリと音をたてて、一瞬でなくなった。
「ごちそーさまでした」
ぺこん、と礼儀正しくお辞儀をすると、それまでじっと見ていたヒイロが眉を顰めてふいに立ちあがった。
「ついてるぞ」
「あ、ありがとー」
ほっぺたについたクリームを指で拭ってくれる。
デュオは素直にお礼を言った。
「もうちょっと落ち付いて食べればいいだろう…ほら、ここも」
「う…ん」
結構くっついているらしい。
指でこすられる感触にデュオが片目を閉じた。
その時、おや、という風にヒイロの動きが一瞬止まった。次の瞬間にやりと笑う。
「ほら、ここにも」
ぺろ。
ほっぺたについたクリームを舐め取る。
今までの経緯でヒイロにキスされたり舐めまくられたりするのには慣れてきてるデュオは、それも気にしなかった。
「ほら…動くな」
「もういいってばぁ」
ただぺろぺろと舐め取られる感触にくすぐった気に身を竦める。
デュオは基本的にヒイロに対してガードが甘かった。
抵抗する素振りもなくくすくす笑うデュオに気をよくしたヒイロが、だんだんとさりげなく体重をかけつつクリームを舐め取りつづける。
「動くなと言ってるだろ」
「だってくすぐったいんだも……うわっ」
逃げるように上体を後ろに向けていったのが禍いして、限界を越えた身体があっさり後ろに倒れこむ。
目論見通り組み伏せた体制で、ネコが満足気な笑みを浮かべる。打った頭を押さえていたウサギはそれを見なかったけど。
ぺろぺろ。ぺろぺろ。
親切でやってくれていると信じてるデュオは、ヒイロがあんまりしつこいので諦めて力を抜いた。
ヒイロはやると決めたことは貫くタチだから、きっと終わるまで絶対やりとげるだろうから。
そうしてその認識はある意味正しくて。
ぺろぺろと顔を舐めていたそれが、口唇へと移動するのにそう時間はかからなかった。
深く口付けられて、ようやくデュオの中で危険信号が点滅する。
そうだ、最近のヒイロはヘンだったんだ!!!!!
思い出しても後の祭、じたばたもがいても抜け出せそうもなかった。
慌ててもがく内にもヒイロの舌は首筋へと到達し、襟をはだけて胸元へと移動していく。
ネコ特有のざらざらした舌の感触に背筋がざわざわする。
余すとこなく舐められ、軽く歯を立てられ、デュオの息が上がってきた。
―――気持ち悪い……っ
半泣きのデュオを無視して、ヒイロは着々と上着を脱がせていく。
今までとは違った。
今まで、ヒイロはデュオにキスしたりその顔を舐めたり、きつく抱き締めたりしたけどせいぜい触れるのは首筋までだったのに。
今日のヒイロはそれ以上の何かをする気らしく、いやがるデュオを無視して服を脱がせていく。
デュオは怖くなってきてヒイロのタンクトップをぎゅうっと掴んだ。
それにヒイロは一度手を止めて、デュオの頬に手を添えてやさしく口付けてくる。
いいかげん慣れてしまったその感触に、デュオはほっと力を抜いた。
ヒイロがデュオの耳にやわらかく噛みつく。
性質上耳が敏感なウサギは、それにぴくんと過剰な反応を返した。
ヒイロがその場所を集中的に攻めたてた。感覚の逃がし方のわからないデュオはどうしたらいいかわからなくて、ヒイロの望むままの反応を返す。
そっちに気を取られて気付かない間に、ベルトのバックルがはずされてチャックが下ろされた。
デュオはまだ気付かない。
そのまま下着もくぐり抜けて直接デュオのものへと触れる。
デュオがはっとしたようにヒイロを見た。
「大丈夫、気持ちよくしてやるだけだ」
涙の溜まった怯えたような瞳にさすがに気が咎めたのか、ヒイロが苦笑しながらデュオへと口付ける。
「気持ち悪いぃ……」
他人の手が触れる感触はなんだか落ち付かないし、どうしてかヒイロはデュオの服を脱がしているし。
妙に楽しそうなのがまた怖い。
「背中がぞわぞわするだろ?それが、気持ちいいってことなんだ」
「違うもん」
デュオの気持ちいいは、フカフカのおフトンに寝っ転がったり、天気のいい日中に配達に行く際感じる風とか。あるいはヒイロに抱きついたりしたときの感覚である。
最後のはおや?という感じだが別に浪漫ちっくな理由からではなくただ単にヒイロが唯一、デュオと同じ毛皮持ちだからである。
カトルはペンギンでじっとりしてるし、カメトロワも同様。クマ五飛は気持ちいいと言えば確かにそうなのだが、どうにもしっくり来ないのだ。
もとから人肌のぬくもりが好きなデュオはよく抱きつく。そして毛皮のお陰でヒイロはその頻度が高いのも確かだった…これは余談である。
「こんなの気持ちよくないもん、ヒイロのうそつき、どけってば!」
