泡になれない人魚姫(デュオ)
お姫様と王子様が結ばれる。
それは絶対的な不文律。
徹夜明けの頭を抱え、欠伸を噛み殺しながら、デュオ・マックスウェルは一人廊下を歩いていた。
太陽がやけに黄色く見える。つまり光に対して過敏になってるということだ。
そろそろ目を休ませてやらないとマズイなー、と思いはするものの、思うだけで実行するつもりはなかった。この分だと作業に一区切りつくのは昼頃か。そこまで働くなら終業までもたせられるだろう。
自販機のある休憩室はもうそう遠くない。
昼シフトの人間が続々と出勤してくるのと逆行するようにデュオは歩いていた。
中央ホールを抜け、脇の細通路に入ったところにそれはある。
「……!」
視界の隅を掠ったものにデュオは思わず足を止めた。
ホールへ踏み出しかけた足を咄嗟に引っ込める。
相手はこちらに背中を向けているから、すぐに壁に隠れて気配を消したデュオのことは気づかれなかったはずだ。
(……。ヒイロ)
彼の前に立つのはひとりの少女だ。
秘書とボディガードを連れての非公式な訪問、ならばおそらく今度の会議のことについて何か急ぎの用件があったのだろう。
暫くすればその内容も伝達事項として彼の元にも回ってくるに違いなかった。
それがわかっているのに、後ろめたいことは何もないはずなのに、デュオはその場から動けなかった。
まるで一枚の絵画のように並び立つ一対。
完成された『二人』。
そこに割り入るのはいかにも無粋過ぎて。想像しただけで、光と影のように、決して相容れない自分を自覚させられる。
ヒイロの言葉に百合の名をもつ少女が笑う。
年頃の少女らしい、やわらかく愛らしい微笑み。
見てられなくて、その場に背を向けてそっと立ち去った。
姫と王子が結ばれる。
それは誰もが喜ぶハッピーエンド。
…そんなこと、最初から理解っていたのに。
黄色い太陽が責めたてる。
お前に光は眩しすぎると。闇の中で永久に眠れと。
見たくないものを拒むようにデュオは強く目を閉じた。
見守ることすら出来ない自分なら、いっそ泡になれれば良かった。
end.
魔法使いを夢みる王子(ヒイロ)
もしも何者かになれるのならば。
きっと俺は、魔法使いを選ぶのだろう。
「案の定噂になっているな」
面白そうな言葉と共にばさりと置かれたのは、よくある大衆週刊誌だった。
芸能人の不倫、浮気、政治家の噂や買い物のお得情報まで網羅した冊子の表紙に踊るのは『ドーリアン外務次官、熱愛発覚?!謎の王子に迫る!』の文字だ。
先日の射撃事件の際、彼女を庇った若い護衛の姿がいたく目を引いたのだろう。
年齢だけではなく、なまじ顔が整っていたのも興味を引いたのだろう。幸いサングラス越しだったとはいえ彼の造作が整っているのは簡単に見てとれるものだ。
そんなくだらない理由で、彼女が狙われたことよりもゴシップ目的で騒ぎ立てられるのは、彼女にとっても彼にとっても迷惑なことこの上なかった。
お陰で当分の間最も身近に接する護衛は他の者が担当することになったのだ。
実力や適性以外の事情でシフトを変えなければならない。本当に迷惑だ、場合によっては迷惑どころで済まない話だ。
「いっそ婚約発表でもしてしまえばいい」
「…トロワ」
「冗談だ」
半分は本気だが、と笑う彼の言葉が真実だということは互いに知っている。
同じ相手を想うのだ。
脱落するならしてしまって欲しいと思うのは当然だろう。
一瞬睨み合った二人は、すぐに視線を外した。
こんなところで張り合ったところで虚しいだけだ。何を論じたところで答えを出せる人物はここにはいないのだから。
外した視線の先にたまたまあった冊子を目に留め、ヒイロは溜息を吐いた。
「王子、か。迷惑な話だ」
亡国のプリンセス、世界のクイーン、かつて彼女の肩書きは色々あった。
今はただの故・外務次官ドーリアン氏の娘。それでも一度知った彼女の素性を人々は忘れない。
今の彼女の立場で最も有力なのは政略結婚だろうが、姫君にはいつか運命の王子が現れるのが相応しいと誰もが思うのだ。
だから、彼女の相手ではと噂されるヒイロが王子呼ばわりされるのも仕方の無いことだろう。いつだって人は夢を見たがる。若く可憐な少女の隣に脂ぎった中年男を並べたいとは思わない。
だが、噂は噂だ。
彼女は少し前にもウィナー家当主と熱愛報道されていた。
今回は偶々ヒイロというだけで、関係者もあまり深刻に考えてはいない。彼が元ガンダムパイロットだということだけは伏せておかないといけないが、結局は話題に飽きて次の報道に移るまでの辛抱でしかない。
