学校へ行こう!:D



「お前は目立ちすぎる」
苛立たしげに言い放ち、背を向けた彼にデュオは内心(それをお前が言うのかよ)と呟いた。

顔立ちの整った無愛想な人間に対する評価というものは大きく二分されるものだ。すなわち、好意的な評価と、非好意的な評価。どちらでもないという中庸なそれにはあまり納まらない。
幸いにして彼に対する評価は前者だったようだ。
…と、他人事と言い切れない微妙な立場にあるデュオは思った。
年頃の子供達にとって転校生とは動物園のパンダのようなものだ。普段は同じ学年だろうと自分に縁のない人間のことを意識に留めることはないのに、「転校生」という肩書きを持つだけで誰しもがその人物に注目する。
わざわざ見に来る程の物好きは少ないが、どこのクラスにどういう人間が転入してきたか、その程度の噂は学年中の人間が知っていると思っていい。
同時期に二人の転入生、しかも性格は対照的。顔立ちまで双方共に整っているとくれば、その存在は確実に注目される。
時間が経てばそれも収まるのだろうがそもそも長居をするわけではないのでそんなことを悠長に待つことは出来なかった。
結果として、本人は目立っていないつもりの彼のフォローはデュオが負うことになる。
(授業エスケープしておいて、目立ってないって言い切るあいつの感性って尋常じゃないよなぁ…)
真面目そうに見えるせいか先生受けはいいようで、ヒイロ君は頭が痛いと言ってました!というデュオの言葉を誰も疑わなかったのが救いだ。
しかしその件で苦情を申し立てにいったデュオに返された言葉が、冒頭のアレだ。あそこまですっぱり言い切られるとデュオとしては溜息を吐く以外ない。
ヒイロの様子が気になって、任務の都合にも合うからと潜入してしまったデュオからすればこれはもう予想外の事態だ。
自覚があるならまだいい。自覚がないから彼の行動は怖い。
早々なことで彼らの目的がバレるわけもないが、バレたらバレたでここを出て別の手段をとればいいが、穏便に済むに越したことはないとデュオは思う。
「やれやれ…」
まさかこんなところで気疲れするとは思いもしなかった。
彼を非難した背中が消えていった方向をじっと見ていたデュオは、背後の海へと視線を転じた。気温が高くて海水が蒸発しているのか今は要塞も霞んで見える。
───どの道こんな時間は、あそこを破壊するまでだ。
わけがわからなくても、常識が欠如してるようでも、要らぬ迷惑をかけられていても。それでも彼という存在が気になるのだから自分はどうしようもない。
結局、ここに来たことに関しては後悔してないのだから。
彼は変わった行動を繰り返しているが、それでも好意的に受け止められているのだから良しとしよう。
(人は異端に敏感だ)
デュオだって本当は理解している。
彼が本当に目立たないようにしていたって、そんなことは不可能だということに。彼に目を引かれるのは「彼が変わっているから」だと思ってくれているのだから本当はきっと都合がいい。
彼は、目立つ人間だ。
目立つということは魅力的ということで、誰しも彼へと目が吸い寄せられる。目が離せなくなる。
それはきっと完璧なエージェントとして育てられた彼の唯一の欠点なのだろうけど…。
(あいつがいれば何かが変わる気がする。だからきっとそれは欠点で、あいつの何よりの美点なんだ)
彼という存在に誰もが目を奪われる。
結局、自分もその一人でしかない。

もう一度要塞へと目を向け、デュオは溜息を吐いた。
今度のそれは先程のものよりも深く重い。
今回は任務の都合が合った。さて、次の機会を自分はどうするのだろうか。
今はまだ、先のことは何もわからない。


                                          end.




COMMENT;

10周年企画、12ヶ月連続12日更新のその6です。
3月の誕生石はアクアマリン。宝石言葉は「聡明、沈着」。

アクアマリンという名前は『海の水』をあらわす色から名付けられたそうです。
イチニで海というと出会いか学校、そういえば「目立ちすぎる」発言について真面目に書いたことはなかったぞと思い至り、二人それぞれの視点でそれを書いてみることにしました。お互い相手のこと考えて気にして目が離せなくて、困ってたり苛立ってたりする時期というのもとても可愛いと思います(・w・*
「:D」でお察しの方もおいでかもしれませんが、来月(多分)は同名で「:H」です!
ヒイロは授業中にダンクしてたり明らかに目立ってる人ですが、デュオが目立ってなかったとは私には思えないのです。二人とも自分のことだけ無自覚だったに違いない。


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