「随分冷えるな…」
室内との温度差で曇ったガラスを手で拭って、降りつづける雪を目を細めて眺める。
昨夜から降り始めた雪はまだまだ止む気配がない。
見ている間にもまたガラスは曇り始めていて、外を見る自分の吐息にすらも一瞬で白くなるそれに、デュオは諦めて窓から身を引いた。
厚手のカーテンを閉めてしまえば寒さは遠いものになる。
けれど心理的には窮屈さを増した部屋に溜息を吐いて、デュオはカップを片手に端末へと戻った。
蜂蜜を垂らしたホットミルクは甘い香りがして、疲れてしまったこころをそっと癒してくれるようだった。
自然、息が洩れる。
本当に疲れてしまった。体ではなく、こころが。
息を吐いてしまえばさらに気分が重くなることはわかっていたが、それでもカラ元気を出す気力は日中使い果たしてしまっていた。
一人の部屋で、虚勢はもろく崩れ落ちる。
「ヒイロ…」
吐息と共に名前がこぼれる。
どうして。
いつから、自分達はここまですれ違ったんだろうか。
元から仲がいいというわけでも気が合うというわけでもなかった。むしろ仲は悪かったし気は全然合わなかったし、相性もタイミングも最悪だった。
でも同じ道を歩いてきた。
仲間意識ではないが、最後の最後の部分で踏みとどまるような危うくも確かな絆のようなものは感じていたはずなのに。
今は、もうとても遠くへきてしまった。
何が、ということはない。
本当にささいな口論やすれ違いばかり。ひとつひとつを挙げれば下らなさ過ぎて、気にする必要など感じられないようなことばかり。
でも、今はそれ以外の何もなくて、それだけがただ日々積もり積もっていく。
「………」
…止めよう。
デュオは小さく息を吐いて思考を切り替えた。
今まで何度も考えてきたが、答えはでなかったし考えてもどうしようもないことでしかない。
カップを傾けると、指をキィへと滑らす。
いくら気乗りしないとはいえ、次の任務の下調べ位は確実こなさなくてはならない。
そうでなければ文句が飛んでくるところだ。
「……止めよ」
考えまいと切り替えたはずの思考がまた元に戻ってしまい、ぐるぐるしながらデュオは一旦手を止めることにした。
そんなことばかりしているから、さっきから本当にはかどらない。
もう一度雪を見ようか、と顔を窓に向けたとき、小さな音が鳴って画面にメールの着信を知らせるメッセージが表示された。
「………」
どきり、とした。
―――ああ、もしかしたら。
ほんの少しの期待を胸に、メーラーを開くと、そこには予想したとおりのアドレスが表示されていた。
「………」
デュオは小さく笑った。
なんだかこころだけでなく、急に部屋の温度まで温かくなった気がする。
「3日ぶり…かな?」
一つ前の受信メールの日付を確認して呟く。
自然と顔が綻んでいく。あたたかいものが満ちていく。
それは、デュオが心待ちにしていた、誰とも知れない人からのメールだった。
その出会いは本当に気まぐれで、本当に偶然だったとしか言いようがない。だが、今こうして確かにデュオとその人との間はみえないもので繋がっている。
ディスプレイに表示されたアドレスを辿るように、指を滑らす。
心持ち瞳を細めたデュオは夢見るように呟いた。
「会ってみたいな…」
本当に欲しかった一言を言ってくれたその人に。
見えない空間を通して、二人は繋がっている。
to be.
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