(しかし、だからこそ。今回の件で一番堪えているのは彼女だろう)
ここにはいない少女の胸中をトロワは思う。
根拠のない報道だ。だが、それは彼女の中の真実でもある。
身近な者なら彼女の想いを誰しも知っている。
そして、それがヒイロに拒まれたことも。…こちらは一部の者に限られるか。
彼女はそうなることを理解した上でヒイロに告げた。そのときトロワは、初めて彼女を強いと思ったのだ。自分はどうだろうか。
絶対に。出来るはずがない。
まだそう遠くない過去のことだった。その状況でこんな噂は、彼女の胸奥を静かに切り裂いてゆくのだろう。
まして今の彼女は、彼の傍にいることすら許されないのだ。
「……」
トロワは、そのことを理解しているだろうヒイロのこころを思った。
彼は何も言わない。言う資格がないのだから。
彼は、彼女の王子ではありえなかった。
「王子でないのならお前は何だ?」
「さあな」
「ヒイロ」
投げやりな口調に、嗜めるようにトロワは彼を呼んだ。
肩を竦めたヒイロがトロワと視線を合わせる。
「彼女の王子は俺じゃない。俺は舞台の上にいない」
「では、『あいつ』の王子だとでも言うつもりか?」
「……そうなれれば良かった。だがおそらく違う」
ヒイロは微笑んだ。
「俺は王子にはなれない。そんなきれいなものじゃないんだ、トロワ」
『悪い魔法使いは姫に魔法をかけました。
姫が永遠に目覚めないように。
お城はイバラに囲まれ、誰も近づくことができません。』
───魔法使いになれれば良かった。
手に入らないのなら眠らせて、誰にも触れられないように閉じ込めて。
例え王子が現れようと渡さない。
城への招待状すら貰えなかった魔法使い。きっとそんなものが相応しい。
王子なんて必要ない。現れなくていい。
(永遠に、眠り続けていてくれればいいのに)
馬鹿な考えだと知りながら、叶わない願いを夢にみる。
眠りについた瞳が自分を映さないことを恐れているくせに。
こんなことを考えるような人間だから。王子になんて、なれるはずもない。
end.
小人のジレンマ(カトル)
物語はいつでも王子と姫が結ばれる。
それは疑いようのないハッピーエンド。
だから誰も考えない。同じ舞台に存在する、置いていかれるものの気持ちなんて。
堅牢な執務机の上にバサリと音をたてて雑誌を落とし、カトルは苛立たしげに眉を顰めた。
マグアナックの一人が複雑な表情で持ち込んだそれは確かに目を通すに値するものだった。ドーリアン外務次官は何かと騒がれる対象だが、今回は相手が悪い。
「…こんなことになるなら、もう少し長引かせるんだった」
よくあるゴシップとはいえ、最悪だ。
直前まで立っていた自分と彼女の噂に少々餌を撒いておけばこんなものが記事になることはなかっただろう。これを目にして、笑いながら胸を痛めているだろう友人を想ってカトルは溜息を吐いた。
そこに真実がないことをカトルは知っている。
だが彼は知らない。
きっと信じるのだろう、ついにこの時がきたと覚悟をするのだろう。
それでも、自分も、そしておそらく彼の周りにいる親しい人間達も、本当のことを彼に教えるつもりはないのだ。
「悪意の方が、マシなのかもしれないね」
過ぎる好意が彼を傷つける。
理解っているがそれでも出来ない。
そんな当事者二人が気づかない駆け引きを、もうずっと長いこと続けている。
『やっちゃったな…ヒイロは。死んだぜ、あいつ』
そう口にした彼の姿はカトルの記憶に焼きついている。
その時戦況は思わしくなく、彼らは迷いの中にあった。何かしなくてはならないと思いながら動けない。次にコロニーを盾にとられたらどうしたらいいかわからないから動けない。
同じ志を抱いた同志。だが、彼と行動を共にしたのは偶々近くに居合わせたからだった。
あの時あの場に現れたのがトロワや五飛だったとしてもカトルは同じ行動をとっただろう。それが彼だったのは本当に偶然でしかない。
だがつらい状況の中明るさと笑顔を絶やさなかったデュオの姿は、間違いなくカトルの、そして同行していたマグアナックの救いとなった。
笑える、というのは凄いことだ。
彼の強さは光となり救いとなり、彼らの道を照らした。
彼にその自覚がなくてもそれは紛れもない事実だ。
それが空元気だったとしても逃避だったとしても構わなかった。あの時行動を共にしたのが彼で良かったという想いに偽りは無い。
だからこそ、そんな彼が静かに表情もなく落とした一言は、とても深い音となって響いた。
ああ、彼は強い人だ。
強すぎて、泣くことすら出来ない人だ。
───彼を救いたい、と思ったのは果たして傲慢なことだろうか?