いやいやするように首を振るデュオに、ヒイロは楽しそうに目を細めた。
こんな風にあどけない反応を返されるのは却って嬉しい。
「お前の知ってる気持ちいいとは違うかもしれないな。こっちのは一番好きな奴と一緒でなければ感じれない気持ちいいなんだ」
「一番?」
「そうだろ?」
自信有り気なヒイロにデュオがきょとんとする。
「だから、これも全部…俺が、お前を気持ちよくしてるんだ」
「…あっ……」
握りこまれて擦られる感触にデュオが身体を固くする。
ヒイロがデュオを落ち付かせるように口付けながら、なおも煽っていく。
器用に足でズボンをずり落としていくと、片足を引き抜かせて邪魔なそれを脇へ蹴り退ける。
ズボンを脱がされ、上着の前を開けられたデュオは半裸の姿でヒイロに為されるがままになっている。
歯を食いしばって与えられる感覚に耐えるデュオを宥め、片手でデュオを煽りながら、ヒイロは残った片手をそっと後ろへと這わせた。
指が触れる感触にデュオがびくっと怯える。
「あ……」
「大丈夫だ」
根拠のない言葉を吐き、デュオのもので濡らしたその指をそっと差し込んでいく。侵入する異物に、固く侵入が拒まれる。
入口からゆっくりとほぐしつつ、ヒイロはデュオを煽る手に明らかな作為を加えた。もう何がなんだかわからないデュオは、首を振ってヒイロにしがみ付いている。
「デュオ」
胸元に顔を伏せ、固くなった部分を口に含んで舌で煽りながら…ざらざらしてるので相当刺激的である…ヒイロはある一点を擦りあげた。
「ッ?!」
デュオの身体が跳ねる。
その瞬間、デュオの意志に反してヒイロの手に握られたものが一気に体積を増した。
「…ぁ……あっ…?」
震えるデュオの視界が霞んでゆく。引き抜かれた指の感触に惜しむように力を入れてしまいながら、どこから沸くかわからない熱に意識を奪われそうになった。
握りこむ手をそのままに、ヒイロが上体を起こしてデュオと視線を合わせた。
こちらは乱れた様子のない服装のまま、多少息が上がっている程度である。
「―――身体が熱いだろう?」
「ヒ…イロ……」
「これが、気持ちいいってことだ。忘れるな」
「………っあ…!!」
そのまま先端を擦られ、デュオはヒイロの望むままに吐き出させられた。
全て終わると、デュオは泣き出してしまった。
なんとなく予想はしていたものの、あまりにも泣き止まないのでヒイロは途方に暮れてしまう。
気が強く、勝気で根性があるのだがデュオは涙腺が弱い。精神的にめげてなくてもなかなか泣き止まないのに、今回は本人混乱しまくりという状況である。
なんとか宥めようとするが、しゃくりあげる声は治まる気配もない。
ただ、ヒイロの胸に抱き付いて、という矛盾に本人が気付いているかは謎である。
困ってしまってヒイロはぽんぽん、と背中を宥めるように叩いた。
「―――気持ちよかったか?」
「………」
ぽつりとかけられた問いに、しばらく考えた後微かに頷く。
ヒイロから言われたことを抜きにして、気持ちよかったか悪かったかを考えてどちらだっただろう、と思えば前者であった。
まだ、よくわからないものの。
「―――そうか」
どこかほっとしたようにヒイロは呟き、そのままデュオの背中を撫でた。
その手の感触を背中に感じながら、体重を預け、胸元に顔を摺り寄せてタンクトップにしがみつく。
ぬくもりに、安心する。
「……悪かったと思う?」
ぐすぐすと、恨みがましげに見上げる青い瞳にヒイロが苦笑しつつ頷いた。
実際には、したくてしたのだからあんまり悪いとは思ってないのだが、流石に泣かれると弱い。
「じゃあ、今日はお泊りして」
続けられた言葉にヒイロの動きが止まった。
てっきり、追い出されてしばらく会ってもらえないだろうな、と思っていたのだ。
答えないヒイロにデュオが不安気に瞳を揺らす。
「……ダメ?」
「あ、いや…わかった」
「うん」
間近からまだ涙の残る瞳でにこっと微笑まれ、ヒイロはくらくらした。
思えば、デュオに墜ちたのは抱き付きぐせから生じるこのアングルだった。
「じゃあ、オレもう疲れちゃったから寝よ?」
そう言って身体を離し、はずされてしまったボタンを留めなおすデュオを前に、ヒイロはどきどきいってる心臓を落ち付けようと深く息を吐き出した。
『一番好きな奴と一緒でなければ感じれない気持ちいいなんだ』
オレは、ヒイロが好きなのかな?
妙に安心してしまうヒイロの腕の中、悩んでしまったデュオであった。
end.
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