「…ぃて!」 丸めた紙束でぽこんと頭を叩かれてデュオは後ろを振り返った。 そこには見慣れた感のある仏頂面がある。 「……」 溜息を吐いた彼は、無言のまま、後ろから手を伸ばして書きかけの返信画面を閉じてしまった。デュオはそれに苦笑したものの特に止めることはしない。 代わりににっこりと笑ってやる。 「おはよう、ヒイロ。いい朝だな」 「……」 帰宅していたり休憩室に避難していたり仮眠室に消えていたりと理由は様々だが、偶々今この部屋にはデュオしか残っていない。 二人だけということもありずいぶん気楽な口調で挨拶した彼は、時計を見てから軽く伸びをした。思っていたより長い間端末に向かっていたらしい体が軋む。 「結構遅かったな。もっと早く来るかと思った」 「……」 くすくす笑ったデュオは横目で画面を眺めた。 返信画面は閉じられてしまったものの、開かれたままのメーラーのタイトル欄にはre;が並んでいる。最初にデュオが件名を書かずに送ったからそこに表示されている文字はそれだけだ。 Re; Re; Re; Re; Re; Re; Re; せっかく途中まで書いてたんだし、もう1つ付けたかったなと思いながらデュオはその文字列を噛み締めた。我ながら良くやった、見事な出来栄えだ。これはなかなか貴重な文字だ。 (こいつ相手に雑談してこんなに返信繋げたんだぞ) (オレ結構凄くない?) 自画自賛してしまいながら、にこにこと眺めるデュオにヒイロは不審気だ。勿論情緒に欠ける横の男は絶対気づかないだろう自己満足なのだがそれで構わない。 デュオは自分なりに満足だし、今回のこれは副次的効果もばっちりだ。 「めでたくお前がオレの生の声聞きたくなったところで、あと十分ばかりで勤務終了なんだ。飯行くだろ?」 ここに来てずっと嫌そうな顔をしたまま一言も発しなかった彼は、もう一度わざとらしい大きな溜息を吐いてから、「了解」とだけ呟いた。 end. |
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10周年企画、12ヶ月連続12日更新のその8です。 |