自分達は兵士だったから、ずっと傍にいることは出来なかった。でも他の三人よりも彼と親しい自信はある。
一番近い自分。
だからこそ、これ以上どうにもならないことは誰よりも理解していた。
(気づかないでいい。君はそのまま笑っていて)
知ってしまえばきっと彼はカトル以上に傷つくのだ。
だから知らないままでいい。
そんな風に諦めて封じ込めて、それでも、自ら差し出してやるような真似はどうしても出来なかった。
デュオのことが大好きだ。
ヒイロのことだって嫌いじゃない。
どうするのが一番かわかっているけれど、決定的なその時がくるまで、少しでも『今』という時が続いてくれたらいいと願っている。
カトルは受話器を手にとった。
彼から教えられたプライベートな連絡先。最近忙しくてあまり使っていなかったそれは、それでも既に慣れたもの。
「ああ、デュオ?久しぶりに時間が空いたんだ。君に会いたいな」
(それで、君の気が少しでも晴れるなら素晴らしい)
落ち続ける時計の砂を止めたいと思っているのは、おそらく全員。
果たして一番の道化は誰なのか。
『今までありがとう!
あなたがいなかったらきっと私は生きていけなかった』
ずっと一緒に居たいと望んだ気持ちは嘘じゃなかった。
王子なんかに渡すために大切にしたわけじゃない。
傍にいてほしい、ただそれだけだったのに。
現れた王子に君の視線は釘付けで、見つめあう二人の間には誰も入ることができない。
ハイホー、ハイホー。
姫を愛し、守り、送り出す。
ハイホー、ハイホー。
嫉妬に狂う醜い姿を見せたくなくて、明るく笑って送り出す。
覚えていて欲しい。
ここにも幸せはあったのだと。
横から現れた王子様。
自分にとっては姫を奪う大悪党。
どうか、末永くお幸せに!
(姫が望むのでなかったら、お前なんて許さないのに!)
end.
王子になりたかった姫(リリーナ)
女の子だからお姫様にならなくてはならないなんて。
一体誰が決めたんだろう。
「リリーナ様、お時間ですわ」
「ありがとう」
微笑んで振り返った少女の手元を見て、ドロシーはあら、という顔をした。
面白がるような表情で、およそこの場には似合わない週刊誌を…それを手にする本人が見出しを飾っている雑誌を眺めて彼女は肩を竦めた。
オーバーアクションなのは昔からだ。
そういえば今回自分と話題にされてしまった彼の傍にも動作の大きい少年がいるが、コミカルな親しみ易い印象を与える彼に対し彼女はどうしても芝居がかったイメージが付き纏う。悪気はないことを知っているけど、最初に会った時には慣れるまで少しかかった。
「こんなものに取り上げられるとは、役に立たない従者ですわね。リリーナ様には相応しくありません」
「いいのよ、ドロシー」
彼女なりの慰めだろうそれに微笑んで大丈夫だからと返した。
彼女はリリーナがヒイロに振られたことを知る数少ない人間の一人だ。
今回の件で迷惑を被ったのは彼も同様、むしろ普段から目立っているリリーナよりも被害は大きいのだろうが、リリーナの周囲は彼女の心情を慮って彼を非難する。そのことも彼女には少しつらかった。
「いいえ、リリーナ様。『運命の王子』なんて、彼には似合いませんわ。全く、この記者も何を考えてこんな呼び方をしたのかしら。彼の魅力は野性的で乱暴な、兵士としての輝きでしょうに」
「とてもやさしい人よ」
相変わらずの彼女の評価にリリーナはくすくすと笑った。
…『運命の王子』。
そんなものではなかったけれど、彼はリリーナにとってずっと王子様だった。
コロニーという星から降りてきた王子様。
いつからか、彼のお姫様が自分ではないことには気づいていた。
もうどうにもならないのだと悟ったときに幕を引いたのは自分だった。
そのことを後悔はしていないけれど、胸が痛まないわけではない。まだ思い出にするには時間が足りなさ過ぎる。
彼に出会うまで生きてきた時間と、出会ってから生きてきた時間を比べたら圧倒的に前者が多いのに、まるで人生の全てであるかのようにヒイロ・ユイという存在はこころに焼きついていた。
それでも彼に愛されていた自信はある。
それは恋ではなかったかもしれない。でも、彼と自分の間には他の誰も立ち入れない絆のようなものがあった。
きっと自分達は同じ世界を見ていた。
それは今も変わらなくて、それがわかっているからみっともなく縋ることも出来ない。
(本当に、酷い人…立ち止まることも許してくれない)
彼に見捨てられたくない。呆れられたくない。彼が愛してくれた部分を守り続けて生きたい。彼がその身を呈して護ってくれる自分という存在を誇らしく思う。
それでも、彼が望んだのは、彼を必要としないリリーナだった。
「ねえ、ドロシー。私は本当はお姫様なんて呼ばれたくないのよ」
周囲は何かと自分を姫君として扱う。
それが自分の出生故だというのは理解している。だから、もしこれが本当にお伽噺だったなら彼と自分が結ばれる結末が最上だったのだろう。
でもこれは現実で、物語ではありえない。
人のこころは縛れない。
(では、もしこの現実でも私が『姫』だというのなら、私に与えられた役割は何だったのかしら?)
王子に救われる白雪姫。
王子を待ち続ける眠り姫。
王子の元へ自ら赴くシンデレラ。
いいえ、おそらく人魚姫に出てくる憎まれ役の隣国の姫。
「少し違うわね。だって私が先に出会ったのよ。海辺で彼を助けたのは私。一緒に居た時間だってそんなに変わらないの。大事にされていたのは、むしろ私の方だった」
それでも。
「彼を目覚めさせたのは私ではなかったの」
姫なんて役割いらなかった。
女の子だから王子様を待たなくてはならないなんてばかげてる。そんなものに縛られなければもっとがむしゃらに欲しいものを求められたかもしれない。
そう。きっと私は、眠り姫を目覚めさせる王子にこそなりたかった。
戦争の道具としてこころを眠らせたお姫様。
長い眠りから彼を目覚めさせたのは…。
その役目を、担ったのは。
「敵うわけないわ。だってあの方も、星から降りてきた王子様だったのですもの」
end.
ツバメは泣いて空を行く(ヒルデ)
待ち合わせた喫茶店で顔を合わせた途端彼女は物凄く嫌そうな顔をした。
「もう!辛気臭いわね」
最悪!という心情を隠しもしない。
相変わらず素直な彼女を前にして、少しだけほっとしたのは内緒だ。
デュオにとってヒルデという少女は最早性別を越えた気の置けない友人だ。
突然の呼び出しも慣れたもので、時間さえあればそれに応じる。そもそも彼女が声をかけてくるのはいつもデュオに何かあったときだ。近すぎない適度な距離を保つ彼女はとても頭のいい女性だと思う。
極端から極端にはしる傾向にあった少女も流石に近頃は落ち着いてきた。
この辺りはリリーナと近い。それを若さ故の暴走というかは悩むところだ。だって普通あんなに突き抜けた行動はしない。
「何?」
宜しくない考えに聡くも気づいたのか、じろりと睨まれたデュオは、肩を竦めて苦笑した。
美人に睨まれるのは遠慮したい。最近は年頃の娘らしく綺麗になった彼女に思わずどきどきすることもあるのだ。
「いや、ヒルデも綺麗になったなーと思って」
「そうでしょ。今更気づいたの?見る目ないわね貴方」
「面目ない」
軽い口調で流してくれるのは流石だと思う。
同時に、開口一番『辛気臭い』と言いながらも核心に触れないところも。
「今日は買いたい物がいっぱいあるんだから。美人を待たせた分きっちり荷物持ち頼むわよ!」
カップに残っていた飲み物を一気に飲み干した彼女は、にっこり笑ってデュオの手を取ると歩き出した。
(…ありがとな、ヒルデ)
何も考えないでいられる時間を、普通の少年のように振る舞える時間をくれる彼女を、とても大事だと思う。
けれど彼は、気づかない。
(綺麗、ね。本当に無神経)
宣言通り大量の荷物を持たせて、歩きにくそうにしているデュオを横目にヒルデは思う。
恐らく、ヒルデがデュオに抱いた気持ちを知っていたら彼はそんなこと言わなかっただろう。
でもそもそもとして、呼び出しても会ってくれなくなるだろうから、知らないままで構わないのだけど。
リリーナは、ヒイロに気づかれていたから言葉にして終わりにした。
自分はデュオが気づいてくれないからこうして今も一緒に居られる。
どちらがより切ないことなのかはわからないけれど、叶わないことはもうわかっているからこのままでいいと思ってる。
それでも好きな人には幸せになって貰いたい。
それはとてもつらいことだけれど、不幸になる姿を見たくないということに気づいてしまったらもうどうしようもない。
(なんてバカな女)
大好きな人の背中を押す役目を、自ら請け負うなんて。
(だって気づいちゃったんだもの)
どんなに近いような気がしたって自分という存在はデュオに届かない。
リリーナくらいいい女だったらと思うけど、自分は自分でしかなくてがんばって背伸びしても限界だった。
それでも出来ることからがんばってきたつもりだった。
いつか言えたらいいと思ってた。
(…気づいちゃったんだもの)
自分と同じ人を、自分と同じように見てる視線に。
それ以前から気づいていた。デュオもその人を見ていた。
本当は最初は、二人が気づかないから黙ってればいいと思った。むしろ気づかないままでいて欲しかった。
でも、そんな卑怯なままではいられなかった。何よりも自分が許せない。
…だから、きっと彼女も自ら終わりを告げる行動をしたのだろう。
結局自分達は皆バカだ。
そんな自分に満足してしまう辺りが特に。
「ねえ、デュオ」
私はあなたに言うことすら出来なかったけれど。
「さっきから暗いわね。あなたの悩み当ててみようか?」
今、あなたの背中を押そう。
『傷ついたツバメを癒したのは小さなやさしいお姫様でした。
姫を愛したツバメは言いました。
「私と一緒にいきましょう」
二人が降り立ったのは花の国。
出会ったのは花の王子。
ツバメの目の前、姫は王子の手を取りました。
(私があなたを連れ出したのは、王子の為ではなかったのに!)
姫の目に映るのは王子。
王子の目に映るのは姫。
ツバメは泣きながら飛び去りました。』
それでも、飛び去るツバメは姫を残して旅立ったのです。
王子の元から姫を連れ去ることはしなかったのです。
ツバメがいなければ姫と王子が出会うことはなかったのでしょう。
なんて皮肉な役回り。
けれど、ツバメがいなければ、物語がハッピーエンドに辿り着けなかったこともまた、事実なのです。
end.
ネズミの選択(トロワ)
それは、魔法に巻き込まれた小さな存在。
12時までのひとときの夢。
愛しい友人を導く役目を与えられたことを誇らしく想う。
……本当に?
「浮かない顔だな」
「……」
屋上でぼーっと空を見上げていると、背中から声がかかった。
気配で誰なのかはわかっていたので無言のまま空を見つめる。
無視しているわけではないようだが、いつもと違う対応におや?とトロワは苦笑した。
「邪魔をしたか?」
「…んー、別にいい」
考え事してただけ、というデュオに「そうか」とだけ返したトロワはそのまま彼の横に並んで立った。
空は高く青く、白い鳥が飛んでいる。
遮るもののない高層ビルを吹き抜ける風はお世辞にもやさしいとは言えないが。
暫く風の音を聞くともなしに聞いていると、デュオは小さく「ヒルデが」と言った。
「ヒルデが、オレは弱虫だってさ」
苦笑する彼の笑みは、その言葉が堪えてるのかいつになく弱々しいものだった。
彼はそれ以上何も口にしないのに、トロワはその時彼女が何を指して言ったのか悟った。
それは、『彼』と『彼』の周囲にいる人間達にとって共通の、そして互いに触れないようにしていた境界線に関わるものだった。
トロワは思った。ああ、彼女もついに動いたのだ、と。
きっかけは何だったのだろう。
長い間均衡を保ってきた関係は今急速に変化しようとしている。それぞれがそれぞれに道を選ぶときがきたのだと、否応もなく巻き込まれトロワは悟った。
───俺の選ぶ道はどれだろうか。
冗談に紛らせヒイロに退かないかと口にしたのはまだほんの数日前のことだ。そう、あの時はまだ冗談で済む話だった。
自ら幕を引いた少女、想い人の背中を押した少女。
二人の行動が今という時を終わらせる。ならば自分は今、どう動くべきだろうか。
告げるべきか。全て自分の内で終わらせるべきなのか。
「…うわっ」
声にはっと気づくと、突風にデュオがよろけていた。
咄嗟に肩を支えたトロワは、「サンキュー!」と間近に笑う彼を見た。気負いも罪悪感も、何もない顔。しまりのない、と五飛ならば評するのだろういつも通りのデュオの笑顔。
(…ああ、そうだ。答えなんて既に出ている)
苦い思いと共にトロワは悟ってしまった。
笑って欲しいのだ。きっと、二人共に。
『奪う』という選択肢を思いつかなかった時点で最初から答えなんて決まっていた。
それは、本当は出したくなかった答えだったけれど。
それでも。そうだ、それでも。
トロワは微笑んだ。
苦しげに歪んだそれに、強くなりつつある風に気をとられたデュオは気づかない。
───自分は今、どう動くべきだろうか。
「デュオ、お前がもし物語の登場人物だったら何を選ぶ」
「へ?」
突然の問いにデュオは首を傾げた。
「物語ねえ…ジャンルは?」
「そうだな。童話でどうだ」
「ふーん。なら、魔法使いかな」
答えた瞬間微笑んだトロワにデュオは戸惑う。
「ヒイロも同じことを言っていた」
「…へえ?」
「理由を聞いても?」
面白がるような声を上げたデュオに、理由を聞いたことに深い意味はなかった。
こういった方向を違えた質問は無意識で返されるものだ。
誰にも触れさせたくないのだと言ったヒイロ。
同じものを選んだデュオ。
無意識で選ぶ答えが同じなら、きっと二人は近い位置にいる。
トロワは二人共を知っている。だからきっと、似たような答えが返るのだろうと思っていた。
「王子と姫を幸せに出来る役目だから、かな」
…それは、とても他人事の答えだった。
近いようでいて、ヒイロの答えとは真逆の回答。
「お前は…」
「何?」
何も気づかないで言葉にしたらしいデュオは、トロワの表情の意味を理解出来ない。
自分が何を思い、答えていたのか悟られていることを気づかない。
(諦めるのか)
そのことを喜んだ自分がいて、トロワは一度目を瞑った。
背中を押されて彼は退く道を選んだらしい。
(ならば自分が次に選ぶ道はどれだろうか)
トロワは二人を知っている。近くて遠い、二人を。
答えは既に出てしまった。
問いは繰り返すべきではない。
だからそれはきっともう、考えるまでもないことだ。
『光が辺りを包むと、灰かぶりと呼ばれた少女は美しいドレスを身に纏っていました。
そうしてカボチャは馬車に、ネズミは御者になりました。』
優しく可愛い灰かぶり。
お友達は台所に住む小さなネズミ。
ネズミは、彼女を導く役を得て嬉しかったのだろうか。
自分の手で終わりへと向かい、彼女を失うことがつらかったのだろうか。
「対象を知らなくては魔法はかけられないな。誰が王子で誰が姫か、お前の目に映る真実は果たして本当に正しいのか?」
「え?」
言葉に含みを持たせ、トロワは微笑んだ。
「ヒイロの言葉を聞け。…二人だけで」
物語に強制的に組み込まれるネズミの想い、その小さな選択は、誰にも知られることはない。
end.
狩人の声なき声(五飛)
『彼に与えられた役目は、姫を殺すことでした。
けれど狩人はその命令を果たすことが出来ませんでした。
そうして城に戻った彼は王妃に嘘の報告をしたのです。』
空調完備のビルはその分窓を開けるという習慣がない。
そのため空は気持ちよく晴れ渡っていたが、室内の空気は篭っているような感覚がある。
普段なら気にも留めないそんなことにすら苛立ちながら、五飛は目的もなく歩き続けていた。彼は不機嫌だった。動いていないと何かに当たってしまいそうだ、そんな衝動を持て余し当てもなく歩いていた。
「くだらん…!これだから組織というものは…っ」
所詮は政府直属ということだろうか。
何かしらの枠に嵌められるということは、メリットも多いが制限も多い。
今回はその際たるものだろう。火消しの仕事とは無関係だが、平和維持という面で無関係とは言い切れない。言い切れないと上は思っている、そういうことだ。
その命令を聞いた時、彼はあまりの内容に怒りで目の前が真っ白になった。
「なんだと…?!もう一度言ってみろ」
「落ち着いてちょうだい、五飛」
困ったように微笑む彼女もまた、心底納得しているわけではないのだろう。だが必要だと判断したからこそ口にしている。
既に迷う段階を越えたサリィ・ポォは厳しい眼差しで同じ言葉を繰り返した。
「ヒイロとリリーナ様の仲を取り持って欲しいの。これは命令よ」
「くだらん。そんなものは当人の問題だ」
「そうね。だからそれでも、ということよ」
嫌な役目だわ。そう苦笑する彼女自身、その行いの正しさを信じることは出来ないのだろう。
「あの女はそれほど弱くはない」
「そうね…それでも、あの方に今崩れられては困るということなのよ」
「奴をその為の生贄にするつもりか」
「……」
彼女は答えなかった。
彼らがそんな判断をした一因はヒイロにもあるのだと五飛は思う。
あの男が彼女を特別に大切にしていたことは誰もが知ることだ。それが恋愛感情ではないのだと振ったとはいえ、脈はあるのではないかと誰しも思う。時間をかければあるいは、と。
(何がきっかけが必要、だ。あの男がそんなタマか)
奴が誰を見ているのか気づきもしないくせに余計なことだけはする、と五飛は舌打ちした。
どうせ内々にこんな命令が下っているのは双方と親しい人間に限られている。
───最悪だ。
自分は先程任地から戻ったばかりだ。情報にどの程度の遅れがあったのかは不明だが、恐らく真っ先に話を聞かされたのは、日々本部に詰めている彼だ。それはヒイロにとって最も最悪な選択だったことだろう。
(奴のことだ。どうせ、笑って請け負ったに決まっている)
───ああ、全く。最悪だ。
あの二人は隠し事が上手すぎる。
結局それに気づくきっかけなんて、当人を見ていて気づいたか、同じ存在を見ていることに気づいたかだ。
だからこんな馬鹿な依頼まで当事者にいってしまう。
「……」
五飛は立ち止まった。
今度は目的地を決めて、しっかりとした足取りで今来た道を戻りだす。
これは、付け入る隙を見せたヒイロの落ち度だ。
(ならば奴がなんとかするのが筋だろう)
政治的判断などどうでもいい。
己は正しいと思ったことをする。ただそれだけだ。
海の泡になった姫君は、何が悪かったのだろう。
海に住む者でありながら陸に憧れたことか。
魔女を頼ったことか。
それとも、愛する王子を殺せなかったことが悪かったのだろうか。
それは違う。
『何も始めなかった』ことが悪いのだ。
確かに魔女に奪われた声があれば状況は変わったかもしれないが、決定打にはならないはずだ。
諦めて身を引かなければ姫にもチャンスはあったかもしれない。
自ら身を引いた姫が悪い。
足掻けばいい。見苦しくても、みっともなくても、報われなくても、一歩進むことは出来るはず。
それで愛を得られるかは当人次第だ。
……それでも、押し込めた声に王子が気づいていたら?
誰もがそんな結末を夢見てしまう。
「ヒイロ。話がある」
「……」
開口一番、睨みながら告げた五飛にヒイロは怪訝な顔をした。
それでも彼は立ち上がった。
(泡にするなんて、許さない)
声なき声に気づけ。
きっとこれが、最後のチャンス。
走り去ったヒイロを見送って、五飛は溜息を吐いた。
「…これで良かったはずだ」
そう、これで良かったはずだ。正しいことをしたはずだ。
なのにこの虚脱感は何だろう。
(…理由などわかっている)
声を出せなかったのはデュオだけではない。
自ら身を引いた愚か者は。
「俺は、正しい」
五飛はきつく目を閉じた。そうして出口を求める声なき声を押し込める。
きっと一生、誰にも告げることはない。
『偽りはいつか暴かれるもの。
それでも彼は言いました。
「美しい姫、森へお逃げなさい。二度と戻ってはなりません」
姫の死を告げられた王妃は喜びました。
喜びはやがて同じだけの怒りへと変わります。
姫の為に命を賭けた狩人の嘘。
同情だけで、済むはずがある?』
end.
ガラスの靴はないけれど(ヒイロ+デュオ)
舞台に役者はそろい、物語は終幕へ向かう。
王子は今はただ走るのみ。
十二時の鐘が鳴る前に、泡になる前に、イバラの先を目指してひたすらに。
そして無機質な終業の鐘がフィナーレを告げる。
飛び込んで来たヒイロにデュオは相当驚いた。
ヒイロが突然現れたこともだが、何よりその必死の形相に。それはタダゴトではないと一目でわかるものだった。
「…何?ええと、どうかしたのか」
手に持っていた資料を一旦デスクに置いてデュオは椅子ごと振り返った。
今この資料室にいるのはデュオだけだった。調べ物があるにしてはヒイロの様子はおかしいし、この場合どう考えてもデュオに用事と考えるべきだろう。
心当たりがなくてきょとんとしたデュオを、僅かに乱れた息を整えながらヒイロは睨みつけた。
殺気のようなそれにデュオの背中に緊張が走る。
本当に何なのだろうか、内心慌てながら習慣のように笑顔を貼りつけたデュオはヒイロの様子を伺う。
ヒイロが息を乱すほど取り乱すこと自体がそもそもおかしい。一体どこから走ってきたのか。
「屋上だ」
「ビル一個分かよ!」
疑問が顔に出ていたのか答えたヒイロにデュオは思わず叫んだ。
資料室はビルの地下に設置されている。高層ビルの屋上から最下層まで…様子からするとおそらく走ってきたのだろうか。
本当に何なんだ一体。
「……」
睨みつけてくるヒイロの迫力に押され、座ったままなのが居心地悪くなってきてデュオは立ち上がった。
すぐ傍に立つヒイロと視線の高さが同じになる。
「…えーと、オレに何か用?」
用があるから来たのだろうが、無難なところからデュオは切り出した。
「妙な任務を受けたそうだな」
「……あー…」
それか、とデュオは思い当たった。
あんな内容を本人に知られるとはなんてダメな情報管理だろう。
気まずそうに目を逸らしたデュオを許さず、ヒイロは彼の顎を掴んで顔をあげさせた。
「何故引き受けた」
無理矢理な体勢に腹が立たないと言ったら嘘になる。
だがそれはヒイロと視線を合わせた途端消し飛んだ。
「何でお前がそんなにつらそうなの…?」
デュオは驚いた。顰められた眉。固く引き結ばれたくちびる。頑固そうな気難しそうなそれは、どこか痛々しい。
見てられなくて彼の頬に手を伸ばすと、頭を振って拒まれた。
行き場を失った手が重力に従って落ちる。
「何故引き受けたんだ…」
「それは、お前が…」
(煮え切らない態度だから。)
(幸せになって欲しかったから。)
(早くくっついて貰って、いっそ楽になりたかったから。)
続けられそうな言葉は多かったが、それ以上は言葉にならなくてデュオは瞳を伏せた。
だがヒイロはその逃げを許さない。
詰問され追い詰められているのはデュオのはずなのに、何故だかヒイロの方が余程切羽詰った印象を受けた。
「お前は俺とリリーナが共に在るべきだと事ある毎に言う。俺の意志は無視か」
「無視なんてしてない。だってお前は」
「俺がリリーナを好きだといつ言った」
「言ってはいないけど!お前が彼女大事にしてるのは誰だって…」
「誰だって?不特定多数を言い訳にするな。お前が勝手に思っているだけだ」
「そんなもん近くで見てればわかるだろ」
言い返しながら、デュオは何故自分がこんなに責められなければならないのかわからなかった。
確かに任務というか依頼は受けたが、まだ何かしたわけではない。しかもヒイロの様子ではどうも『デュオが』この件を引き受けたことが悪いようだ。
(オレが受けて何が悪いっていうんだよ!)
それとも。
───オレなんかがお前のしあわせを願ったらだめだって?
すうっと頭から血が引いた。
仲間と呼べる間柄のメンバーの中で、一番避けられている自覚はあったけれど。
まさか、そこまで嫌われて…?
「近くで見て何がわかると言うんだ。お前が俺の何を見ていたと言うんだ」
何も見ていないくせに、とヒイロは叫んだ。
予想していなかった怒鳴り声にびくりとデュオの肩が揺れる。
無意識のうちに逃げようとしたのか、デュオの体が一歩後ろに下がった。それを許さず肩を掴んで留める。
「痛いって…」
馬鹿力は当然がら健在のようで、怒りに箍が外れているヒイロの腕は肩に食い込むようだった。
身じろいでもそれは離されなくて、デュオが舌打ちする。
「ああもう!お前なんかとっととお姫様と幸せになってどっか行けって言ってるんだ!オレの前から消えろ!!」
そう叫んだとき、ヒイロが浮かべた表情をデュオは一生忘れないだろう。
何かが抜け落ちていくような、硬直したような、空虚な…言葉に出来ない表情だった。
その時、確かに二人の間で時は止まっていたのだろう。
「姫、か…」
形容し難い表情のままヒイロがぽつりと呟いた。
はっと気づいたデュオがもがくが、腕はやっぱり外れない。
「お前も俺を王子扱いか」
苦い声だった。
引こうとしたデュオの足が背後の椅子に当たってガタリと音を立てる。
「王子なんていらない…なりたくもない。デュオ」
腕が引かれた。
強い力に引き寄せられ、そのまま彼の胸に倒れこむ。
デュオは呆然と抱きしめられた。
「お前が姫であるのなら。俺は喜んで王子になるだろう。…違うのなら、そんなものはいらない」
「え…?」
なりたかったのは魔法使い。
眠らせた姫に近づく王子なんて始末してやる。絶対に触れさせない。
…だが、もし王子になれるものならば。
そんな叶わない望みが、消えることもなくて。
ぎゅうっと抱きしめられてデュオはただ、ひたすら呆然とした。
何を言っている?
ヒイロは何を言っているんだ。
『弱虫ね、デュオ。だからあなたはガラスの靴に気づかない』
ふいに数日前聞いた少女の言葉が蘇った。
ガラスの靴…ガラスの靴?
───それは、誰に与えられるものだった?
寄せられた体温に熱が篭った。
ヒイロの焦り。詰る声。とても珍しい怒鳴り声。告げられた言葉の意味。
ああ、まさか。
まさかまさかまさか!
泡になれなかった姫は最後の最後で気づくのだ。
自分を待つ姫の存在に。
自らが姫であることに気づかない王子は、魔法使いになりたいと願う。
『王子を始末するために』。
『二人を幸せにするために』。
目的は違えど願いの発端は同じで想いはすれ違い周囲を巻き込みやがて大きな渦となる。
小人は大切な姫の幸せを願い、ネズミは走り出す姫の背中をただ見つめるのみ。ツバメは空を見上げ溜息を吐き、狩人は苦く笑う。
そして王子になりたかった姫はひとり涙を零すのだ。
───お姫様と王子様が結ばれる。
それは絶対的な、不文律。
巻き込まれる周囲は不幸で、そして少しだけ幸せだ。
(だって、あなたに出会えないことの方がつらいのだから!)
その全ては二人をラストシーンへ導くための一滴。
物語の中核を為す二人の人物は、自らに与えられた役割に最後まで気づかない。
姫で王子で魔法使い。
ごちゃまぜなキャストは周囲を巻き込み自らを苦しめただ一人へと導いていく。名づけるならそれこそが運命というものだ。
デュオはヒイロに抱きついた。
それは抱きしめる腕の強さよりなお強く、ぎゅうぎゅうとしがみつくそれにヒイロが驚きに目を瞠る。
「ヒイロ…っ」
見えない顔は泣きそうに真っ赤だった。
僅か数分後、二人は同じ表情で向き合うことになる。言葉も無く、ただ二人だけで。
物語はここで終わるが彼らにはこの先も道が続く。
だが今はひとまず、ハッピーエンドの文字を飾ろう。
勿論最後の言葉は決まっている。
───そうして二人は、末永く幸せに暮らしたのです!
end.